絶望と巡り合わせ

 「一旦休憩!」

 いつものように練習を中断させ、休憩時間を宣告するブザーが道場内に鳴り響いた。

 でも俺は、座り込んだりせず、鼻先にまで垂れてくる汗の不快感に、ただ浸っていた。

 「…永見、やっぱり調子悪いんじゃ無いか?明らかに練習に身が入ってないぞ」

 「大丈夫です、やれますよ。大会だって近いんですから」

 「…いや、しかしなぁ…お前の顔色、明らかにどんどん悪くなっていってるんだ」

 「…」

 「…俺は顧問だ。大切な選手を、しっかりと休ませる権利と義務がある」

 「でも、大会が」

 「近くに控えてるからこそ、今は休め。とりあえず、着替えて保健室に行ってこい」

 「…分かりました」

 俺は顧問から強制的に練習の中断を命じられ、その指示通り着替えてから保健室へと向う。

 しかし、一度練習を中断してしまうと、激しく身体を動かしていた時よりも、俺の感じていた症状は悪化していく。

 全身の疲労感はもちろん、頭痛、吐き気、眩暈、倦怠感…。

 「おっと…」

 階段を登る途中、足取りを崩した。

 思ってたより、やばいかも。

 意識が朦朧とする。

 「……っと………!」

 …誰だろう。

 「……う…ぶ!?」

 上手く聞き取れない…誰の声だろう。でもなんだか、無性に安心する…。

 もっと集中して聞かないと…。

 「蓮、大丈夫!?」

 ………あ、あ…。

 心の底からの本気の心配だと分かる表情で、俺に優しく声を掛けてくれた人。

 今一番求めていて、今一番受け付けられなかった人。

 「な……ん、で…」

 なんで理恵が来るんだよ。

 「…うぷっ!」

 俺はその人物を認識した瞬間、自分の中で暴れ回っていた物が実体となり、もう抑え込む事が出来なくなっていた。

 俺は、廊下で嘔吐した。

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