現実

 『お前、知ってるか?』

 午後9時半。この時間帯はいつも筋トレをしている。

 そんな時、いつもの事ではあるが唐突に、メッセージの通知が飛んできた。

 『なんの事だ?』

 一旦トレーニングを中断し、俺は汗をかいた状態で返信する。

 『あれだよ、理恵ちゃんの事』

 『理恵の事?』

 『そう』

 こいつから理恵の話題が出てくるなんて珍しいな。

 『なんだ、夏祭りの事か?そういえば、まだ誘ってなかったな』

 わざわざ夜にまで催促してくるなんて、なんでそんなに急いでるんだ。

 『やっぱり知らなかったか…』

 『?なんだ違うのか、じゃあ一体なんなんだ?』

 『理恵ちゃん、3年のバスケ部の先輩に告ったらしいぜ』

 …は?

 『は?』

 『何、どういう事?』

 『そのまんまだよ』

 いや、え?

 『理恵が告られたって事?』

 『理恵ちゃんが告ったって事』

 部屋の明かりが俺の瞳で乱反射して、痛々しい程に眩しくなる。

 『今日見た理恵ちゃんの隣に居た男、あいつだ』

 視界が不安定な中、ぼんやりと光る液晶だけが、俺の目に侵入する。

 『お前、理恵ちゃんがずっとあの先輩に片想いしてたの知らなかっただろ』

 …………。

 『だから、夏祭りに誘えって催促したんだ』

 ……。

 『まだ理恵ちゃんの中で答えが出ていない内にな』

 …っ!

 『結果は』

 『告白の結果か。残念ながらYESだったらしい』

 俺は今世界で一番見たくなかったその文字の羅列を認識した瞬間、多少の吐き気と共に込み上げてくる衝動を抑えきれずに、気付けば手に持っていたスマホを思い切り壁に投げつけていた。

 スマホの保護フィルムが割れ破片が飛び散り、壁の一部分が凹む。

 俺が本気で何かに力をぶつけたのは、空手の試合以外では初めてだったかもしれない。

 そして、その日から、俺の眠れない日々が始まった。

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