不穏な空気

 「じゃあ、明日までに課題終わらせておけよ」

 授業が終わり、昼休みが始まった。

 「おい蓮!今度の夏祭り一緒に行かないか?」

 「無理、試合の前日だし」

 「まったくお前って奴は…このバカ真面目野郎」

 「仕方ないだろ?俺にとってはそれぐらい大事な日なんだよ」

 「だったら、理恵ちゃんと一緒だったらどうだ?誘ってみたら良いじゃねぇか。そんな固い事言ってないでさぁ」

 「…それでも、無理なものは無理だ」

 『試合頑張ってね』

 欲に打ち勝つために、俺を揺らがせる事の出来る唯一の真犯人の言葉を思い出し、改めて胸に刻む。

 「はぁ…もういいよ。って、あれ理恵ちゃんじゃね?」

 「ん…?あ、本当だ」

 教室の窓にもたれ掛かっていたこいつは、俺の返答に呆れたのか落胆したのか、諦めて外を眺めていると偶然理恵を発見したらしい。

 「隣にいるのって確か…あ」

 隣には男子生徒がいるが、あまり見覚えが無いので同じ学年で無い事は分かった。

 理恵はその生徒と一緒に歩いているが、とても楽しそうに笑っている。

 「おい、蓮。やっぱり夏祭り行くぞ」

 「え?なんで急に、俺にはその次の日試合があるって…」

 「いいから、行くったら行くんだ!俺は良いから、その時は理恵ちゃんと二人で行け。絶対にだ」

 こいつの顔は、不思議な程に真剣だった。

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