あの花に似た君に

 「よし!今日の分は終了!」

 デジタルタイマーのブザー音と共に、道場に掛け声が響く。

 俺たちはその音と同時に襲い掛かる全身の疲労感でダウンし座り込むと、呼吸を乱しながらも清々しい達成感に包まれた。

 「永見、大分仕上がって来たんじゃないか?」

 顧問の先生が、嬉しそうな顔付きで近づいて来た。

 「ありがとうございます。確かに、試合に向けて調整は進んでいますけど、それでもまだ粗さは拭い切れていませんから、油断出来ません」

 「うむ、良い心掛けだ。お前が入部したてで、周りに追い付けず悩み苦しんでいた頃からやっとレギュラーの座を手に出来たのも、その諦めない”強い心”があったからだ。俺はお前が強くなってくれて本当に嬉しいぞ」

 俺はその言葉を聞いて、あの頃を思い出した。

 俺の知る”強い心”を再確認するために。

 「いえ、僕自身、まだまだ自分の目標とする強さに比べると、今の実力じゃとても強くなったなんて思えません。ですが、いつか必ずその目標にまで達するために、これからも頑張って、精進します!」

 「俺に口答えするとは良い度胸だ永見!だったら、大会までの期間、今まで以上にみっちりしごいてやるから覚悟しておけよ!」

 「うっす!」

 俺は高校に入学すると、空手部に入部した。

 中学までは出来るだけ活動の少ない部活に所属し、風紀委員、学級委員長、生徒会…色んな役に就いて奔走していたから、部活動にここまで傾倒するのはかなりの方向転換だ。

 それもこれも全ては、俺にたった一つの目標があったから。

 「蓮、お疲れ!」

 「理恵も、お疲れ」

 他人からすれば、ちっぽけだって、お前は子供かって馬鹿にされるかもしれない。でも俺は、あの頃からずっと脳裏に焼き付いて離れない物に憧れ、追い求めてきたんだ。

 だから俺は、もっと強くなりたい。強くなって、いつかその憧れの対象と対等になりたいんだ。

 「それにしても、蓮すごいよね。レギュラー入りするなんて」

 「いや、まだまださ。本番はレギュラー入りじゃ無くて、試合だからな」

 「さっすがー!試合頑張ってね」

 「もちろん」

 理恵の笑顔は、俺を奮い立たせてくれる。

 挫けそうになった時、俺を支えてくれる。

 「…どうしたの?私の顔なんか付いてる?」

 「いや、何でもないよ」

 「変なの」

 でも俺は、こうやってただ笑い合うだけじゃ無い、それ以上の真の関係を求めてるんだ。

 いつか、追い付いてやる。

 「でも、そういえば理恵、髪型変えたよな。化粧とかも…元からしてたっけ?」

 「え?い…いや、今日は気分転換にね」

 「そっか。俺はそういうの疎いからよく分かんないけど、すごい似合ってるよ」

 真の強さを手に入れて、いつか理恵と対等になるまで、俺は全力を出せる。

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