花火
くまいぬ
あの頃
「うわぁぁん!」
「もう!男の子なんだからいい加減泣き止むの!」
俺は自分の服にこびり付いた冷たくてベトベトの感触を不快に感じて、更に大きな声で泣き始める。
「僕のかき氷ー!」
「かき氷なんてまた買えば良いし、服は洗濯したらいいでしょ!」
理恵は、そんな情け無い俺を説教しながら、手を引っ張り続ける。
数分と歩くと、出店や提灯の灯りは段々と薄くなって、地面に生えている雑草も多くなってきた。
「よし!着いた!」
「ここどこー」
先ほどまでの獣道と違い、少し開けたような場所に出る。
でも、俺は相変わらず顔を涙や鼻水で濡らしていて、現在の居場所すら認識出来ていない。
「もう、ちょっと顔こっちに寄せて」
理恵は呆れたような、優しい口調で俺を呼び寄せると、ポケットからハンカチを取り出し、俺の顔を丁寧に拭う。
すると、俺の気持ちも段々と落ち着いてきた。
「それで、ここってどこなの?」
俺は薄暗い夜の森に少し恐怖しながら改めて聞き返すと、理恵はにっこり笑って。
「あそこ見てて!」
と指を刺す。
指示通り指を刺された方向の空を見ていると、下の方から光がゆっくり登って来た。
その光は、まるで蔓が成長していくみたいに力強く上がっていって、やがて大きな花を咲かす。
「すっごー!」
子供の目から見えたから、で済まされる事かもしれないけど、子供の頃の思い出だから、で済まされる事かもしれないけど、本当に綺麗だった。
「この場所、すごい良い眺めでしょ?私と蓮以外には秘密だからね」
理恵は唇に人差し指を立てて、ウィンクする。
その瞬間、俺の心の中で燻り続けていた感情は、力強い一輪の花火の光と音に演出された高揚感にあてられたのか、目の前で花火のような笑顔を向ける力強く美しい女の子を目の当たりにしてしまったからなのか、もしくはその両方が火薬となったのか分からないが、確かに音を立てて燃焼を始めた。
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