2人用声劇台本【あじさいの色は移ろう】

汐音 葉月

あじさいの色は移ろう

【キャスト数】

1:1(男:女)


【所要時間】10分程度


【配役】

紫織(しおり):女(20代)

陽平(ようへい):男(20代)


【本編】

0……ト書き

M……モノローグ



0: 6月、梅雨。陽平の家でまどろむ2人。

0: 外はしとしとと雨が降っており、紫織はじっと窓辺から眺めている。



陽平:雨、止まないな。


紫織:別にいいんじゃない?外に出る用事もないでしょ?


陽平:そうだけど。


紫織:退屈?


陽平:つまらん。


紫織:そう言うと思った。


陽平:いつまでボーッとしてんだよ。


紫織:ボーッとするくらい良いじゃん。雨の音に浸ってるの〜。


陽平:チッ(舌打ち)


紫織:はぁ(ため息)


陽平:あー!なんか、むしゃくしゃする。それもこれも全部——


紫織:(被せるように)低気圧のせい。


陽平:〜〜〜!!(頭を掻きむしる)


紫織:あと、飲み過ぎ。


陽平:うるせぇ。


紫織:昼間から飲んでんのが悪いじゃん。しかも二日酔いで飲んでさ。ようちゃん、酒臭いよ。


陽平:そんなん俺の勝手だろ?


紫織:やっぱ就活出来てないじゃん。あ、転職活動か。


陽平:っるっせーな!!あ〜〜頭いてぇ……


紫織:やだよねぇー。頭ぐわんぐわんして。


陽平:あーー鬱陶しい。はよ梅雨終われ。


紫織:えー?


陽平:何が「えー?」だよ。


紫織:低気圧は嫌だけど雨は好き。


陽平:雨が好きとか信じられん。


紫織:雨の音、落ち着くじゃん。あと紫陽花きれいだし。


陽平:花に興味ねぇーんだわ。


紫織:……知ってる。でもさ、紫陽花飾ってくれたんだね。


陽平:別にどーでもいい。


紫織:紫陽花の花言葉って知ってる?


陽平:花言葉ぁ?知らね。


紫織:『移り気』『浮気』


陽平:うーわ。碌でもねぇ。


紫織:紫陽花って、土によって色が変わるんだって。だから移り気なんて言われるのねー。


陽平:お前みたいな花だな。


紫織:(鼻で笑いながら)ふふっ。でしょ?


陽平:……ったく。


紫織:私は、青い紫陽花も赤い紫陽花も好きだな〜


陽平:…… 。



0: しばらく無言の2人。



紫織:ねぇ。


陽平:なんだ。


紫織:お酒ばっか飲んでないで、働きなよ。


陽平:働いてる……


紫織:日雇いじゃなくて。


陽平:…… 。


紫織:……私のせいだよね。ごめん。


陽平:お前さぁ!すぐ「私のせい」って言って逃げるじゃん。


紫織:でも……


陽平:今でも勝手に俺の前に現れてよぉ……


紫織:……そんなに落ち込むって、思ってなかったんだもん。


陽平:あー!もう……


紫織:…… 。


陽平:勝手に死んで、勝手に現れやがって。


紫織:……うん。


陽平:…… 。


紫織:だってさ、本当に死ぬって思わなかったんだもん。


陽平:死ぬ死ぬ詐欺して、本当に死んじまったもんな。


紫織:なんかあの時、情緒不安定だったみたい。


陽平:浮気して、別の男と一緒に死ぬんだもんな。


紫織:うん。なんか、天気が不安定だと私の情緒も不安定みたい。


陽平:ほんとかよ……


紫織:……ようちゃんって、私のこと好きだったんだね。


陽平:…… 。


紫織:私が死んだら、あんなに落ち込んで。


陽平:お前、本当に最低だよ。


紫織:だって、私のことずっと「お前」って言うし。


陽平:…… 。


紫織:おうち行っても、ようちゃん無言でゲームしてばっかだったし。


陽平:…… 。


紫織:ようちゃんのご飯作って、お皿洗って、えっちして、それで終わり。


陽平:〜〜〜!!(頭を掻きむしる)


紫織:浮気したのは、ごめん。


陽平:俺も色々悪かった、ごめん。


紫織:寂しかったからさ、その辺の人に付いてっちゃった。


陽平:……馬鹿。


紫織:人間って、簡単に死ねちゃうんだね。


陽平:ほんとありえんわ、馬鹿。


紫織:もー!馬鹿馬鹿うるっさいわね!


陽平:……もう、飾らない。


紫織:えっ?


陽平:紫陽花。


紫織:うん。


陽平:つらくなる。


紫織:そうだね。


陽平:…… 。


紫織:気分、変わった。


陽平:は?


紫織:ようちゃんの前に出るの、やめる。


陽平:…… 。


紫織:さみしい?


陽平:うるせー。ってか成仏すんのか?


紫織:ようちゃんが、真人間になったら。


陽平:……ったく。


紫織:昼間っからお酒飲むの、やめなよ?


陽平:それは分からん。


紫織:クズ。


陽平:クズでけっこう。


紫織:ばーか。


陽平:…… 。


( 紫織:ようちゃん。私、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎ )


※⬛︎内アドリブ・字数制限なし

アドリブ無しの場合は上記の台詞をカットで


紫織:じゃあね。



陽平(M):一人残った俺は、止まない雨の音を聞いていた。

ふと、花瓶に入っている紫陽花に目をやる。暗い部屋の中に、赤と青がひっそりと咲いている。俺はそれを掴んでゴミ箱に投げた。

……移り気な紫陽花は、やっぱり嫌いだ。


〈 完 〉

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2人用声劇台本【あじさいの色は移ろう】 汐音 葉月 @shione_hazuki

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