第19話 盗賊退治。その二

「どうする? 中に入るか、待つか?」

「中へ入ろう。サンタラはバトルアックスだし、フフタラは二人一組でこの辺りから弓を使え。ヴェリとレオンは、一緒に中へ行こうぜ。入った瞬間が危ないからな。気を付けろ」

 ダレルが流れを決める。


 家に近付くと、当然だが糞尿の匂いそれと腐ったにおい。

 そんな物を感じながら、中へ入る。


 一つの部屋には、どう考えても拷問の末に殺された遺体が幾つもあった。

「ひでえ」

 僕たちも、つい目をそらす。

 同じ人間として、どうしてそんなことが出来るんだ。そんな形跡。


 横の部屋では、もう掃討は終わっていた。

 さっき連れて行かれた女の人は、亡くなっていた。

 盗賊に切られたようだ。


 突入に驚いた盗賊は、女の人を兵にぶつけ、女の人ごと兵を突き刺そうとして失敗した。女の人だけが犠牲になった。


 そして、逃げた奴らが、先ほどの男達。


 そして、捕らえられていた人から、盗賊の根城はもっと奥で、朝から夜まで見張りのみが村に来ていたようだ。

 自分たちは、見張りの暇つぶしの道具だと教えてくれる。


 それを聞き、警戒範囲を拡げる。


 すると、森の中。木の上に通路が作られ、建物が空中に作られていた。


「これはすごいな」

「これだけの物を作る間、放置をしていたのか。失態だな」

 いつの間にかやって来た、メルヴィンさんがぼやく。


「とりあえず、フフタラは弓だから、上に上がって敵を狙え。俺達は、順に回るしかないな。とにかく上がるぞ」


 大部分は、縄ばしごだ。

 大荷物などは、板に乗せ滑車で引き上げていたようだ。


「これは、いよいよ帝国兵か」


 メルヴィンが危惧したとおり、帝国から逃げ出した農民や奴隷。徴兵されてやって来たが、戻ることを嫌がった。

 そして盗賊として、今まで、自分たちがやられたことを、残虐にやり返していた。

 奴隷は、動けなくなれば、ムチで打たれ蹴飛ばされ。ひどい仕打ちを受けた。


 それを、捕まえた商人や王国の農民にやり返した。

 大抵そんな行動は、歯止めがきかず、時と共にひどくなっていく。


 俺の方が偉い。何だその目は?

 少しのことで暴力を振るい、自分の優位性を示そうとする。


 従順な者は生かし、逆らうモノは殺す。

 見せしめとして、考え得る限りむごく。

 ロープで吊り下げられ、腹の半ばまで杭が刺さった死体。

 見せしめだろう。


 どうすればむごいか。そんな話が、酒盛りの中で話し合われ、実践をされる。

 まさに、やってみたシリーズ。


 そして、今。

 数年掛けて、この地で恐怖政治を敷いていた。

 盗賊達は、いくつかの農地も開墾し、作物を作らせる。


 それは、近隣で売り、酒などに換える。

 王国内では、人が売れないので使い潰す。

 帝国には入れないし、入りたくない。


 だが。

「手入れだあ」

 この夢の国は、幾人かが仕切っており、明確なトップはいない。

「ちっ。ここまでしたのに。逃げるぞ」


 目端の利くモノは、速やかに逃げに入る。

 取り決めた経路は、仲間しか知らない。


 その一団は、運が良いのか悪いのか、レオン達の前にロープを使い滑り降りてくる。


「お前達、盗賊だな」

「チッこんな…… 何だガキじゃねえか。やれ」

 兵かと思ったが、レオン達だったために安心をする。

「「「おう」」」


 盗賊はざっと十人。

「おらガキ。手が震えているじゃねえか。見逃してやるからどけ」

 言葉ではそう言っているが、切る気が満々。ある種の殺気? を感じる。


「おい、レオン。あいつは俺達を切る気満々だ、油断するな」

 ダレルも気が付いたようだ。


 至近距離で、フフタラの短弓から射られた矢が盗賊に刺さる。

 連射向きの、弱い弓を今回持って来ている。


「ぐわぁ」

 丁度一人の、右目に刺さったようだ。

「危ねえな。もう逃がさねえ。覚悟をしろ」

 そう言いながら、すでに切りかかってくる。


「ダレル。剣で受けるなよ。刃こぼれする」

「おう。落ち着けば、こいつら遅い。大丈夫だ」

 そうは言うが、人相手は勝手が違う。


 その振るってくる剣の軌跡には意思があり、モンスターのようには対応できない。

「オラオラオラ。威勢は良いが、へっぽこじゃねえか」

 切ろうという意識はあるが、切ろうとすると勝手に体が手控えてしまう。


 訓練の寸止めの癖か?

 くそ。切って怪我をする姿が見える。

 相手は盗賊。あのひどい被害者達。やったのはこいつらだ。


「ぐぁぁ」

 盗賊の一人。剣を持った手が切り落とされた。


 返す刀で首が飛ぶ。

 やったのは、ダレル。

 だが、ダレルの方が顔面蒼白で、手が震えている。

「畜生感覚が」

 それは、切った感覚だろう。

 嫌そうな顔をしながら、別の奴に斬りかかる。

 敵は倍だ。


 フフタラが矢を放ち、サンタラは盾で防ぎ、ヴェリが今、相手の剣ごと相手を切る。

 出来ていないのは、ぼくだけ。


「ちっ」

 腹を決める。

 逃せば、僕のせいで、あの被害者達が増える。


「ふっ」

 軽く息吹という呼吸を使いながら、脱力し接敵をする。

 ダレルと同じように、剣を持つ相手の手首を狙う。

 そこから円を描くように首をはねる。


 止めることなく、驚いている横の奴。

 腹を刺し、俯いたところで首をはねる。

「次」

「てめえ。がっ」

 剣を振り上げた相手。腕ごと首を切る。


 ぼくの剣は特別製。

 他の剣とは切れ味が違う。

 片手で使えるように細身にして軽い。

 ただ相手の振りを受けると剣が負け折れる。

 受け太刀はしてはいけない。


 皆の動きもドンドン良くなる。

 だが、この短時間でものすごく疲れた。

 いまの体力なら、半日くらいなら、全力で動けるはずなのに。


「終わった。次に行くぞ」

「「「おう」」」

 疲れた。これは皆思っていた。

 訓練と実践は違う。


 緊張と集中。

 それが、体を蝕む。



「ほう。心配をしたが、なかなか」

「いや最初のへっぽこ具合と、あの無駄さ。要特訓だな」

 離れてみていたメルヴィンさんが、隊長ハーヴィー=マクレナンさんにぼやく。

「かわいそうに」


 そうして僕らは、幾度となく盗賊退治をさせられた。

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