第18話 はじめての盗賊退治
「おい。お前達。今日は訓練が休みだ」
いつもの様に、重い体を引きずり、門の前にやって来た。
だけど、メルヴィンさんは、いきなりそう宣言をして、指をさす。
そこには隊列を組んだ、領兵の皆さんと幾人かのハンター達。
「僕たち、依頼を受けていませんよ」
「いい。仕事じゃなくて訓練だ。今回の討伐隊長である、ハーヴィーには話を通してある。足を引っ張るだろうがサポートを頼むとな」
今回の隊長は、ハーヴィー=マクレナン。
騎士爵の長男であり、手柄を立て、騎士爵が欲しい人物。
この称号は、受けた本人一代限りで、世襲は許されない。
そして今回の対象は、結構大規模に展開をしている野盗と山賊。
頭は一つだろうと考えられている。
構成員はおおよそ二百から三百。
兵団の百人が周りを囲み、残りの兵とハンター達が突入をする。
良くある、戦法だそうだ。
毎年くる帝国兵。
逃げた奴らが盗賊になることも多いらしい。
その場合、食い詰め農奴と違い、凶悪で強いらしい。
「この前仰っていた、人を殺す経験でしょうか?」
「そうだ。子供の頃から、基本人を傷つけてはいけないと習う。だがそれは、相手がまともな場合だ。腐った奴は、遠慮などしない。こちらがためらえば、一瞬で奴らは命も家族もすべて奪っていく。その時、動けるかどうかは経験だ。慣れろ。それを経験してこい。ハンターや兵には必須だ」
そう言って、付いて来いとばかりに、隊長さんの所へ向かう。
隊長さんがあわてて馬から下り、メルヴィンさんに頭を下げる。
「隊長のお前が降りてくるな。今の俺は単なるハンターだ。こいつらだ、よろしく頼む」
マクレナン隊長は、こちらをじろっと見ると、ムチを持っていた右手が一瞬動く。
カンと音がして、ダレルの剣がムチを受け止める。
「ほう。鍛えていますね。サポート必要ですか?」
「こいつら、対人は初めてなんだ」
「なるほど、では、最初のうち数人付けましょう。君達。生きたければためらうな。奴らは悪魔のように狡猾で、命乞いをしながら剣を突きつけてくる。信用するな」
「「「「はい」」」」
「では行きましょう。団長もご助力をお願いいたします」
「ああ。爵位を貰ったら、おごれよ」
「その位で良ければ、いつでも。受けた恩は返しきれませんから」
「忘れろ。じゃあ行くぞ」
なぜか、メルヴィンさんの号令で皆が動き始める。
「ちょっと待って」
あわてて、マクレナン隊長は馬に乗る。
その様子を笑って見送る。
「仲が良いんですね」
「ああ奴は、巻き込まれ体質というか、行く先々で騒動に巻き込まれるんだ」
「へー。そうなんですね」
そして、僕たちはハンターの列に混ざる。
おおよそ一日歩き、野営をする。
この辺りで、すでに奴らの勢力範囲だそうだ。
交代で見張りを行う。
「巻き込まれって、何があるんですか?」
「うん? 買い物に行けば強盗。つまり盗賊が押し込んできたり。商家の荷馬車が困っていて助けたら奴隷販売だったり。まあ、上手く収めりゃ手柄の元が寄ってくる。衛兵としては、天に好かれているな」
「へー。ジョン=マクレーンさんでしたっけ?」
「ちがう。ハーヴィー=マクレナンだ。覚えておけ」
「はい」
そう言っていたら、翌日この辺りに出ないモンスターが出始める。
「奥で声が聞こえる。奴らわざわざ飼っていやがったな」
ベア系のモンスターが追われて突進をしてくるが、参加した人たちは強く、あっと言う間に倒されていく。
ここから、少し展開をしながら追い込んでいく。
「古い地図に、この奥に開拓村が乗っています。昔盗賊に襲われて滅んだ村ですが」
「そこかな?」
思った以上に規模が大きく。
街道へ出る方向に、わざと隙間を空けて包囲する。
「奥に逃げられたら逃げられる。街道側なら見通しが良いからな」
マクレナン隊長が作戦を伝えて、奥の山側から包囲を開始する。
放棄されたはずの村では畑が耕され、作業をしている人たちがいる。
おかしいのは、皆が服を着ず。首輪と手枷、足枷が付けられている。
「ああやって、逃亡防止にしているんだ」
「ひどい」
「こんなのは、きっと序の口だ」
村の外れにある穴には、死体が無造作に、それもゴミのように捨てられて悪臭を放っていた。
新しい物が男も女も幾つもあった。
村に点在する建物。
その柱には、鎖で結ばれた人たち。
家の中からは、下品な声が聞こえる。
いきなり、戸が開き女の人が連れて行かれる。
ただもう、逆らう気力も無いのか、引きずられるように連れて行かれる。
残った男の人は、家族なのか悔しそうだ。
「行くぞ」
突入を開始する。
むろん他の家でも同時に。
すると、反対側の戸を蹴破り、服を着た連中が飛び出してくる。
人質を取り刃物を当てているが、頭に矢が刺さる。
「上手いな」
矢の狙いの正確さに驚く。
「ほら行け。見ての通り服を着ている奴らが盗賊。もし脱いでいても、枷が無いならためらわず切れ」
僕たちは、走って行く。
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