第17話 国王軍の敗退

 話を聞き。ヤクウィン伯爵は、待ちから攻撃に掛かる。

 中央はそのまま。


 両脇から中央から順に両翼を伸ばす。そこから弓隊が遠距離攻撃をしていく。

 ぱっと見は、中央で帝国軍に対して、中央突破がなせたと一瞬誤解するような陣形。


 だが実際は、伸びた両翼。そこから撃ち込まれる矢。そして槍へと続き。中央部分は両側からの攻撃を受け、分断され殲滅をされる。


 後方で酒を飲みつつ見ていた、アンセルモ=リザンドロ伯爵とペートルス=ナウマン子爵両名。

 流れを見て、中央突破がなせたと見た。

 帝国の思惑通り。


 両脇に侍らした娼婦の胸を楽しみつつ、饒舌に説明をする。

「中央突破からそのまま突き進み、突き破ったところで展開。敵後背からの攻撃と、正面からのすりつぶし。これこそが美しい戦術。運用の妙だろう。なあ?子爵」

「まことに」

 初夏に入ってきていたため、足下には水桶。


 彼らは、気を抜きすぎていた。

 先ほどから数刻のうちに、突っ込んでいた兵達は消え、伸びた両翼は王国軍へと突き刺さってくる。


 後部中央の陣は、このまま行けば飲み込まれる所だったのに、残念ながらいち早く気が付く。

「さわがしい」

 ふと、リザンドロ伯爵が気が付き目をやると、すでに真横まで敵が入り込んでいた。


 臆病な二人は最後尾に陣を張ったため、側面を突破されれば後背からの攻撃。つまり狙われるのは自分たちの首。

「いかん」

 速やかに、脇にひかえる兵に命令を送る。


 すると、なんと言うことか、本陣部分だけが、猛スピードで離脱をする。


 街道に出て、後ろにひかえる辺境伯軍に対し「敵が来ている」それだけを言い残し、一気に自領まで引き返した様だ。


「どうなっている?」

「初当たりから中央突破の命令。その後、わずかな時間で両脇を抜かれ。その時命令系統トップが自軍を放棄。逃走中である様です」

「もうか?」

「ええ、敵の練度は高く。音で命令をしています。兵の後ろ。高い音色で前進。低い音色で下がる。それを聞いた連絡兵かな? 旗を持って誘導をしていますね」

「小隊単位かな?」

「その様です」


 櫓の上から戦況を見ていたメルヴィン。

 ハンターで参加をしているはずだが、横で横で辺境伯軍軍団長エルヴェツィオ=パガーニがひかえている。


「あの感じ。ある程度で休戦。矢も拾わないといけないし、三日くらい空けて、戦闘かな?」

「そうですね」



 そして。

「敵、大将首は早々に逃走。まだ敵軍を抜けていないため、追いかけられません」

「なっ」

 そう言ったまま、ヤクウィン伯爵は絶句してしまった。


「適当なところで、勧告しろ。大将は逃げたが、まだやるのかと?」

「はっ、ですが。すでに離脱が始まっております。騎士達から」

「大将が大将なら、兵も兵か。野盗にならないか心配だ。まあ良い。再編をして本当の戦闘。準備をしよう」



「ええい。中央突破までもう少しだったじゃないか。どうしてこうなった?」

「おい。貴様。ウォルター=ペニントン男爵だったな。残って後日報告をしろ」

「はっ。えっ? 私が一人戦場に?」

「後ろで見ておいて、やばそうなら逃げれば良い。わしら無き後、辺境伯の軍が負ければ良し。勝つことは無いだろうが、王への報告もある。知らんでは済まされんからな。最後どうなったかだけでいい」

 だけど嫌そうな顔をして、進路を変更しない。


「そこの兵。三人ばかり付いていけ」

 思わず、確認のために自分を指さす兵達。

 それを見て、伯爵が頷く。


 兵達は、嫌そうな顔をして馬を止める。

 男爵の手綱も横から操作をして、共に道を帰り始める。

「なんでこんな。農奴達も大量に失ったし散々だ」

 ぼやきながら、ぽてぽてと戻る。


 その頃、宣言があり、一斉に国王軍は引き始める。

 普通なら、辺境伯軍に再編するのだが、見られたくない物が多い。さっさと帰らせる。


「食料の無駄だ」

 それが大きな理由。

 一般の雑兵は、周囲で獲物を狩る。


 人数が多いと、それだけ食料が減る。

 貴族や騎士団。

 兵団は兵糧がある。


 そして、ハンター達は携帯食や狩りの獲物で食いつなぐ。

「見張りご苦労」

「動き無しです」

「まあ基本。夜間戦闘はあっても遠くからだ。暗殺の方が怖いな」

「そうですか」

 メルヴィンさんと櫓の上で、並んでかゆを食べる。

 雑穀と干し肉。

 その辺に生えていた香草。


「戦争。特に人を殺すのは怖いか?」

「少し慣れました。盗賊退治のおかげですかね」

「それは良かった。怖いのは、緊張から動けなくなることだ。動けないようなら、慣れるまで盗賊退治だ。短期間に大量に殺せば人間は慣れる。元々のモンスター退治と同じだ。したことない。知らないから怖がる。経験をすればどうということはない」

 そう言って笑いかけてくれる。


「そうですね。盗賊達のねぐら。あそこの悲惨さは見ないと理解できなかったです」


 訓練の一環で、定期的に兵団や憲兵の仕事に同行させられた。

 そこで見たのは、人が人にするとは思えない所業。


 レオンが生きて来た中で、周りにはいい人ばかりだった。

 母親や村人。

 そして町に来ても、周りの人たちは優しかった。


 だけど、あいつらは違った。

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