第16話 帝国戦。再び
「いいえ。後ろでなどと。王からのご命令。先頭に立ってこそ王国軍。前回ご活躍でしたから。侯爵こそごゆっくり。なあ、ナウマン子爵殿」
「そうでございます。侯爵が前回、どんな姑息な戦法で、快勝をしたのか。見られないのは。多少残念でございますが」
そう言って、にまにまといやらしく笑う。
「そうですな。後ろにひかえておりますので、ご自由に華麗な戦術を行使なさってください。では、私も準備がありますので」
そうして、挨拶もそこそこに、侯爵は部屋を出て行く。
「けっ。いけ好かない。たまたま相手が、バカだったから勝ったのだろうが」
「まあまあ、敵は五千。倍する敵。勝利をすれば、王からのお褒めは間違いありません。戦略を練り、相手を殲滅いたしましょう」
大きなことを言ったこの二人。基本この時代。どう始まっても最後は包囲殲滅状態で敵を押し返すという暗黙のような定石があった。
これは優れたものとして、幼少期に家庭教師から習うもの。
そのため、基本何も考えずに実行をする。
全軍が進むか、中央が出て中央突破からの鶴翼陣への変化。
その二つのパターン。
本当に心配するのは、戦場での食事。そのメニューと女の手配であった。
「あー今回。王からの書状をもち。王国軍の助力が来た」
目の前にいるのは自領の兵団各隊の隊長と、ギルドそれに魔道士達の組合長。
それのサポート部隊として、鍛冶師や薬師。魔法師。その他の組合重鎮。
話を聞いて、強奪事件を思い出す。
「前回来たとき。あれだけやっておいて、今回王からの書状だと?」
「後ろから撃ってしまえ」
「さすがに、まずかろう。後背を固め、下がれないようにして、敵に押し込め」
「それが良い。名誉の戦死というのが気に食わんが。角は立たん」
皆適当なことを言いながら、王国軍のサポートは初心者の練習という事で話が決まる。
「今回の戦争にも参加してくれるのか?」
ヴェネジクト侯爵の問いかけに、嬉しそうに答える。
「おう当然だ。最近小僧に会えん。たまに会うと奴は死にそうだったぞ」
「彼らには少し頑張って貰おうと思ってね」
そう言って、侯爵はにやっと笑う。
すでに、兵としての行動や、騎士との交流。
立ち居振る舞いは勉強させている。
何か切っ掛けがあれば、レオンに騎士爵を与える事を考えていた。
クリスも彼を気に入っているしな。
むろん彼と結婚などは考えてはいない。
だが、娘の身を守る騎士としては、彼はいい男だ。
信用が出来る。
そんな事を考えて、少し手を貸していた。
「さて、今回の戦争は荒れそうだし。どうなるか」
王国軍が、やはり物資を望み大量に徴発して行った。
そして、サングイニス平原出陣を張るとき、少し後方で櫓が組まれる。
防衛ラインだ。
その頃帝国側では、報告が来ていた。
「連絡のあった櫓は後方にあり、その前に統制のない軍が三千ほど陣を張っております」
その報告を聞いて、少し困る。
「まあいい。可動式の盾は向こうへ行ってから組む事は変わらない。奥にあるのならこちらにも都合が良い」
イルバラ伯爵は、今回も参戦している。
前回の汚名があるため参戦しないという選択は実質出来なかったが、二千の兵しか集められなかった。
大将はジャンマルコ=ヤクウィン伯爵。兵数は三千。
前回の報告を元に、何やら計略を錬っているようだ。
だが戦場は、ヤクウィン伯爵にとって最悪だった。
お互いの儀礼。確認は良い。
一応言い分と大義名分。
それを交わす。
だが、ワクワクしながら参戦をした、ヤクウィン伯爵にとってそれは無策で、
「あの馬鹿どもは何だ?」
「はっ。情報があります。今回国王軍として、近隣からアンセルモ=リザンドロ伯爵とペートルス=ナウマン子爵両名が参戦している様です」
「随分詳しいな」
「それがですね、あの前面の軍。警備がザルで簡単に後ろに抜けたんです」
兵は言いにくそうに話を続ける。
「その後、見事に捕まりまして」
「捕まった? 皆、無事に帰ってきたと聞いたが」
「そうなんです。解放されました。我らを捕らえたのは、ハンターと呼ばれる連中だったらしく。酒を飲みながら頼まれたんです。情報をくれながら、奴らはコテンパンに倒していいと。だけど、その後は逃げ帰れと。俺達が出たときにはお前達は殲滅しか道が無いと」
兵は多少伏し目がちに報告し、その言葉を言った瞬間彼らの雰囲気が変わり、生きた心地がしなかった事を思いだした。
兵は戦争や盗賊退治くらいしか、命のやり取りはしないし、完全防備での作戦。
効率的で安全。
だが彼らは、たいした装備も無しで、日々モンスターと戦っている。
気合いと気迫がそもそも違い、さらに魔力を纏い威圧まで習得をしている。
ひよっこのレオン達には、ない圧力がある。
その報告を聞いて、ヤクウィン伯爵の目に光が戻る。
「では、そのハンター達の希望を聞き入れ、奴らは早々にすりつぶしてやろう。二度と介入して来ないように徹底的にな」
だが、思惑とは違い、王国軍の逃げ足は、以外と速かった。
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