第13話 シグナの集い。特訓される。
辺境伯は、問いかけてくる。
結局食事に招かれ、そこには錬金術師のアントワーヌ師匠も招かれていた。
隣り合うと喧嘩になるため、僕が間に入る。
「何か望みは無いかね」
「俺は無い」
「私も、正式の褒賞は頂いております」
師匠達は即答で、ひたすらワインをがぶ飲みして、食事を詰め込むキュクロプス師匠と、優雅に味わっているアントワーヌ師匠。
二人とも、答えは同じ。
「ふむ。レオンはどうだ? クリスが君は命の恩人だから、報わねばと張り切っていてね」
師匠達と同じように必要ないと言えないのが、僕たち。
ハンターとしては弱く拙い。
「この前、何とかオークに勝つことができましたが僕たちは正式に剣などを習ったことがありません。できればでよろしいのですが、衛兵さんか
「オーク。そんなものと御戦いに」
いきなり、クリスさんが立ち上がる。
「ああ。クリス。座りなさい。彼もハンターだ。モンスターと戦うのが仕事だ」
ぽすんと椅子に座るクリスさん。
「鍛冶師になれば安全だ。無理して戦わなくていいぞ」
師匠は、相変わらずそう誘ってくれる。
「でも、憧れだったんです」
「そうだな。夢は必要だよ。そこから、それを叶えるために努力と発想で、今まで無かったものも作られる」
「そうだな、正規兵達はスケジュールが決まっておるし、予備役の幾人かに声をかけてあげよう」
「ありがとうございます」
侯爵様に素直にお礼を言った。
ただ、手を上げたのが、鬼のような方だった。
「お前達が、シグナの集いか。おれは現在予備役。メルヴィン=バロウズだ。指導しているときは俺の言うことは絶対だ。なぜだとか、どういう意味がなどと考えるな。いいな」
そう言って彼は、右手に持った棒きれをこちらに向ける。
「前衛三人に盾? お前が弓? 魔道士はいないのか?」
「ちょっとだけ、この前トビアスさんに習いました」
俺が手を上げる。
「この前の戦いに参加をしたのか?」
全員が、こっくりと頭を下げる。
「あれは理想だが、兵としては駄目になるな。全く近接戦闘がなく終わってしまった。将来的にはあちらへ向かうのだろうが、今はまだ個の武は必要だろう。さて装備をつけたまま、あの森まで走ってこい」
俺達についてくれたメルヴィンさんは、元騎士団長。
当時。軍務を担当していたフィランダー=コフーン子爵と喧嘩をしてやめた。
王国から、来ていた人だったようで色々と騒動になったそうだが、師匠がやめることにして収まったようだ。
俺は、ダレルだ。
アウグストが抜け、困っていたところにレオンが成人し、『暁の反乱』を『シグナの集い』と改名した。
準構成員だったはずなのに、なぜかレオンは金持ちになっていて小さな家を買った。
夜ギルドの宿泊所で話はしていたが、あの熊。
いや、鍛冶師のキュクロプスや錬金術師のアントワーヌ=ラヴォアジェと仲が良いらしい。
訳がわかんねえ。
そして、今回。
「みんなの剣とか我流だから、教えてくれる人を辺境伯様が紹介してくれたよ」
レオンが嬉しそうにみんなに伝える。
確かに、基礎は村で習い。こっちへ来てから、知りあったハンターに習ったが正式なものでは多分ない。
酒瓶を片手に持ったオッサン。
「さて装備をつけたまま、あの森まで走ってこい」
おいおい。軽く言うが、近く見えてもあそこは片道五キロはある。
「限界で行って来い」
そう言うと、本人は岩に座りたばこに火を点ける。
「行けと言ってんだろうがぁ。俺はおまえらを鍛えろと言われてるんだ。お前達が強くならない限りやめんからな。酒代のためだ頑張れ」
そう言って、動かない俺達に石を投げ始める。
「ひでえ」
「ごめんよう。どんな人かまでは聞いていなかったんだ」
「レオン。お前の周りに居るオッサン危ない奴らばかりじゃねえかぁ」
「えっ。師匠達優しいよ」
「それは、お前に対してだけだ。おりゃー行くぜみんな」
早く終わらすため頑張った。
だがそんな日に限って、お小遣いが歩いている。
「グラスボアだ。稼ぎだ」
ヴェリと一緒に突っ込んでいく。
そして、疲れで足がもつれ、奴の目の前で無残に転ぶ。
ヴェリが剣の重みを生かし、一刀両断していくが、大ぶりなため躱される。
「畜生足が」
フフタラが弓を取りだし矢をつがえる。
放つが、あわてたせいか外れてしまう。
その間に、レオンが見たことない動きでふっと現れ、軽くなでるように切り上げる。
それだけで、首が半分切れボアは血を噴き出す。
フフタラが矢を放ちとどめを刺す。
「よっしゃ持って帰るぞ」
俺が言ったが、冷静にレオンから返しが来る。
こいつ妙にこう言うところが真面目なんだよ。
「まだ森まで行ってない」
「あいつからは見えないよ」
「いや、多分見えてるよ。あの人戦争で使う遠見の筒を持っていたもの」
「本当かよ、じゃ置いていくぞ。帰りに拾う」
俺達は森へ向かって走って行く。
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