第12話 快勝とお願い

 何度目か判らない乾杯。

 快勝。

 ギルドの中は大騒ぎだった。


 少し残って監視をする兵を残しているが、それ以外は現地解散をした。


 敵の持っていた武器や防具を集める。

 騎士達は、同じく騎士達の持ち物を漁る。

 いや正しくは、従者達に命令する。


 時たま商人を通じて返還要請が来る。

 先祖伝来の家宝だとか言って。


 しばらく持っていて、請求が来なければ売り払う。

 つまりそれが、戦争においての戦利品。


 一般的に、この時代。

 戦争に出て農奴達に与えられる褒賞はない。

 大手がらを立てれば別だが、押し寄せる雑兵を抜け、その先の兵を抜け、騎士などに取り付き首を狩るなど普通はできない。

 矢で仕留めた場合は、鏃に印を入れておいても、騎士達は首だけを持って来て、自分の手柄にしてしまう。

 それが普通。


 それでも今回。召集兵が得られた物は大きかった。

 こちらの被害はゼロ。


 敵はほぼ殲滅。

 攫われていた者達の奪還と、大量の武器や防具。

 残された貴族の兵糧と、道具類。


 身ぐるみはがれた死体は、広場の脇。森の方に埋められていく。


 そうこの平原、何処を掘っても、いつのか判らない骨が出てくる。

 俺達は、サングイニス平原と呼んでいるが、敵は、血の平原と呼んでいるようだ。

 意味は同じだと言うことだ。

 

 もう戦争以外には、誰も使わないだろうと思える土地。

 実際今回も、野営の時に複数の不可思議な現象が報告されている。


 野火が走り、山の壁が光ったとか。

 どこからともなく、何かが軋む音や、地の底から響く声のようなもの。

 そんな話。


 ある日は、山脈の稜線に青白い炎が無数に灯っていたなんていう話もある。

 これは有名で、天気が悪くなるときにたまに発生する。

 ここから村が近いので、僕たちも幾度か見た。


「あれって、火じゃなくて雷ですよね」

 野営の時にそう言って、師匠が驚いていた。

 師匠も火だと思っていたようだ。


 天気が悪く、雷が迫ったときなどに、尖った部分から放電するコロナ放電現象である。一般にセントエルモの火と呼ばれる現象。


 さて、適当に荷車を造って町へと帰る。

 これからしばらくは、駆け出しのハンター達も武器を手にすることができる。

 当然質はあまり良くないが、ひとまとめにして店先でたたき売りが始まるからだ。


 今回以外と槍の良いものが多かった。

 槍使いが増えるかもしれない。


 そして当然、ギルドでは武勇伝が飛び交い、ジョッキが飛び交う。

 ただ、ちょっと地味。

 結局、切り結ぶこともなく終結したからだ。


 金剛級ハンター。極炎の戦士トビアス=フレアネーレさんは、戦闘後に僕たちを見つけぼやいていた。

「この戦闘は何だ? 俺は本当に必要だったのか?」

 そうぼやきながら、多数の兵を焼き殺していたと聞いている。

「どうだ。この子増が、あのいけ好かない錬金術師と作った道具は。すげえだろ」

 そう言って師匠が、僕の頭をガシガシしながら褒めてくれる。


「なんだと? キュクロプスの弟子と言うだけでもびっくりなのに、錬金術師? まさか、ラヴォアジェさんじゃないだろうな?」

 師匠は、以外と高名で、王都の方でも知っている人が多いらしい。

 当然だが、色々な手続きを簡単にすますには、複数の要職に就いた貴族に知り合いが居ないと不可能だ。


「いや、あいつだ。勝手に自分の弟子にして、こいつは錬金術師でもある。あいつの勝手には困る。――まあ俺としては、こいつに頼めば魔導具が作れるようになったからな。奴らの顔を、見なくて良くなったのはありがたい話だが」

 そう言って笑う。


 錬金術師は、鍛冶師をかなり下に見ている人が多いらしい。

 金属を加工できるだけ。

 陣を書き、思い通りの効果を付与できるのは錬金術師。

 鉄を叩くだけの、鍛冶師とは違うと言うことらしい。

 師匠でそう感じるなら、他の鍛冶師の扱いはかなり低いのだろう。


「そりゃすごい。名前はレオン君だったな。覚えておこう。それじゃあまたな」

 そう言って、トビアスさんは帰っていった。


 その後、報告をしてギルドを出ると、お迎えがいた。

 それを見て、シグナの集いのメンバーは、蜘蛛の子を散らすように消えていった。

 師匠と居るのが、そんなに怖かったのだろうか?


 お迎えは、領主の館から。

 師匠共々、馬車に乗り揺られていく。


「ヴェネジクト様に呼ばれるのは、年に一度か二度だったが、お前が来てから呼ばれることが増えたな」

 師匠は、ギルドで買った酒樽を抱えている。

 帰って飲むつもりだったのに、あてが外れた様で、少しだけ機嫌が悪い。


「お疲れだったな」

 そう言って、辺境伯ゼウスト=ヴェネジクトさん自らが、玄関先にまで出てきていた。

 僕と師匠は、馬車から降りてすぐのサプライズに、驚いてしまう。


 そばには娘さんのクリスが立っていて、僕を見るとものすごい笑顔が一瞬だけ浮かぶ。

 そう一瞬だけ。

 真っ赤だが、真顔になると、一つ咳をしてから挨拶をしてくれる。

「お勤めご苦労様でした。無事な様子で何よりです」

 そう言うと、また辺境伯の後ろに隠れる。


「お言葉ありがとございます。今回は、乱戦にもならず決着したので無事帰ることができました」

 そう言葉を返す。


「そうだ。報告は聞いた。いや快勝だったと言うことだな。素晴らしい」

 満面の笑みで、褒めてくれた。

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