第10話 本物の戦場

 子供の頃から話は聞いていた。

 父さん達が死に、シモンさんがお母さんに言った言葉も聞いた。


「みんな、村を守るために、勇敢に戦ったよ」


 だが、実際は。

 貴族同士が何か言い合った後、すぐに矢が放たれる。


 両陣とも、前面に出ているのは召集兵である農奴達。

 盾すらなく矢の飛び交う中をただ突っ込んでいく。


 そう。いつもは、そのはずだった。


 今年は、違った。


 敵軍である帝国は、いつもの様に怒声をあげ、突っ込んでくる。


 だが今年、迎えるゼウスト=ヴェネジクト辺境伯が率いるアウルテリウム王国は静かな声が戦場に響き、のろしが上がる。


 あらかじめ組まれた櫓から、矢が放たれる。

 その矢は、農民達を飛び越し、直接貴族軍に降り注ぐ。


 近距離では、僕と師匠が作った魔力砲が火を放つ。

 僕たちは戦争を変えてしまった。

 そして、面白くて作った道具が人を殺す。


 モンスターじゃないんだ。人なんだ。

 こちらの陣まで、叫び声が聞こえてくる。

 だけど、僕以外の人たちも表情は硬い。

 みんな人殺しが好きなわけではない。


 昨日の晩。野営中に聞いた。

「人を殺すのって、どんな感じでしょうか?」

「モンスターを殺すのと同じだ。何も考えず、自分の命を守る事だけを考えろ。下らん事を考えてためらった奴は死ぬ。向こうだってこちらから奪わないときっと家族が暮らせないんだろう。だが、こちらも奪われれば生活ができない」

 トビアスさんは、燃える炎を見つめながら、酒の入ったコップを煽る。


「仲良くはできないのかなあ?」

「向こうに攫われた奴隷は、ひどいらしいぞ。奴らがおとなしくなるのは、俺達が死に絶えるか、全員奴隷になった時だけだろう」

 ハンターの隊長となった、トビアスさんが教えてくれた。


 彼は丁度キュクロプスの師匠が兵に殴りかかり、止めていたときに通り掛かった。

 知り合いらしく飲み始めてしまった。


 そんな中で聞いたこと。

 みんな、人を殺したくない。だけど、自身をそしてみんなを守るために戦っている。そしてそれは仕方が無いこと。双方共に同じ価値観と共存する意思がないと無理だということ。

 一方的に、平和に暮らしたいと言っても、相手がそう思わないと一方的に蹂躙されて終わってしまうこと。

 今晩それを理解できたことは僕にとって大きいと思った。


 だが実際の戦闘は、もっと現実的で不快なものだった。


 僕たちは、強かった。

 二人の師匠達と、知恵を出しながら作った道具。

 それは予想上に有効だった。


 特に、魔力砲や新型の弓は、辺境伯がかなりの大金を出して買ってくれたと、アントワーヌ師匠が言っていた。


 毎年繰り返される戦争。

 今回で、来る気をなくさせようと辺境伯は語っていたそうだ。


 この陣地、櫓を組んで高所からの攻撃は、ギルド長。カールさんたちと師匠達。

 そして、なぜか僕まで呼ばれて、出陣前に考えたこと。


 周囲に森があり、材料はある。


 下手に、放って置くと、森を回り込み、伏兵や遊撃に使われる。

 そのため、毎回こちらも、兵をかなりの人数回して森の警護に使ったが、今年は木を先に切り、搬出する道とそれに沿わすように木で壁を造った。


 出撃する、兵達二千人以上で造れば意外とすぐ作ることができた。

 そして人を殺すことに比べれば、みんなは和気藹々と作業を行った。


 普段と違い、炊き出しまで出た。


 普段なら、貴族達だけで固まり、徴収された農民はその辺りで生き物を狩ったりしていたそうだ。


 それも、貴族によっては、取り上げるとか。


 すぐ近くにある領、アンセルモ=リザンドロ伯爵とペートルス=ナウマン子爵は幾度かこの戦争に参加したが、最悪だったといっていた。


 近くの領なのに、兵糧などを持たず、地元で供出させ。

 しかも、慰労のために娘達まで供出させたらしい。


 戦争終了後、それを知った辺境伯は当然抗議をした。

 だが、『わざわざ派兵してやったんだ。その手間賃は当然だ』などと言い放ち、反省などしなかった。


 それを王都に、進言したが、王や宰相は何もしなかった。


 現王である、シルヴェストル=エルダー=アウルテリウムは問題が起これば娘を妃として貰う。むろん、立場により愛人だったりするが、血のつながりで何とかなると考えている。いや、周りから、そう言われている。


 王妃の一人。

 ロレナの実家である、チャバリア家と問題を起こした貴族。アンセルモ=リザンドロ伯爵と、家どうしに繋がりがある様だ。


 それ以降、辺境伯様は、助力を拒否している。


 だがそれが、今回圧勝したことで少し狂った。

 世の中が機械仕掛けで、アウルテリウム王国内部で、もし因果を動かしている歯車があるのなら、きっとそれが狂ったのだろう。


 その軋みは、翌年王からの命令状を持って参上してきた二つの軍により加速する。


 そう無理を、押し通し、彼らは敗走。

 その尻拭いを、辺境伯様が行ったが、彼らはゼウスト=ヴェネジクト辺境伯が持つ武力は危険だと、王に訴えたらしい。

 自分たちが弱いのではない。

 辺境伯が強過ぎるのだと。


 当然王は、「ヴェネジクト家には娘がいたね。少し若いが妃として迎えよう。帝国からの侵攻を防ぐため力は合った方が良いし」当然のように、そう言うことになる。


 それは、もう少し先の話。

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