第9話 予兆
「何処に、オークがいたって?」
「町のすぐ前にある草原です。まだ死体が転がっています」
「手が空いている奴、調査に行け。おい。手負いだったんだな?」
「そうです」
「ちぃ。もうそんな時期か」
騒いでいると、ギルドの奥からおっさんが出てきて質問をされた。
このおっさんがある辺境の町テルミウスオピディウムのギルド長。
カール=ブラッドショー。まだ、現役でハンター。
偉くなると、男爵同等の地位が認められる。だが手柄だけだと騎士爵。
ギルド長と言う事は、手柄を立て騎士爵を貰ったようだ。
男爵位だと領地を貰えるからね。ギルド長などやっていられない。
その時に、仲間内から付けられた、ブラッドショーと言う家名を名乗っている。
そして、そんな時期というのは、奴らの遠征。
そう定期的にやって来る、数千単位の強盗。
パエデラ帝国だ。
奴らは、自分たちの種まきが終わると、農地を広げるため、周りの国が管理をする土地に踏み込んでくる。
すでにいくつかの国が滅ぼされ、人民もろとも奪われた。
戦利品としての人は、農耕馬などと同じ。使い潰しの労働力。
つまり奴隷とされる。
この大陸では争いが収まらず、明確な国境さえ決められていない。
話し合いができないのだ。
双方が、自分の土地だと言い張って。
「ギルド長。確認してきました。間違いなくオークでした。二メートル近くの」
「そうか。帝国側の森を偵察に行け。テルミウス渓谷の奥から、きっと奴らが来ている。ハンターで参加する奴は手を上げろ。リストを作る」
「「「おおおっ」」」
ハンターにとって戦争は、手柄を立てる手段。
目だてば、報償と名誉。そして、上手く行けば騎士爵くらいの爵位ももらえる。
ハンター順位を上げるよりも早い。
順位は、貢献度だが鉄、銅、銀、金、
だが実際は、
今回のような戦争や、ハンターの手に負えない危険なモンスターが出たときだけ、直接依頼が行くそうだ。
定期戦。毎回、おおよそ二千から三千の兵が押し寄せ、すべてをかっさらっていく。後には、うち捨てられた死体と荒らされた農地。そして破壊し尽くされた村が残る。
そう、彼らの土地は北にあり、南に位置するアウルテリウム王国の方が、豊かで収穫時期も早い。
ものによっては、年に二回収穫できる。
だから奴らは来る。
それから、一週間後。偵察の報告と状態が知らされた。
やはり奴らは、時期を合わせるように、たらたらとやって来ているようだ。
およそ三千。
辺境伯である、ゼウスト=ヴェネジクトさんが、領主の館前で出撃の演説を行う。
「愚劣な奴らが、また性懲りもなくやって来ている。その数は三千。だが、勇猛な我が軍とは違い、相手は食料を求める非力な者達だ。なあに。いつもの盗賊退治だ。こちらが、普段に力を出し、相手をすればすぐにしっぽを巻いて帰るだろう。今回は、金剛級ハンター極炎の戦士。トビアス=フレアネーレ殿が助力をしてくださる。気楽に務めを果たしてくれ。以上だ。アウルテリウム王国に栄光あれぇ」
その言葉と共に、歓声が上がる。
テラスにいるのが、トビアス=フレアネーレ様だろう。
赤い髪をし、身長は百八十センチくらい。
この国の平均よりも二十センチほども大きく、鍛えられた筋肉により部分的に体を保護する鎧が浮いて見える。
そして歴戦の勇者とも言えるその体には、無数の傷が見える。
「坊主。レオン」
声をかけられて振り帰ると、師匠であるキュクロプスさんが居た。
「お久しぶりです」
「おう。元気そうで何よりだ。あの変わり者のアントワーヌが褒めていたぞ」
そういった師匠の顔は、噴き出しそうになるほど、複雑な顔をしていた。
嬉しいが悔しい? そんな感じなのかもしれない。
「そうですか。ありがとうございます」
師匠は、くいっと顎をあげ、トビアス=フレアネーレ様を見ろと指示する。
「奴は最高の剣士だが、最高の魔道士でもある。偉くなるには両方が必要だ。遠距離から近距離まで。その空間を制するものは強い。ここじゃ魔道士達は遠距離からしょぼくれた魔法を撃って、後は逃げるような事をしているが。それじゃ駄目だ。二流三流だし、命も守れん。かと言って騎士の連中など遠距離から焼かれて終わりだ。判るな?」
「はい。頑張ります」
「それでいい。それと俺も従軍をするから手が空いているときには手伝え。その方が…… いやいい。まあ手伝え。いいな」
そう言って、師匠はどこかへ行ってしまった。
「たぶん。鍛冶師は貴重だから、敵にも殺されにくい。お前が大事なんだな」
師匠を見た瞬間に、離れていたヴェリが戻ってきて、俺に言ってくる。
「ありがたいが、戦闘中はみんなといるよ」
正規兵は、使う武器ごとに隊列を組むが、ハンターは一塊。
扱いは遊撃隊。
一般の召集兵である農奴達とも扱いが違う。
つい先日、シモンさんも従軍できたため、村からの参加者にプロテクターと武器をプレゼントした。
流石にうちのチームハウスには泊めるだけの場所がなく、みんなはテントだったが感謝してくれた。
そして俺は、初めての対人戦が戦争という。無謀で、危険な場所へその一歩を踏み出す。
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