第7話 シグナの集い
袋に、ボール状のスライム玉を詰め、矢で射貫いてみる。
生地と、ボールが押しのけられて矢が突き抜けてしまった。
今度は、表側を金属糸で編み込み、衝撃を面で受けるようにしてみる。
駄目ではないが、もうちょっと。
金属糸、ボール、金属糸、ボール。
これでもまだ厚みは一センチもない。
同じ所に、繰り返し受けなければ使えそうだ。
革鎧よりも柔軟性があり、着やすい。
水ではなく、ある植物の樹液にすると、簡単に乾燥しなくなった。
此処まで三ヶ月。
そして、金属糸の表面にも柔軟性のある樹液をしみ込ませ、こっちは固める。
堅くはなく、ぐにょにょした感覚。
これで、槍まで止めることができた。
衝撃は来るが、怪我まではしない。
金属鎧よりも軽く柔らかい。
目の前で、アントワーヌさんのニヤニヤが止まらない。
この間に、錬金術についての基本を習い勉強をした。
魔法陣の描き方と意味。
魔素の役割。
ほぼ何も知らなかった僕に、詰め込むだけ詰め込んでくれた。
本当にありがたいことだ。
「君はもう私の弟子として、錬金術師として登録されている。問題はないよ。そして土魔法と火魔法を合わせた魔力砲。良いね。開発にキュクロプスを頼ったのは気に食わんが、金属糸の問題もある。まあ良いだろう。弾を回転させるだけであんなに飛距離と貫通力が上がるとは思わなかったし、あの大砲門。中に魔石粒を詰めることであんなに威力が上がるとは思わなかったよ」
此処までで、さらに一年とすこし。
途中で薬師さんのお宅にも師事をして基本を習い、防具屋さんもスライムボールのことで出入りすることになり、防具の基本を習った。
むろんこの関係は、錬金術、鍛冶と共に続いて新型開発に意見を言ったりもした。蜂の巣構造により大幅に軽量化をし、堅いものとスライムボールを組み合わせた盾は喜ばれた。ただ、受けるときは柔らかくて良いが、シールドバッシュの威力が変だと言っていた。中空になって、跳ね返るからよく飛ぶようになったとか。
そして、僕は成人をした。
正式にハンターとなり、ダレル達のチームに加入した。
元々『暁の反乱』とかいう名前だったが、僕が加入して『シグナの集い』として村の出身者に判りやすいように変えて貰った。
特に苦情も出なかったというか、錬金術のおかげで小金ができて、チーム用に家を買った。そのせいで、チームの方が僕の傘下に入った感じなのだとか。
その時、ギルドのカウンターで、鍛冶関係担当のヴァレリーさんが泣き崩れたとか。この二年の間に一人のハンターを、旦那さん候補として捕まえていた。
僕が家を買ったと聞き、「しまった。あわてず待てば良かったか」などと言って、血の涙を流していたとか。
「あの時の坊やがこんなに早く化けるとは。完全に読み違えたわ」
そんなことを、周りにこぼしたそうだ。
「それじゃあ、モンスターはひたすら倒す。それがこつだ。よく見て引きつけ急所を一突き」
そう説明しながら、
「町の周囲は、こいつかゴブリン。すばしっこいコボルトくらいだが、たまにウルフ系が流れて来ることがある。十匹以上の群れが来たら、魔法を覚えていないと辛い」
ダレルもみんなも、両手で体を包み、怖がる振りをする。
「錬金術師に登録したから、なんだか魔術師さん達に敬遠されて、習えてないんだよね」
僕がそう言うと、アウグストが笑う。
「えっ、なに?」
「お前有名人だからなぁ。最初に鍛冶師のキュクロプスさんと会話ができて、師事までしたことで、一気に町中の関係者がザワついたんだよ」
「えっ、そうなんですか? 師匠って普通ですよ」
全員が、思いっきり首を振る。
「普通じゃねえよ。昔別のチームの奴が依頼しに行って、顔を腫らして帰ってきたんだぜ。お前に使われる剣はかわいそうだって」
剣を使うダレルが、思い出しながら教えてくれる。
この手の話はよく聞く話だが、本当だったようだ。
「ああ、扱いが悪かったんでしょう。僕でも怒ります」
そう言ったら、同じく剣使いのヴェリがぼやき始める。
「だけどさあ、元農奴とかがだ。剣のメンテナンスなんて知っているわけがないだろう。それに、誰も教えてくれないし」
「えっ買ったお店の人は?」
「俺らが必死で働いても、薬草採取やドブさらい。たいした金にはならない。だから店の前に良くある樽に突っ込まれた引き取り品。刃も無く、下手すりゃヒビの入ったような剣を買うんだ。店の人間も、かってに持っていけ、みたいなもんだよ」
考えれば分かる話だ。
ハンターになってもう長い。それが俺が家を買うまで、ギルドの宿泊所から出ていなかったんだ。
グラスボアをさっき倒したが、未だに一撃で倒せるのはヴェリだけらしい。
それに日に何匹も取れるわけじゃない。
一匹ギルドに降ろしても、銀貨一枚もらえるかどうかだ。
ゴブリンなんか、一匹銅貨一枚。
大体数匹固まっているから、あれ? どうしてそんなに儲けがないんだ?
貴重品を預けても、五日でゴブリン二匹でいけるはず。
「なんでそんなに、金がないんだ?」
「そりゃみんな、村へ仕送りをしているし、こんなぼろな剣でも銀貨は必要だ」
銀貨一枚は銅貨百枚。
「あー。うん。そうだね」
ぱっと見、ダレルの剣も終わっている。
ヴェリの剣はもっとひどい。
師匠に見つかったら、追いかけ回されるレベルだ。
サンタラの盾やフフタラの弓。
「装備を作ろう」
そう言ったらみんなの反応は素早かった。
口々に質問が来る。
「えっ良いのか?」
「キュクロプスさんのか?」
ダレルまでこれだ。
「師匠に言えるわけがないし、金貨が何十枚も必要になる。無理だよ。みんなに合わせて僕が造る」
あからさまに、がっかりされる。
そこまで落ち込まれると、ちょっと来るものがあるな。
「どんなものかは、できあがってのお楽しみ」
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