第6話 常識は、知らない人には非常識
僕はその魔石を受け取ると、掌で暖める。
ちょっと力を入れるが堅い。
「お湯を頂けますでしょうか?」
そう言って、自分の体温より、ちょっと高い温度に魔石を浸けて力を加える。
するとふっと、力が抜ける。
「できました」
三センチくらいだった結晶は、一ミリ程度の砂になる。
これは村の子供なら知っている。
こうして保存して、岩を砕いたりするときに使っている。
だが、アントワーヌ=ラヴォアジェは、顎が外れ掛かるほど驚いていた。
そして、通り掛かったお弟子さんは、持っていた高そうな器を落とす。
やばそうな液体が広がり、異臭が漂う。
「うわ臭」
匂いで覚醒したようだ。
撒き散らかされたのは、魔物の血だったようだ。
あわてて、吸着のために砂が撒かれる。
考える。
「灰を撒いてください」
そうして、水洗いをすると随分綺麗になった。
灰を水に混ぜるとアルカリになる。
他にも大根おろしには、アミラーゼが含まれており使えるらしい。
「油と灰汁などで石けんが作れるが、灰水だけで効果があるとは」
一種呆然としていたが、また、湯の方に視線が戻る。
ざらざらの、砂粒のような結晶。
「これならば、補充することができる」
「使えそうですか?」
「使えるとも。今まで大きな穴に、小さな魔石を入れても使えないことはないが効率が悪かった。だがこれなら」
そう言って、アントワーヌ様は走って行ってしまった。
ぽつんと残されたお弟子さんと、年配の女性。
この女性は言わばメイド長と言える存在でメイ=ケインズさん。
「お茶でも入れましょう。坊ちゃんがああなっては、話になりませんから」
そうして御茶を頂く。
発酵茶葉。つまり紅茶だ。
「あの奥の、奇妙な建物は何でしょうか?」
ぴっちりと隙間のない建物。
天井は開いているようだが。
「あの中では、スライムが飼われております」
「へえっ。なにかに使うのでしょうか?」
そう聞くと、メイは困った感じで首をひねる。
「今は実験に使った、魔物の処理でしょうか」
「ああ、何でも食べますのもね」
「坊ちゃんは、それを人が食べられないかと、思案をしたようですが。今の所は駄目そうです。死ぬと液体になってしまって、確かめられないと」
「ああ、そうですね」
結局その日は、まったりとして終わった。
翌日。
お屋敷に行くと、メイさんに出迎えられる。
契約は三日。
何はなくとも、お屋敷に来て指示に従う必要がある。
まだ、アントワーヌさんは、実験室に籠もり出てきていなくて、ご飯すら食べていない様子だった。
「どうしましょう?」
「御茶でもお入れしましょう」
そうして、お茶と菓子を頂く。
そうして昼過ぎ、実験室から、ゾンビがあふれ出してきた。
「やあ、レオン君。すべての魔導具。動作確認をしたよ」
「では、詰め替え用に、砂を売る事ができますね」
「何を馬鹿な、新しいのを売って、古いものは回収。磨いて新品として売れば良いのだよ。壊れたものはそこだけ修理をする。粉末だけなら安くしないといけなくなる。魔石の値段は大体大きさで一定だからね。ただまあ、これで大きく高価な魔石が必要なくなった。大きなものはモンスターとしても強力だからね」
「ひょっとして、討伐価格が下がります?」
「いや、モンスターは魔石だけではなく、危険度で価格が決まっている。素材の売値は下がるかもな。あくまでも、これが表に出ればだが」
そう言って、書類が出てくる。
魔石における新技術。
余所に販売しない旨の誓約書と、契約書類。
「あれって、うちの村ならみんな知っていますよ」
「良いんだよ。その他のみんなは知っていないから。とにかく新技術として登録をするから、儲けは君にも入るようにしよう。そして君の身分も僕が後見人で錬金術協会に登録をするから」
そうして、お茶を一口飲むと、聞いてくる。
「レオン君、スライムに興味があるんだって?」
「いえ建物が、変わったものがあるなと思って」
そう言うと、少しがっかりしたようだが、すぐに復活をする。
「スライムが死ぬとね液体になるのだが、それが乾くと白い粉が残る。その粉は水を吸い三ミリ程度に膨らむ事は判っている。その玉は潰せて中身はもっと細かい粉になる。こいつは、水に溶けない。しかも少し、そうだな量的に一対一程度だと混ぜることが難しいが、ゆっくりなら混ぜられる。まあどちらにしろ、溶ける事はないがね」
「その玉って、簡単に潰れます?」
「いや、かなり丈夫だ」
「少し試しましょう」
床に広がっているつぶつぶ。
ゆっくり押すと柔らかいが、強く押すと堅い。
「これは」
細かな砂地。速く走れば大丈夫だが、ゆっくりだと沈んでいく。
獲物を捕らえる罠として使っていた。
穴を掘り、水と砂を一対一で混ぜる。
人を追いかけ、モンスターがやって来る。
砂の上を素早く通り抜け、人が抜ければ柵が立ち上がる。
するとドロドロした砂の上で止まったモンスターは、膝くらいまであっという間に埋まってしまう。それはあわてて動けば粘度が高く、なかなか動けなくなる。
抜けるには、真っ直ぐ上に足を抜き、勢いよく反対も持ち上げて足踏みでもしないと抜けられない。
そう、ダイラタンシーと呼ばれる現象。片栗などで有名。
僕はそれで、プロテクターを作ってみた。
水分を持っているので意外と重い。
この現象。粒子が移動しようとしたときに、液体に満たされていると陰圧となり粒子の移動が制限されることにより発生をする。
つまり液体状であれば何でも良いはず。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます