第5話 錬金術師

「では、錬金術師のアントワーヌ=ラヴォアジェさんの工房へ伺います」


「ありがとうね。半分おどされて居たのよ。元々気むずかしい方で困っていたのに、さらに、レオン某という面白い小僧がいるであろう。そいつをよこせ。とか言っちゃってね」

 リウハラさんが途中で入れた声色は、アントワーヌさんのマネだろうか?


 錬金術関係は、リウハラさんが担当のようだ。

 いまだ、ギルドの宿泊所から出られてはいないため、造ったナイフなどは師匠の家に預けてある。

「持って帰ると、すぐ盗まれるぞ。町から出んなら置いておけ。これでも買うとなると金貨一〇枚はするな」

 そう言われたからだ。


 この世界、基本は銅貨と、鉄片が市民の通貨。使っても銀貨まで。

 金貨を手にすることはほとんど無い。

 銀貨百枚で金貨なのだが、使い勝手が悪いし、どこから盗んできたと疑われる事、間違いなし。

 師匠達は、銀貨で払うと面倒なので金貨を使うが、そういう商売用のお金が金貨なのだ。


 もっと大きな商家や町は大金貨や、今で言うプラチナ?

 白金貨と呼ばれるものがあるようだ。


 混ざり物が入った、雑穀パンが銅貨の半分。

 その重さとつり合う鉄片で払う。

 そう、基本は重さ。

 数えなくても、重さで金額がある程度わかる。


 だが、店先の天秤、よく見ていないとずるをされる。

 少しずらすと、鉄片を沢山とられる。

 つり合うところは、支点を中心に腕と皿が同じ重さの時、同じ長さでつり合う。


 だが、店先のものがそうとは限らない。

 同じような皿でも重さが違うし、腕も金属を仕込んだものがある。

 そのため、何も乗せていない状況でバランスを必ず確認させて貰う。

 そして、銅貨を乗せて鉄片を測る。

 それを、半分に分けてつり合う様にする。


 だが、銅貨自体も、重さが少し違う。

 天秤の重さずらしは、犯罪だが、重い銅貨は仕方が無い。 

 そのため、店の店主は日々重い銅貨を探しているらしい。


 まあ、僕のように、しつこく確認する人間は少ない。

 銅貨の半分は、すでに基準の固まりを店主が大体持っているので、みんなはそれを信用している。

 

 つり合う分を払えば良い。


 そして値付けは、最低銅貨の半分で量が決まり、ものによっては大量に買える。

 最初は、イモとかばかり食べた。

 野菜とか地下のものは、下賎のものとして、貴族達上流の人たちは食べない。

 そのため、大量に取れるし、安く流通している。

 税として取られないからね。


 後は雑穀。

 気を付けないと、重量を増やすために小石が混ざっている。


 後はその辺りで捕れた魚。

 これも、気を付けないと傷んでいるし、泥臭い。


 そんな市場を抜けながら、奥の高級な町の方へ向かう。

 領都において、ゼウスト様の領主の館を中心に高級住宅街が広がる。


 この町において、錬金術師は地位を持ち、良いところに住宅と工房を持っている。

 植物園まで持っている人も居る。


「こんにちは、レオンと申します」

 ドアをノックする。

 門はあったが、誰も居なかったので中まで入ってきた。


 ドアが開き、年配の女性が出てきた。

「坊や、どんなご用かしら?」

 メモを取りだし、読み上げる。


「ギルドへの依頼で、こちらの旦那様アントワーヌ=ラヴォアジェ様から工房での補助という事で依頼を受けましたレオンと申します」

 それを聞いて、女性は首をひねる。


「お屋敷を間違えましたでしょうか?」

「いいえ。合っております。少し待っていてください。伺って参ります」

 それから少し待っていると、色々なものが落ち、壊れる音が近付いてくる。


 ドバンと激しくドアが開き、人が飛び出してくる。

 この先、結構長く付き合うことになる。アントワーヌ=ラヴォアジェ様との出会いだった。


 僕は勢いよく蹴られ、アントワーヌ様と共に、庭を転がった。


「イタタ。おおっ、すまない君がレオン君かな」

「はい。そうでございます」

 いきなり手が伸びてくる。

 握手をして、お願いをされる。


「君の発想力と想像力が欲しい。手伝ってくれ」

「はあ。えっとできることがあれば」


 そうして手伝いが始まった。

 基本、お弟子さんがすべてを行い、僕は先生の説明を聞き案内される。

 たまに来る、お弟子さん達の視線が痛い。

 随分敵意が乗ってきている。

 かなり、あからさまな視線もの


「アントワーヌ=ラヴォアジェ様はどうして僕をご指名されたのでしょう? これではお弟子さんというか実験の補助ですよね」

「君は、あの偏屈が褒ていた。それだけで十分だ。あいつはいけ好かないが技術と人を見る目はある。さて今までの所で、何か質問はあるかね?」

 つぶらな瞳が、期待マックスで聞いてくる。


「その錬金術というか、魔導具において、魔石の形状が違うため使い捨てとなると仰っていましたが、魔石をどうして粉にしないのでしょうか?」

 そう聞くと、少し呆れたような顔をされる。


「魔石というのはね、結晶方向にある程度は割れる。だが、力をある程度以上加えると、急速に崩壊が始まり爆発的にエネルギーを放出する。それはものすごいもので、このくらいの結晶でこの屋敷程度なら吹っ飛ぶ」

 そう言って、見せてくれたのは、わずか三センチ程度。


「これって、ゴブリンでしょうか?」

「そうだね」

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