第2話 出会い

「大丈夫ですか?」


 その少年は、くりっとした瞳。

 取り立ててハンサムとも言わないが、危機を脱し、安心をしたその顔と、人なつっこさを護衛達に見せる。


「ああ。君のおかげなのかな?」

 少年は、腰に下げた布袋を見せる。


「これは、シモンさん。ええと猟師さんなんですが、道中のお守りに貰った匂い袋なんです」

「見せてくれるかい?」

 護衛の男は、その袋を覗き込み、気がつく。

 強い獣の匂い袋だろう。ウルフが逃げるのだから、上位であるシルバーウルフの肛門嚢こうもんのう? かもしれない。


「良いものを持っているね。助かったよ」

 素直に礼を言い、馬車の主に報告をしに行く。


「乗って貰いなさい。方向が同じなのだろう。お守りの力を分けて貰おう」

 こうしてレオンは、いきなり、辺境伯ゼウスト=ヴェネジクトと出会うことになる。


「領内の友人に会うためだったが、最小限で移動したのがうかつだった」

 後にわかるが、辺境伯は、帝国に潰されたステッペンガルト王国から逃げてきた人。元軍師をかくまっていた。ひっそりと暮らしたいという本人の希望を聞き入れ、王に知れると面倒になるという思いから、その彼は、表には出していない存在らしい。


 馬車が八人乗りで、本人と護衛、それと娘さんのクリスさんが乗っていた。

 相手方に、息子さんがおり、年が近いためだ。


 クリスさんは、この時十二歳。

 見たことのない男の子。レオンが少し怖かったのか、御父様である辺境伯にしがみつき、馬車の中では、ほとんど話すことが無かった。

 だがそれは、人見知りのせいで、レオンと友達になりたいという思いはあり、町に帰ってから、お嬢さんのすこしだけ暴走気味な、助力が始まることになる。


 そして、後にクリスお嬢様は、王の妃。その一人として、召しあげられることになる。

 その時、同行を願われたレオンは、王都において兵団へ加入をして、その頭角を表していくことになる。兵団の主だった者達は、貴族の子弟のため。ずいぶん嫌われたが。


 それは、時代の流れとしか言えない。レオンは国へと必然のように関わっていく。

 だが、それはもう少し先の話。


 領都、テルミウス=オピディウムにおいて、少年レオンはこれから生活を始め。色々な人と関わり、自身を研鑽していく。



 馬車のおかげか町中へ素直に入り、そのまま領主の館でお世話になる。

 食べたことのない料理やお風呂。そしてベッドに横になりレオンは生活の違いに驚くことになった。


 村にもベッドはあったが、虫除けと寒さをしのぐための物、板で作られ干し草を敷き、上着をかぶって寝る。

 食事など、雑穀のおかゆが主であり、たまにパンが食べられたが、雑穀で作られ堅くぼそぼそしたモノだった。


 だが、今晩食べたものは、白く焼きたて。穀物のからや小石も入っていなかった。

 スープに肉。平たいパンを千切りその上に、大皿から取り分けながら肉や魚をのせて食べる。

 貴族の食事。


 そして、あまりにもレオンが小汚かったのか、風呂が焚かれて入れられた。

 うん専任の担当者がいて、文字通り洗われた。


 伸び放題だった髪も切りそろえられ、かなりさっぱりした。


 そして翌日、従者さんの案内でギルドへ赴く。

 なぜか、お嬢さんも付いてきた。

 だからまた馬車で移動。


 馬車が来たため、ギルドは騒然となる。

 注目の中、従者に連れられ、ガキが一人カウンターと向かう。

 さっぱりとした感じで、貰った古着を着込み、一見貴族の下働きのように見えたと後で聞かされる。


「この子は、シグナ村のレオンと申すもの。歳は一三の様だ。登録を頼む」

 そう言われて、受付のお姉さんは一瞬固まる。


 貴族関係かと思ったら、シグナ村の出身? 村の出身者なら、毎年のようにやって来る。

「はい。承知いたしました」

 そうは言っても、成人もしていない準構成員。

 ギルドの焼き印が押された木札に、日にちと名前を書き入れるだけ。


 成人するまで、準構成員としてできる仕事は、町の中の便利屋さんと決まっている。

 すぐに、札が渡される。

「これで登録が終了です。未成年のできることは、そちら側に張られているものだけとなります」

 そう言って、壁の一部を指し示す。


「だそうだ、分かったかねレオン君。それと、宿泊代を払っておこう、彼に使用させてやってくれ」

「はい」

 目の前で胴貨が数枚渡される。

 聞けば、一月分が払われたようだ。


 此処では、鉄の小片が最小貨幣である銅貨の下に存在しているが、宿泊などは、銅貨一枚で何日分という感じで、ギルドでは扱われている。

 普通の宿なら、一晩で銅貨数枚。

 ギルドは行き場のない構成員への救済目的で、銅貨一枚で五日くらいは泊まれるらしい。


 むろん仕切りも何もない。

 気がつけば、荷物が消えるくらいはあるが、外みたいに身ぐるみはがされていることは無いようだ。


 そこで、お嬢さんから提案が出される。

 従者が呼ばれ、何かを伝えられる。

「お嬢様からの提案だが、銀貨五枚を出す。この者はレオンと申すが、ハンターの基礎を教えるものはいないか?」

 そんな、危険な提案が出される。

 悪い奴なら、金を受け取り。

 町の外へつれ出して、レオンを殺せば良いだけの、簡単なお仕事だ。


「おれも、シグナ村の出身だ。レオン久しぶりだな」

 そう言って手を上げたのが、幼馴染みのダレル達だった。


「ダレル。ヴェリ達も」

 その様子を見て、従者さんはお嬢さんの方を向く。

 お嬢さんも納得したようで、また何か従者に伝えるが。

「お嬢さん。それは直接本人に言ってあげた方が、よろしいと思います」

 そう言われて、顔が赤くなる。


 大きく息を吸うと、口をパクパクした後、「レオンさん。がんばりなさい」と結局、小さな声で言ってくれた。

「ありがとうございます。頑張ります」

 そう答えて、頭を下げる。


 すると満足をしたようで、お嬢さんは従者さんを連れて、ギルドを出て行く。

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