第14話 ワマトからの親書

 セバスに呼ばれて執務室に入ったユースケとリンコはワマトからの親書について教えられた。


 ワマトの天皇から親書が届けられた。親書の内容はアスノロク王国との合同で魔獣の森の調査を行いたいとの内容だった。

 勿論だがアスノロクからワマトへの親書も出していて同じ内容である。

 国王セバスは直ぐに返書をしたためて親書を持ってきた使者に手渡した。ワマトから戻ってきたアスノロクの使者も天皇からの返書を手にして戻ってきて、三日後にワマト側とアスノロク側から調査隊を派遣する事が決まったそうだ。


「それではイルマイよ、ミセが戻ればミセにも魔獣の森の調査隊に入って貰うとして、騎士団からはホーンとメイアの二人で良いか?」


「はい、陛下。それとハンターギルドから二名ほど派遣してもらう予定です。ワマトの方も総勢で八名との事でしたので、このぐらいの人数で良いかと思います」


「うむ、それで良い。ユースケ殿、リンコ殿、済まぬがよろしくお願いする。本当は余も行きたいのだが、ワマトの姫君がその時に我が国に来られるそうなのでな。お相手をせねばならぬ」


「おおー、お姫様ひいーさんが来るのか! 俺も会ってみたいなあ」


「それならば大丈夫だ。ワマトの姫君は二ヶ月ほど我が国に滞在される予定だ。ユースケ殿も会う事が出来るぞ」


 セバスが気軽にそう言うとイルマイが少し困ったようにセバスに言う。


「陛下、ワマトのナデシコ姫は陛下のご婚約者ですぞ、あまり他の男性にお会いするのは……」


「おおー、婚約してたんだなセバスさん。それなら俺は遠慮しておくよ。俺に惚れたら困るだろう?」


 ユースケがそう言った途端にリンコからの回し蹴りがユースケの脇腹に決まった。


「グボァッ!?」


 吹っ飛んだユースケにリンコが言う。


「またつまらぬ者を蹴ってしまった……」


 また始まったとユースケとリンコを見る他の面々だったが、セバスがリンコに声をかけた。


「リンコ殿、ユースケ殿が壁にめり込んでおる。壁は侍従に修復させるから構わぬのだが、出来ればもう少し手加減して貰えぬか。壁の修復をさせた侍従はその日一日は魔力回復をさせねばならぬのでな」


 セバスにそう言われリンコはとても反省する。


「そうだったんですね、ごめんなさい。セバスさん、次からは壁を壊さないように結界を張って先輩を懲らしめる事にしますね」


 そのリンコの言葉に壊れた壁から抜け出しながらユースケが文句を言う。


「いや、死ぬわっ!! 結界なんか張られてそこにぶつかったらいくら俺でも死ぬから!」


「いえ、先輩なら大丈夫ですよ。そもそもいらぬ事を言わなければこんな事にならないんですしね。私の言ってる意味、わかりますよね?」


 笑顔でも目が笑ってないリンコの顔を見てコクコクと頷くユースケ。そのままセバスの方を向いて言う。


「あー、まあ、悪かったセバスさん。ちょっと冗談を言ったつもりだったんだ。それと、この壁なら俺が今から治すよ」


 そう言うとユースケは時魔法の【遡及そきゅう】を使い壁を治した。それを見て他の面々がザワザワとする。


「なんと! 壁が元通りに!?」(セバス)

「ユースケ様は修復士のスキルもお持ちか?」(イルマイ)

「先輩、どうやって治したんですか?」(リンコ)

「おおー、これなら騎士団の壊れた武具も!」(エイムス)


 口々にそう言う者たちにユースケは種明かしをした。


「いや、みんなに言っておくけど修復したわけじゃないからな。時魔法で壁の時間を壊れる前に戻しただけだから」


 そのユースケの説明にリンコ以外はあんぐりと口を開けて呆けてしまう。


「先輩、またそんな規格外の魔法をなんの前触れもなく使用して」


 リンコが突っ込むがユースケは言う。


「いや、だって侍従さんの貴重な仕事時間を壁の修復で奪うわけにはいかないだろ?」


 そこでイルマイがユースケに聞く。かなり興奮しているようだ。


「ユッ、ユッ、ユースケ様!! その時を遡るのはどこまでも遡れるのですか? 人体にも有効なのですか? 私、青春時代は勉強ばかりで楽しいものじゃ無かったのですが、もう一度青春時代に戻れるのでしょうか!?」


 問われたユースケは素直に言う。


「あ、ごめんイルマイさん。人体にもかけられるけれど、一部だけっていう制限があるんだ。例えば腕を骨折したならその腕を骨折前の時間までは遡れる。けれどもその人の全てを遡る事は出来ないみたいなんだよ。物も同様に壊れた部分を壊れる前までは戻せるけど、何百年も経ってたら無理だよ。一分遡るのに魔力を10消費するからね。一時間で600を消費するから、一日だと14,400も消費する事になるから、俺の魔力がスッカラカンになってしまって下手すりゃ死んじゃうからね」


 説明を聞いたイルマイはちょっと残念な顔になってしまったが、セバスは違った。


「ムウ、何という強力な魔法だ。ユースケ殿、その魔法【遡及そきゅう】については余りおおやけにせぬ方が良いと余は思う。なので、ここにいる皆には箝口令をしく事にするぞ、良いな?」


「ハッ、陛下!!」


 イルマイ、エイムスの両名がそう返事をして、ユースケの魔法【遡及そきゅう】については緊急時以外は使用しない事を決めたのだった。


「それにしてもユースケ殿、差し支えなければ今のレベルを教えていただけぬか?」


 セバスがユースケにそう問いかけた。ユースケはアッサリと自分のレベルを教える。


「うん、今の俺のレベルは23だよ」


 そう答えながらユースケは自分の能力を確認する。



名前:ユースケ

性別:男

年齢:十五歳

職業:時魔士ときマシ

レベル:23

経験値:259,500/307,235

体力:102,427

魔力:256,010

【時魔法】

加速:持続時間十秒

自身対象(消費魔力1)

自身以外対象(消費魔力2)

減速:持続時間五秒〜十五秒(選択可能)

自身対象(消費魔力3)

自身以外対象(消費魔力5)

遡及:

対象(一分に遡ると消費魔力10)

SP:144,500

スキル:

はざま流柔剛術

加速付与

原則付与

時間停止付与

取得可能スキル:

無し


玄抻素くろのすの権能:

一秒で一経験値と一スキルポイントSP



『今のSPじゃ取得可能なスキルが無いんだな…… まあまた直ぐに貯まるからいいか』


 ユースケは自分の能力を確認してそう思った。そこにセバスからの感嘆した声が響く。


「まさかユースケ殿のレベルが23とは!? これはかなりなハイペースでレベルアップをしているのでは? まさか、リンコ殿も?」


 セバスの言葉にリンコは否定する。


「セバスさん、非常識なのは先輩だけで、私はそこまで非常識じゃありません」


 リンコの言葉にイルマイが突っ込んだ。


「いえ、リンコ様も十分に非常識です……」 


 思わぬイルマイからの突っ込みにリンコはガックリと膝をついて落ち込んでしまう。


「私こそが地球の良心だと信じていたのに……」


 リンコの呟きはユースケにも聞こえたが、ユースケは笑って言う。


「アハハ、リンコが良心な訳ないだろう? むしろその言葉は俺にこそ相応しい!」


「境界流古武術奥義【螺旋掌らせんしょう!】」


 ユースケの言葉が終わると共にリンコの掌がユースケの腹にねじ込まれた。


「オグワッ!? リ、リンコ、それはシャレにならねぇ……」


 ユースケは今回は吹っ飛ばずにその場に腹を抑えて蹲る。そして息も絶え絶えに、


「と、時魔法【そ、そ、そ、きゅう〜】、くそ、発動、し、ねぇ…… 【遡及!!】…… な、何とか間に合った…… こら、リンコ、危うく死にかけたぞ!!」


「先輩がバカな事を言うからですよ! それにちゃんと手加減はしました。だから魔法を唱える猶予はあったでしょう? 本来ならそんな猶予も無いんですからね!!」


「だからってお前、対妖怪用の奥義を出すなよ! 俺は人であって妖怪じゃねえっ!!」


「アレ? 先輩、自覚が無かったんですか? うちでははざま流の人は妖怪扱いでしたけど?」


 などと二人がいつもの掛け合いをしていたらイルマイが言った。


「私にすればお二人とも怪物です……」


 その言葉に二人はガックリと膝をついたのだった……


「ウム、まあ余もそう思う。それで、ユースケ殿、リンコ殿、話を戻すが魔獣の森の調査の際にはよろしくお願いする」


 セバスにまで怪物と言われ更に落ち込む二人だったが魔獣の森の調査にはちゃんと同行すると頷いたのだった。


 そしてその日は二人とも落ち込みすぎて何もせずに過ごし、翌日になってイルマイの弟子が戻ってきたと聞き、会う為にイルマイの研究所に向かった。


「おーい、イルマイさん。お弟子さんが戻って来たってラルフが教えてくれたから会いに来たんだけど居る?」


 扉の外からユースケがそう言うと、開いた扉からネイとアカリとシンゴとデカトラとユミコが現れた。それを見て驚くユースケとリンコ。


「アレ? まさか君らがイルマイさんの弟子? いや、シンゴは俺の弟子の筈だけど? デカトラさんも俺の弟子だったよな?」


 とユースケが言うと五人の後ろからとても妖艶な美女が現れて自己紹介をした。


「初めまして、ユースケ様、リンコ様。私が賢者イルマイの弟子でミセと申します。アスノロク王国に戻る途中でシンゴ様、デカトラ様、ユミコ様、ネイ様、アカリ様と出会い師であるイルマイから聞いていたユースケ様とリンコ様と出会う為に旅をしているとお聞きして、一緒に戻って参りました。よろしかったでしょうか?」


 そう聞いたユースケの第一声が、


「うっわっ!? とってもエロいお姉さんだなぁ! 地球で会ってたら飲みに誘ってたところだ。で、勿論だけど連れてきてくれて有難う。きっとこの五人も現地の人に案内してもらって助かったと思う」


 とミセに礼を言うが、初めの言葉にリンコが反応して


「先輩が失礼な事を言ってごめんなさい。私はリンコと申します。そして、五人を連れてきて下さって本当に有難うございます」


 とユースケの脇腹を思いっきり抓りながらミセに頭を下げた。ユースケは悶絶している。そんな二人を見てネイとアカリは泣き出した。


「良かった! ユースケ主任とリンネ先輩にやっと会えました〜……」


「ふぇ〜ん、ここまで来て出会えるのか不安だったけど、ちゃんと会えて良かったです〜……」


 そんな二人をユースケとリンコは頭を撫でてやりながらヨシヨシしてやり、


「おう、会えて良かった。頑張ったな、二人とも」

「二人とも良く元気で、あ、私の名前はリンコになったから、これからはリンコって呼んでね」


 と労り、シンゴ、デカトラ、ユミコに向いて


「シンゴも良くやった。俺との約束をちゃんと守ってくれたんだな。デカトラさん、フジタさんも無事で良かった、この国ならば安心して過ごせるし、東の国は日本に似た国らしいから俺とリンコが行くときに一緒に行ってみような」


 と三人も労った。それからイルマイも出てきて


「皆さん、積もる話もあるでしょうから今から案内する応接間でどうぞ寛ぎながらお話してください」


 と言ってくれたので、七人は有難うと礼を言って応接間へと向かったのだった。


 ネイとアカリとシンゴの三人から先ずは話を聞き、それからデカトラとユミコからの話を聞いてユースケとリンコも五人に話をしてお互いの近況を語り合った。昼までには終わらずに、昼食も応接間に運んで貰い、そのまま話を続け夕方になりやっと話が終わり疲れている五人をラルフとレイに頼んでセバスが用意してくれた客間に案内してもらって休んで貰う事となった。


「先輩、良かったですね無事に会えて」


「ああ、本当にな。シンゴがついてるから大丈夫だとは思ってたけど、それでも少しは不安だったからな。何事もなくここまで来れて良かったよ」


 ユースケとリンコはそう言い、明日はちゃんとミセにお礼を言おうと二人で決めて、それぞれの部屋に戻ったのだった。


 




 

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