第12話 誰も知らないクロノスの神殿

 加速により文字通り足早に戻ったら門の前にはセバス国王も待っていた。


「陛下! ご報告申し上げます! ワマト方面に向かった第四陣、無事に倒す事が出来ました! また後ほど王宮にて詳細を報告いたしますが、ワマトでは刀神イセ殿が出張っておりました!」


 セバスの目の前で騎士の礼をしながらエイムスが簡潔な報告をする。それを受けて返答するセバス。


「うむ、ご苦労であったエイムスに精鋭騎士の皆。全員が怪我なく無事に戻ってきてくれて余は何よりも嬉しいぞ。何よりもユースケ殿のお陰であろうな。ユースケ殿、感謝いたしますぞ。それに、刀神イセ殿が戻られておったのか。それはワマトにとって不幸中の幸いであったな」


「はい、陛下。最後はイセ殿がとどめを刺されて終わりました。武者修行より戻られてますます冴え渡る剣技でございました。レベルも38になられたそうです」


「何ともはや…… きっと物凄い修行をされたのであろうな。では、詳細な報告は王宮にてしてもらうとして…… この場にいる皆のもの! 其方たちは英雄である! 魔獣の大暴走を見事に止めてくれた事を余は民たちに代わり感謝いたす! 狩人の者たちには後ほど一人一人に謝礼として五十万ゼニーを渡したい。命をかけて守って貰ったのに少ない報酬で申し訳ないが、どうか受け取って欲しい!」


 セバスの言葉に防衛組織に組み込まれた狩人たちが歓声をあげた。


「ウオオーッ、国王陛下、万歳!!」

「陛下、少ないなんて事は無いですよ! 五十万ゼニーもあればカカアも泣いて喜びます!」


「うむ、皆はそう言ってくれるのは嬉しいのだが、余はもう少し感謝の気持ちをしめしたいのだ。なので、王宮にあるワマトからの寄贈品であるワマト酒を二樽、ハンターギルドにおろすゆえ今宵は皆で飲んで楽しんでくれ」


 その言葉に益々狩人たちが盛り上がる!


「ウオオーッ、俺はアスノロクで狩人になって良かった!! もうこの国に骨を埋めますぜ、陛下!!」

「俺もだっ! これからも陛下の為に周辺の魔獣を狩ってみせます!!」

「良ーしっ! お前たち、それでは最後に陛下に礼を言ってギルドに戻るぞっ!! 今夜は宴だーっ!!」


 狩人のまとめ役がそう言って一番にセバスに礼を述べたあと、狩人たちも次々に礼を述べてその場を去っていった。

 狩人全員が居なくなったのでセバスは騎士と兵士に向かって言う。


「皆のものも本当にご苦労であった。今回の防衛組織に参加してくれた皆には特別給与を支給するように宰相に言ってある。階級によりその金額は異なるのだが、それは許して欲しい。それと、明日と明後日は其方たちは休養日といたす事も指示してあるので、ゆっくりと身体を休めてくれ!」


 セバスの言葉に騎士たちも兵士たちも片膝をつき感謝を表す。


「さあ、それでは今回の防衛組織はこれにて解散だ! エイムスにイルマイ、ユーリは余と共に王宮へ戻るぞ。それと、ユースケ殿とリンコ殿も…… ? ユースケ殿?」


 ユースケの姿を求めてセバスが視線を巡らすと、ちょうどリンコを相手に話をしているところだった。


「それでなリンコ、会談と怪談話を引っ掛けて面白おかしく言ってやったんだよ」


 ユースケの話を聞いてリンコが顔をしかめて引いている。


「先輩、その冗談は通じなかったでしょ。だっていくら軟派軟弱野郎のエイムスさんでも自分の君主の話を冗談にしたりはしない筈ですから」


 何気にリンコのエイムスの評価が低い事が分かる。エイムスにもその言葉は聞こえていて、


「な、軟派軟派野郎……」


 と、かなり落ち込んでいた。


「そこなんだよ、リンコ。武士のイセさんも乗ってこないしさ、俺の魔士デビューは武士と騎士によって阻まれたんだ」


「魔士デビューって、先輩。デビューも何もこの世界に来た時点で既に魔士デビューは済んでますよ」


 リンコの言葉にユースケはチッチッチッと指を振り言う。


「いいや、それは違うなリンコ。この世界で初めてのジョブ【魔士】となった俺たち二人のデビューはまだ出来てないんだ。大々的に武士や騎士と同じようなジョブだと認識されてないんだからな」


 ユースケの言葉にリンコは呆れている。


「はあ〜、先輩…… 世界が違っても残念なのは変わらないんですね…… まあ、そこが先輩らしいんですけど」 

 

 とそこでようやくセバスが二人に声をかけてきた。ついつい二人の掛け合いを聞いてしまっていたようだ。


「ユースケ殿、リンコ殿、ここでの脅威はお二人のお陰で去った。皆の者にも解散を言ったので王宮へと戻ろうではないか。それにしても会談と怪談をかけるとは、中々のユーモアだなユースケ殿、ハッハッハッ」


 セバスの言葉にユースケはドヤ顔でリンコに言う。


「ほら見ろ、リンコ。国で一番偉い人がちゃんと俺のユーモアセンスを分かってくれてるぞ!」


「先輩、世の中には建前と本音があるんですよ。セバスさんはお世辞でそう言って下さってるんです」


「うん? 世辞などではないぞ、リンコ殿。しかし、余は構わないがワマトの天皇の前では謹んでおいた方が良いぞユースケ殿。あのおかたは冗談があまりお好きではないそうなのでな」


 セバスの言葉にユースケは分かったと頷いたが、リンコは思っていた。


『絶対に分かってないですよ、セバスさん……』


 後にこの時のリンコの思いが正しかったと分かる時がやって来るが、それはまた後日。


 それから王宮に戻ってセバスの執務室に一同は集まりエイムスから詳細な報告を受けたセバスが唸っていた。


「ウーム…… これまでの大暴走では第四陣に出てくる魔獣は一体だけだったのだが…… 今回は五体も出てきただと…… それも色付き個体の変異種ばかり…… 魔獣の森で何かが起こっておるのか…… 確かにこれは刀神イセ殿が言ったように調査隊を派遣する必要があるな。イルマイよ、ミセはそろそろ戻って来るか?」


「はい、陛下。我が弟子ミセはナカクニまで戻っておりますので、二日後には王国に戻って参ります」


「エイムスよ、ワマトより親書が届く前に余からも親書を出そうと思う。ユーリを遣いに出しても良いか?」


「はい、陛下! ユーリならばいつでも!!」


「団長、戻って来たときに書類が溜まってたら…… 分かってますよね……」


 鬼のように怖いユーリ副騎士団長が居なくなるならばと喜んで遣いに行かそうとしたエイムスだが、ユーリの言葉に冷や汗をかいている。


「ハ、ハハハ…… ユ、ユーリよ。ちゃんと書類仕事もするぞ」 


「ウム、エイムスよ、ちゃんとするのだぞ。ユースケ殿、リンコ殿、恐らくは二日後になるかと思うのだが、ワマトとの合同調査隊にお二人も参加していただけぬか? お二人が一緒に行って下されば滅多な事も起こるまい」


 セバスから頼まれたユースケは言う。


「おう! 【魔士道】に則って任されてやる!!」


「先輩、【魔士道】って何ですか? 初耳ですよ。セバスさん、もちろん参加します。その前に、この国には玄抻素くろのす様の神殿があるとお聞きしたのですが、町中には無かったようなのですが……」


 リンコはユースケに突っ込みつつ、ようやく緊急要件も片付き落ち着いたので、聞きたかった事を確認している。リンコはとても優秀だ。


「はて? 玄抻素くろのす様の神殿…… 神殿というからにはその玄抻素様とは神の一柱ひとはしらであらせられるのだろうが…… 済まぬ、リンコ殿。余はそのような名前の神は存じ上げぬ。イルマイは知っておるか?」


 問われたイルマイは眉間にシワを寄せ考え込む。


「何かの書物で読んだような気もするのですが…… 半日ほど時間をいただけますか、リンコ様? 調べてみます」


「はい、よろしくお願いしますね、イルマイさん」


 どうやら玄抻素くろのす神の神殿はアスノロク王国では忘れられてしまっているようだ。

 これは他の国でもそうなのだろうか? 確か創造と管理の神だと言っていたと思ったけれど…… イルマイに返事をしながらリンコがそう思っていた時にユースケが話しかけてきた。


「リンコよ、魔士道とはな、【いつも心にお笑いを!】だっ!!」


 サムズアップをしてリンコをドヤ顔で見ながら言うユースケにリンコが拳を構えて言う。


「境界流古武術秘奥義【魔天狼まてんろう!!】」


「グハッ!?」


 リンコの秘奥義によりド派手に壁に向かって吹っ飛んでいくユースケ。それを見ながらリンコが言う。


「またつまらぬ者を殴ってしまった……」


「イッ、イヤイヤイヤイヤッ! リンコ殿? ユースケ殿も大丈夫か?」


 すると心配されたユースケもめり込んだ壁から身体を抜き出しながらセバスに返事をする。


「大丈夫だぞ、セバスさん。前いた世界ではこれが通常だったからな」


「チッ! 仕留めそこねたわ」


「いや、リンコ様…… 仕留められると私たちが困りますので」


 リンコの舌打ちと共に吐き出された言葉にイルマイが直ぐに突っ込んだ。


「ウ、ウム。ユースケ殿とリンコ殿が居られたのは中々殺伐とした世界であったのだな……」


 殺伐としていたのはこの二人だけで、他はそんな事は無いのだが、二人もセバスの見当違いの言葉を否定しなかったので、この世界の人々はこう考えた。


『だから二人とも魔法職なのにあんなに強いのか』


 と…… 全くの勘違いなのだが。


 それからユースケとリンコにはセバスから防衛参加の報酬として五十万ゼニーずつが渡され、王宮の中の客間を一室ずつ専用の部屋として与えられた。更にはユースケには侍従として十二歳の少年がつき、リンコには侍女として十歳の少女がつく事になった。


「ユースケ様! ラルフと申します。至らない事もございますが、どうかよろしくお願い致します!!」


「おう! よろしく頼むな、ラルフ!」


「リンコ様、レイと申します。精一杯お勤め致しますのでよろしくお願い致します」


「こちらこそ、よろしくお願いね、レイちゃん。先ずは町に出てみたいんだけど、案内してくれるかな?」


「あっ、リンコ、それなら俺も行きたい。ラルフ、案内できるか?」


「はい、ユースケ様。僕もレイも町育ちですので大丈夫です。あ、リンコ様。実はレイは僕の妹です。よろしくお願い致します」


「まあ、そうなのね。ラルフくんもよろしくね。先輩ユースケに何かイヤな事を言われたりされたりしたら直ぐに私に言ってね。代わりにお仕置きしてあげるから」


 ラルフは思った。怖い人って笑顔でも目が笑わないんだなと…… こんなにも綺麗な人なのに……


「は、はい…… 無いとは思いますがその時にはよろしくお願い致します」


「おい、俺がそんな人間に見えるか、リンコよ?」


 ユースケの突っ込みにリンコは笑顔で返事をする。


「先輩、無慈悲な野郎が何を言ってるんですか? 先輩は無自覚に人を傷つけるんですから、そこは自覚しておいてくださいね」


「グワッ、ま、まだその言葉は有効だったのか……」


 精神的ダメージを受けたユースケがガックリと項垂れる。


 その様子を見てリンコ様は少し怖い人なんだとラルフとレイは思ったのだった……


 そして翌日、ユースケとリンコはセバスに呼ばれて執務室にやって来ていた。どうやらワマトから親書が届けられたらしい。

 その話合いの場にはイルマイとエイムスの二人がいた。


 ユースケもリンコも実はこう思っていた。この王国って宰相さんが居ないんだなと……

 実質、賢者であるイルマイが宰相のような役割なのかと思っていたがそうでもないようだ。

 なので国王であるセバス自身が実務も兼ねているのである。

 うん、小さい国だから大丈夫なんだろうとユースケは思っていたが、実はイルマイやエイムスは宰相をおきたいと考えていたのだった。


 もう少し時間が進めばそれが実現するのだが、その話はまた今度……

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