第11話 赤鬼と青鬼 黄鬼は居ないようだ

 第二陣がやって来た。


 第二陣もユースケの加速により、怪我人を出すことなく魔獣を殲滅した防衛組織は湧きに湧いていた。


「ウオオーッ! 俺たちは無敵だっ!!」

「違うだろ! ユースケさんのお陰だよっ!」

「第二陣で怪我人が居ないなんて今までに無かったぞ!」


 兵士や狩人たちが興奮して話すなか、エイムスの大声が響く。


「よーし! 良くやった、お前たち! 第三陣への備えの為に隊列を変更するぞ! リンコ様、結界は大丈夫ですか?」


 リンコは門に結界を張って守っていた。


「うん、エイムスさん。大丈夫よ」


「ユースケ様、魔力は大丈夫ですか?」


「エイムスさん、まだまだ大丈夫だ」


 ユースケとリンコの返事を受けてエイムスはホッとした顔をする。それから隊列の変更を見守り第三陣に備えた。


 そしてやって来た第三陣。第二陣までの魔獣と違いレベルが高い所為か一撃(実際には五十回〜百回だが)では倒せない魔獣が多い。それでも確実に一体ずつ倒していく。


 そして、第三陣も終わった。直ぐにエイムスの声が響く。


「警戒態勢継続! 二十分待って何も来なければ精鋭部隊でワマト方面に進軍だ! ユースケ様は一緒にお願いします。リンコ様はここで結界の維持を! この場の指揮は副騎士団長のユーリに任せる!」


「はい!」


 ユーリの返事の後にみんなが警戒態勢を維持しながら時間が過ぎるのを待つ。 


 そして二十分後、エイムスが精鋭部隊に号令をかけた。


「良し! 第四陣がワマト方面に向かったようだ。我々も進軍して第四陣の後背をつくぞ!」


「オオーッ!!」


 その号令と共にエイムスとユースケを含めた精鋭部隊十五人が進軍を開始する。進軍している間にユースケはスキルを取得した。

 減速付与と時間停止付与の二つとも取得したユースケはその説明を読む。


【スキル 減速付与】

(物、植物に対してのみ有効)

✱付与した物の時間経過を遅らせる

一時間遅滞付与で消費魔力20


【スキル 時間停止付与】

(物に対してのみ有効)

✱武器や防具だけでなく食料、家など物ならば付与可能

一日付与で魔力200消費

※付与状態時は不壊


『おいおい、減速付与って敵の武器や防具に付与した場合はどうなるんだ? 説明がないぞ…… って、そうか! 時間の進みが遅くなるって事は劣化するのも遅くなるって事になるから敵に有利になってしまうんだな…… でも付与すれば加速付与と同じように敵の動きが遅くなるなら…… まあ、それは後で検証してみようか。リンコに頼もう。極めつけはコレだな…… 時間停止付与。付与した状態の時は不壊こわれずってヤバいだろ。防具と武器に早速だけど付与しとこう。あ、ついでにみんなのも付与しておこう。半日付与でいいか』


 魔力3,000を消費して進軍中のみんなの武器と防具に時間停止を付与したユースケ。勿論だが、進軍には時魔法の加速を使用している。魔獣の森は広大でまだワマト側に着かないのかとユースケが思ったその時に、とてつもない雄叫びを聞いた。


「グラガァゴァーッ!!」

「グルアーッ!!」

「ゲッゲッゲッゲッーーッ!!」


 その雄叫びを聞いたエイムスが叫ぶ。


「何っ!! オーガだとっ!! それも複数体居るのかっ!! 急げ! ワマトの危機だ!!」


 エイムスの言葉にユースケは一足早く進み出す。


 加速は今かけたばかりだから先ほどの雄叫びの発生源までは十秒も掛からずに着くはずだとの判断だ。

 事実、ユースケは四秒でオーガの背が見える場所にたどり着いた。 


「うわー、五匹も居るのか? ワマトの防衛陣は? おっ、ちゃんと防壁から弓矢や魔法で攻撃してるな。でもあまり効いて無さそうだぞ」


 実際に矢は刺さらずに跳ね返り、魔法も当たってはいるがダメージを与えているようには見えない。

 そこにエイムスたちもやって来た。


「何!? なんで五体も居るんだ? 今までなら一体だけだった筈だ! しかも五体ともレベルが高そうだ…… あの青い一体は異常なほどに高レベルに見えるぞ…… 赤い四体が従っているのを見るとあの青いオーガがキングか? しかし色付きのオーガなど初めて見るぞ……」


 あー、赤鬼、青鬼は初めてかエイムスさん。本当ならここに黄鬼が居れば完璧になるんだよとユースケは思ったが口に出しては違うことを言う。


「あの赤い方ならみんなの攻撃も多少は通ると思うけど、やって見る? 五人一組で三体なら相手出来ると思うけど、残り二体までこっちに来たら厄介だな…… エイムスさん、どうする?」


「うーむ…… 私とユースケ様の二人と、残りの十三人は四人が二組と五人が一組で四体ならば相手を出来そうだが。あの青いオーガをどうするか……」


「そうだね…… ワマト側が引きつけてくれたら良いけど、余り期待出来そうにないなぁ……」


 ユースケとエイムスが相談していた時にワマトの街の門が開き一人の武士が出てきた。それを見てエイムスが叫んだ。


「なんと! 刀神イセ殿ではないか!? 戻って来ておられたのか!?」 


 誰、それ? と思ったユースケは素直に聞いた。


「えっと、誰?」


「ユースケ様、ワマト国にこの人りと言われる刀神イセ殿は二年前にレベル30の壁にあたり、その壁を破る為に武者修行の旅に出ておられた御仁だ。戻って来られたとは聞いてなかったのだが、ここに居るという事はレベル30の壁を超えられたのだろう! イセ殿が居るならば我らは必要ないかも知れぬ。が、援護ぐらいはすべきであろう。先ほどの話の通りに赤いオーガ四体を我らで倒しましょう、ユースケ様」


 エイムスの言葉に頷いたユースケは取り敢えずの説明として、時間停止付与について簡単に言っておいた。


「えっとね、全員の武器と防具に俺の新しいスキルで時間停止付与っていうのをかけてるから。効果時間は半日で、さっきかけたばかりだからまだまだ余裕がある。で、ここが大事なんだけど時間停止を付与した武器と防具は不壊こわれずらしいから、みんないつもより思いっきり無茶をしても大丈夫だからな。あ、でも防具は壊れなくても身体に衝撃は来るだろうから、オーガの攻撃はちゃんと避けてくれよ」


 ユースケの余りに簡単な説明に一瞬、みんなの動きが止まる…… だが、急がなければならないと判断したエイムスの言葉により全員が動き出した。


「良し、取り敢えず詳しい話は後でユースケ様にじっくりとしてもらう事にして、今は赤いオーガを倒しに行くぞ! 総員、突撃ーっ!!」


 詳しい話も何も、アレ以上に言うことなんて無いんだけどな…… そう思ったが黙ったまま進むユースケ。討伐後のゴタゴタに紛れて誤魔化そうと考えていた。


 そして、目の前までたどり着いた時に全員に加速をかけ、効かないかも知れないが減速をオーガ五体にかけてみる。しかし減速はオーガの方がレベルが高いようでやはり効果がないようだ。


「加速はかけたけど、減速は効かないから一点集中で攻撃してくれ!」


 ユースケの言葉に騎士たちは頷き、自らの武器を振るう。オーガの攻撃は加速をかけられているので難なく躱せるようだ。

 そしてユースケは高レベルなら大丈夫だろうと、刀神イセにも加速をかけた。


「ムッ、そこな少年でござるか? かたじけない!」


「効果時間は十秒だけど、切れる前に再度かけるから気にせずに動いてくれ!」


「なるほど、コレは良い!」


 直ぐに順応してくれたイセにユースケは高レベルだと凄いんだなと思うと共に、かたじけないって時代劇以外で初めて聞いたなとバカな事も思っていた。


 それから三分ほどで赤いオーガ赤鬼四体を倒したユースケたち。

 しかし、青いオーガ青鬼は手強いようで、刀神イセでも仕留めきれないでいた。


「俺も入っていいか?」


 刀を構えて青いオーガを睨むイセにそう声をかけるユースケ。


「ムッ、少年の武器は六尺棒か…… ならば足元を崩してくれぬか? その隙に拙者が首の動脈を斬るゆえ」


「リョーカイ! 俺の名前はユースケだ、イセさん」


 そう言うとユースケは無造作に青いオーガに近づいた。青いオーガはユースケの小ささと手にした棒を見て脅威ではないと判断しているのかイセの方ばかりを警戒している。  


 ユースケはその油断が命取りなんだけどなと思いながら、六尺棒で青いオーガのスネを一秒で二百回叩きを十秒間続けた。


「ゴッ、!? ゴルギャーッ!!!」


 青いオーガが痛みに気づいたのは十二秒後で、その時にはスネの骨は滅茶苦茶に折れていたので立っていられずに倒れ込む。

 倒れきる前に刀神イセが刀を一振り(加速により一秒で百五十回)すると、首の動脈を確実に切断し青いオーガは絶命した。


 それを確認した防壁上にいたワマトの人々は大歓声を上げる。それに片手で応えた後に刀を鞘におさめたイセはユースケを見て礼を述べた。


「ユースケ殿、それにアスノロク王国騎士団の方々、ご助力かたじけない。拙者だけでは恐らくは無理であった。これでも武者修行にてレベルも38になったゆえに負けぬと思ったのだが…… まだまだ世の中は広い。それにしても大暴走の第四陣で五体も出たのも初めての事だ。後ほどの話となろうが合同で調査隊を出すことになるだろうと思う。その時にはよろしくお頼み申す」


 武士の礼を見たユースケは魔士としての礼を考えないとダメだなと見当違いな事を考えていたのだが、この場にリンコが居ないので誰にも分からなかった。

 更には、武士には【武士道とは死ぬこととみつけたり!】っていうキャッチフレーズあって、騎士には【騎士道精神】っていうキャッチフレーズがある…… 魔士にもキャッチフレーズを作らなければ!!


 と一大決心までしているとは誰も思ってなかっただろう。


「刀神イセ殿、お久しぶりでございます。素晴らしい腕前のほど、このエイムス感心いたしました!」


「おお、エイムス殿。騎士団長おん自らのご助力、誠にかたじけのうござった。天皇陛下にも今回のご助力について報告いたすが、近くまたアスノロク国王陛下の元に親書が届けられる事となろう。今年はアスノロク王国にての会談でござったな。その節はよしなに」


 と武士と騎士が話しているのを聞いて魔士も交ざらねばとユースケが意気込んで口を挟む。


「アスノロクとワマトでは毎年、怪談話をして楽しんでいるのか? 百物語なら俺も得意だぞ!!」


 とカイダン違いで笑いを取ろうとしたが、武士と騎士には通じなかったようだ。


「ユースケ殿、怪談話ではござらん。我が国の天皇陛下とアスノロク国王陛下が両国の友好について話をするのだ」


「ユースケ様、この世にユーリより怖いものの無い私には怪談話などは通じませんぞ」


 うん、この二人は真面目過ぎるとユースケは思ったとかなんとか……


 脅威は去ったのでユースケたちも自国への報告がある為に戻る事になった。互いに近いうちの再会を約束して別れ、またユースケの加速により全員が走ってアスノロクへと戻ったのだった。


 

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