第10話 かの者の名はヤマハゲ(幕間)
ここに一人の少年が居る。
こことはエバンス王国である。
その少年は剣聖というジョブを授かった。
そして、エバンス王国の賢者ダーマ・スノー・ト・クイに名前を問われた少年。
少年は目の前のボードを目を見開いて見ている。
『なっ、なんで? なんでだ? なんで俺様の名前が……』
「どうした? まさか貴様には名前が無いのか? ええい、私は時間を浪費する者が嫌いだ! さっさと答えぬか!! さもなくば私の火魔法で火だるまにするぞっ!!」
「ヒッ!? お、俺、いや私の名前は【ヤマハゲ】です!!」
その叫びに周りから失笑が起こった。どうやら少年と同郷の者たちが失笑しているようだ。
「プッ、クスクス、課長、遂にヤマハゲ確定」
「異世界にて
「神様って居るのね〜…… クスクス」
などと周りから失笑が起こるが賢者はそんな事を気にせずに次々と名前を確認していく。
「フンッ、
こうして次々と名前を確認されて、次に賢者ダーマは腕輪をそれぞれに着けるようにと取り出した。
「この腕輪を着けておけば、私以外の者もお前たちの名前とジョブが認識出来るし、身分証の代わりにもなるのだ。利き手じゃない腕に嵌めるように」
賢者ダーマの言葉に一人以外が疑いもせずに取り付けた。疑っている一人は腕輪がカチッと嵌め込むタイプだったので、その嵌め込み部分に薄い紙片を挟み込んでいた。それにより後で外す事が可能となる。
「全員が着けたようだな。ではここで言っておくぞ。その腕輪はもう私以外には外せない。お前たちが何処かに逃げても私にはその居場所が分かる。これからお前たちには戦闘訓練を受けて貰う。途中で死ぬ奴も出てくるだろうが、ついてこれない者はそのまま死ぬだけだ。ああ、陛下の愛妾になる者は戦闘訓練は免除だがな」
その言葉にキョウコを含む四人の女性がホッとした顔をする。その後の賢者ダーマの言葉に四人も顔面蒼白になる。
「ああ、言い忘れていたが私のいう事を聞かない者はその腕輪の位置から上腕部が腐って落ちるからな、腐り落ちても良い者は私のいう事を無視してもいいぞ。一応私の温情で利き手じゃない方に着けさせたのだという事を分かっておけ」
少年ヤマハゲは思った。髪がフサフサになったから髪の毛を二本抜いて挟んでおいて良かったと……
『フンッ、そんな事だろうと思って異物を挟んでやって良かった。ある程度訓練をして強くなったらこんな腕輪、外してやる!! それにもうハゲじゃないんだから名前も絶対に変えてやるぞ!』
心の中で強くそう思ったヤマハゲ少年だった。どうやら紙片を挟んだ者はヤマハゲ少年では無かったようだ。
紙片を挟んだ者はニヤリと笑いながら国王の愛妾として残る女性四人を見ている。
『ああ〜、なんだ〜、お
どうやらコウタ少年が腕輪の止具に紙片を挟んでいるようだ。果たしてそれで腕輪が外れるのか?
それは今夜、分かる。
それから十六人は食堂へと連れて行かれ、食事をとるように言われる。
食堂はセルフサービスのようで、固いパンと薄いスープ、生ぬるい水が出された。
食べている間は鎧を着た男たちに囲まれ何も相談できそうにない。そんな中で一人の女性がトイレに向かう。
それに着いていく鎧を着た男。
「ここだ。入れ。用足しがすめば直ぐに出てこい」
無表情にそう言われ怯えながらも用を足す為にトイレに入った女性はそのまま出てこなかった。
トイレに行ったのは実はキョウコで、
しかし、腕輪はどうなったのか……
実はキョウコは腕輪の止具を止めなかったので、直ぐに取り外す事が出来たのだ。
何故、賢者ダーマはそれに気が付かなかったのか?
何故ならば賢者ダーマは自分に逆らう者など居ないという傲慢な考えから、全員がちゃんと腕輪を着けたという確認をしなかったからだ。
現在もその居場所が分かる筈の腕輪を確認などはせずに、さっさと愛人宅にしけ込んでいたのだった。
だが、それもキョウコが逃げ出した事により、直ぐに王宮に呼び戻される事となった。
そして、腕輪がトイレにポンと置かれているのを見た賢者ダーマは激怒する。
直ぐに他の十五人を集めさせたのだが、集まったのは十人しか居なかった。
十五歳の子供と侮っていた賢者ダーマだが、その認識が甘かった。全員が元は二十歳以上六十歳未満の大人である。十六人の内、六人が腕輪をまともに装着していなかったのだ。
「グヌヌヌッ、おのれ!! この賢者ダーマをコケにしおってっ!! 今すぐ捜索隊を出して全員を連れ戻せっ!! このダーマの目の前に引き連れて来るのだっ!! 陛下に知られぬように急ぐのだぞっ!!」
賢者ダーマは失態を隠そうと必死であった。
そして、残った十人をギロリと睨みつけ、一人一人の腕輪を確認する。十人の腕輪はちゃんと装着されていた。
勿論、ヤマハゲの髪の毛作戦は失敗していた……
『クソッ、アイツら課長である俺様に何の相談もなく逃げ出しやがって! 一言ぐらい相談してくれても良いだろうがっ!! しかも俺様の腕輪をアッサリ外す作戦は失敗してるし…… コウタもコウタだっ!! アケミまで連れ出しやがってっ! これからアケミとお近づきになる予定だったのにっ!!』
ヤマハゲ少年の内心はこのような怒りで満ちていた。
コウタ少年はそのつもりは無かったのだが、国王の愛妾予定の四人と聖女であるアケミを連れてこの王宮から逃げ出したのだ。
そ
「ウフフフ、上手く行ったわ!」
キョウコが男性のまま不敵に笑う。既に王宮からどころか王都からも出ている六人。
「しかし驚きました。いきなりアケミさんの声が脳内に聞こえた時には」
「アラそう? その割にはかなり冷静だったじゃない」
コウタがそう言うとアケミも答える。
「必死に驚きを隠してたんですよ。それにキョウコさんのその姿にも驚きですね。ミハルさんやサナさんもそう思うでしょう?」
と、細工士のヨウコを無視してコウタは聞く。何故、細工士のヨウコを無視するのかというと、前世でコウタはヨウコに振られているからだ。それをヨウコも分かっているので何も言わない。
そもそもヨウコはコウタがアブナイ奴だと考えていた。だが、エバンス王国から逃げ出すのに男手が必要だというキョウコの言葉に従っただけである。
違う国にたどり着いたならば、このメンバーからは外れるつもりでもいる。
「そうね、キョウコさんが男性になってるなんて思わなかったわ」
「私は今のキョウコさんに惚れてしまいそう!」
ミハルやサナは生前でもお
「ウフフフ、有難う。それよりもアケミちゃん、どうして貴女まで逃げ出そうと思ったの? 貴女のジョブならばそれなりに力をつけたら優遇されたんじゃない?」
男性の姿のまま女性の時の口調で喋るキョウコはまるでオネエさんのようだ。
「キョウコさん、私は戦闘なんてしたくないし出来ないわ。それに、ヤマハゲがずっと嫌らしい目で見てきてたし。キョウコさん、ミハルさん、ヨウコさん、サナさんにはお世話になっていたから国王の愛妾なんてさせられないと思っていたから声をかけさせて貰ったの」
と建前を口にするアケミだが、本音は
『
と打算だらけなのは言うまでもない。しかし、それは他の五人も同じなので似た者同士が集まった【類は友を呼ぶ】六人なのだった。
一方で王宮に残っている十人。
剣聖のヤマハゲ、盾師のナリタ、黒魔法士のセイジ、戦闘士のランマ、招喚士のケイスケ、時空魔法士のヨウジ、魔物使役士のミナコ、闘剣家のニナ、白魔法士のイオリ、先導士のマヤたちは賢者ダーマにより一室に集められ、これからは剣聖のヤマハゲをリーダーとして訓練をしていく事を告げられていた。
女性陣からは反対意見が出たが、ダーマによってその意見は潰された。
「お前たちは私の意見に逆らうというのか? 腕輪の効力を忘れているのか?」
そう言われると何も言えなくなる。ヤマハゲは課長であった俺様がリーダーに相応しいと内心でニヤニヤとしていたが次の賢者ダーマの言葉に愕然とする。
「良いか、男どもにも女どもにも注意しておくが、お前たち同士が淫らな行いをする事は許さんし、その腕輪の効力を強めたから出来ん。もしもそれに逆らって淫らな行為を行った場合には、男は生殖器が腐り落ち、女は生殖器から悪臭を放つようになる。なに、真面目に訓練をして強くなったならば、男どもには女を用意してやるし、女どもにも見目良い男を用意してやろう」
『グヌヌヌ、今、抱きたいのだが!! 俺様はマヤを狙っていたのに…… だが、先ずは訓練からだ。剣聖ともなれば直ぐに強くなれるだろう。そしたらこのクソボケの賢者ダーマとやらを殺してこんな国からは出ていってやる。その前にこの腕輪の外し方を調べなければな。この賢者ダーマが居なくなったら全員で相談だな。この国を出たらアケミたちを探し出して折檻してやる! あんな事やこんな事をしてやるからなっ!! フフフ、今から楽しみだ!!』
とヤマハゲ少年は心に誓うのだった。ヤマハゲ少年の思い通りにいくかどうかはまだ分からないのだが、思い込みの激しいヤマハゲ少年は今後、どうなるのか?
それは神をも知らない……
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