第9話 大暴走がやって来た
「ユースケ殿!! 有難う! まさか余がオークを倒せるとは思わなかった!」
セバスが移動しながらユースケにそう礼を述べた。
「いやいや、役に立って良かったよ。セバスさん、レベルは上がった?」
「おお、そういえばレベル10から11になったのだ。どうやら斬ったオークのレベルが高かったようだ」
それを聞いてホーンとメイアもレベルを確認したようだ。
「どうやら私もレベルアップしたようです。17だったのが18に上がってます」
「私も上がったわ! レベル16になってる!」
それを聞いてイルマイが言う。
「恐らくは自分よりもレベルの高いオークを倒したので上がったのでしょう。これは、大暴走によってレベルアップする者たちが多くなりそうです」
「なあ、大暴走ってどれぐらいの規模なんだ?」
そこでユースケが気になっていた事を聞く。
「そうですね。今回の大暴走では予測となりますが、レベル10程度の弱い魔獣が第一陣として百体から百五十体、第二陣としてレベル12~16の魔獣が凡そ三百体、第三陣としてレベル18~23の魔獣が五十体ほどと見ています。そして、魔獣たちが逃げ出した魔力の元より生まれた魔獣がワマト国にいくか我が国に来るかで第四陣があるかないかという事になります。第四陣が我が国に向かった場合には、魔獣はこれまで通りならば一体だけ、レベルが30を超えているものと思われます。ワマトに向かった場合には我が国からも支援の兵を出して魔獣の後背を攻めますし、逆の場合もまた同様にワマトから兵の支援がございます」
イルマイの説明にユースケは頷き、続けて質問をする。
「それで、防衛に参加する人数は?」
「はい、騎士団長含め騎士団員が五十人、兵士たちが三十人、それにプラスして狩人ギルドに募集をかけていますので、応じて来てくれる狩人の人数となります。例年ですと全部で百人前後となります」
「なるほど〜。第一陣から第二陣、第二陣から第三陣が来るまでには多少の空き時間があるのかな?」
「はい、おおまかな時間ですが
「リンコ、他に聞いておく事はないか?」
そこでユースケはリンコに話を振る。生前の会社でもユースケがうっかりと忘れていた事などをリンコがフォローしてくれていたので、それを期待して聞いたのだ。
「はいはい! ずっと聞こうと思って忘れちゃってたんですけど、イルマイさん。私ってスキルを取得出来るみたいなんですけど、それって皆さんも同じですか? それと、私が取得出来るスキルに【箱】ってあるんですけど、同じスキルってありますか?」
リンコの言葉を聞いてイルマイが返事をする前にユースケも叫ぶ。
「おおっ!? そうだった、俺もスキル取得できるんだったっ!!」
「スキルを取得って、何の事ですか? スキルはそれに応じた経験をし、そのスキルに適性があれば得られる物で、特定のスキルを得られるなんて事はない筈ですが?」
イルマイが困惑したように二人に向かってこの世界でのスキルについて説明をする。イルマイの言葉に今度はユースケとリンコが困惑する。
「えっと……、アレ? そ、そうなんですか? 私も先輩も経験値とは別にスキルポイントっていうのがあって、それが貯まると取得可能なスキルが表示されるみたいな……」
「そうだぞ、俺も加速付与と減速付与っていうスキルが取得可能になってるんだけど……」
「えっ!? 付与ってあの付与ですか? 付与魔法は錬金術師しか出来ない魔法ですよ? ユースケ様は本当は錬金術師だったのですか?」
とイルマイが驚くがユースケのジョブは当たり前だが時魔士のままである。
「いや、俺は時魔士だけど? 付与って錬金術師以外の魔法系のジョブは出来ないのか?」
ユースケの問いにイルマイは頷く。
「それではその加速付与というスキルは例えばどのような事が可能なのでしょうか?」
「いや、それが取得しないと詳細が見れないみたいなんだ。この際だから取得してみるか。リンコも取得してみるか?」
「はい、先輩。私も取り敢えず【箱】を取得してみます」
そう言い二人とも他人に見えない能力値ボードを操作した。
「おお、ちゃんとSPが減った。それにスキル欄に【加速付与】が表示されたぞ」
ユースケはそう言い、そのまま説明を見る為にポチッとしたようだ。
【スキル 加速付与】
(物、植物に対してのみ有効)
✱武器や防具に付与すれば劣化が進むが物に付与された加速が身に着けた者にも効果を及ぼす
(一秒で出来る事が
一日加速付与 魔力100消費
✱味噌、醤油、酒など発酵が必要な食品の発酵を加速させる
一時間加速 魔力20消費
✱作物の成長を加速させる
一日で収穫まで加速 魔力1,000消費
リンコも箱についての説明を確認しているようだ。
【スキル 箱】
✱術者のレベルにより内部の大きさが大きくなる
(現時点千立方メートル【10m×10m×10m】)
レベルが1上がれば5mずつ大きくなる
内部 時間停止機能有り(オンオフ可能)
十立方メートルで魔力3消費
先ずはユースケが加速付与についてその場にいる者たちに説明をする。反応したのはセバスだった。
「おお! 素晴らしいスキルだ!! 余はじゃがいもが大好物でな、ユースケ殿。王宮に戻ったら直ぐに王宮の畑に向かおうではないか!!」
どうやら作物の付与に関心を持ったようだ。
「いやいや、陛下!! ここは先ずは醤油でしょう! これでワマトからの輸出が途絶えている醤油が手に入ります!」
イルマイは醤油が好きらしい。
そんな二人をホーンとメイアがため息を吐いて見ていた。ちなみにだが、ユースケとリンコも二人の言葉に呆れていた。いや、魔獣の大暴走が近々あるのに食い物かい! と……
思わずそう言ってしまったユースケにセバスは、
「ユースケ殿、それとこれとは別問題であろう? 魔獣たちは武器も防具も身に着けておらぬから、加速付与の効果的な使い方を考えただけなのだが」
尤もらしくそう言うセバスに、いや、あんたの好物の為じゃねぇか…… それに劣化は進むけど身に着けた武器や防具に付与を施したら最低一年は三十分の一秒で攻撃や防御を出来るようになるんだぞ! と内心で突っ込むユースケ。
「その通りでございますぞ、ユースケ様。何よりも醤油が無くては魚が美味しく頂けませんからな。それも全て民の事を思っての事です」
とイルマイの理由にはリンコが、
「お醤油が無くてもお塩だけでもお魚は美味しく頂けますよ。煮物でも出汁をちゃんと取れば美味しいですし」
と心の中では【屁理屈を言って】と思った事は口に出さずに正論をもって軽く突っ込むとイルマイが目をカッと見開き反論する。
「リンコ様! ご冗談を!! 醤油無しで食べる魚はコレは美味しい柿だと出された物が柿の種だけだった場合と同じですぞ!!」
柿の種、美味しいじゃんとユースケとリンコは某有名なお菓子を思いながら心の中で突っ込んだのは言うまでもない。
危機感が無いなあと思いながらもリンコはスキル【箱】について説明をした。
「おお! リンコ様、それならば糧食を入れて頂けますか? 大暴走時にはいつも干し肉ぐらいしか出てこなくて…… 時間停止をしていただけなら温かいまま食べられるかと思うのですが、お願いできますか?」
リンコの箱に食いついたのはホーンだった。しかしソレはマトモな意見だったので、ユースケとリンコは心の中で『真面目か!』と突っ込んだのだった。
口に出しては勿論、
「良かったです、ホーンさんがマトモな方で。勿論ですけど糧食は私のスキルで運びますよ」
と、ちゃんとした返事をするリンコだった。
そうして話合いながら一同は戻り、王宮に着いてからは本当にセバスによって畑に案内され、じゃがいもを加速付与で育てさせられたユースケ。
王宮の調理場でこれでもかと作られる食事を箱に詰め込められるリンコ。(保有魔力の限界まで)
大暴走への備えの為に、翌日には騎士、兵士、狩人たちに加速をかけて慣れて貰う訓練を実施。
その翌日の早朝五時に、偵察に出ていた足の早い狩人二人によって、大暴走が始まった事を知らされたのだった。
その時にはユースケはこの世界ではかなり高い方というレベルになっていた。ちなみにだが、体力、魔力ともにこの世界最高峰になってる事には誰も気がついていない。
誰にも聞かれないから体力や魔力の数値をユースケが言わないからだが、この日より数週間後にリンコによって明らかになるのは余談である。
名前:ユースケ
性別:男
年齢:十五歳
職業:
レベル:23
経験値:252,258/307,235
体力:102,427
魔力:256,010
【時魔法】
加速:持続時間十秒
自身対象(消費魔力1) 自身以外対象(消費魔力2)
減速:持続時間五秒〜十五秒(選択可能)
自身対象(消費魔力3) 自身以外対象(消費魔力5)
遡及:
対象(一分に遡ると消費魔力10)
SP:247,258
スキル:
加速付与
取得可能スキル:
減速付与(SP10,000で取得可能)
時間停止付与(SP100,000で取得可能)
一秒で一経験値と一
リンコもまたこの世界では高レベルと言われるレベルに到達していた。
名前:リンコ
性別:女
年齢:十三歳
職業:空間魔士 《くうかんマシ》
レベル:17
経験値:21,020/26,975
体力:1,627
魔力:4,010
【空間魔法】
結界:
自身対象(消費魔力1) 自身以外対象(消費魔力2)
空間圧縮:
対象範囲一立方メートル辺り(消費魔力5)
SP:20,820
スキル:
箱
取得可能スキル:
五メーターテレポ(SP1,000で取得可能)
支配空間(SP15,000で取得可能)
一分で五経験値と五
二人は防衛組織と共に防壁の外で向かってくる魔獣たちを待ち構える。勿論だがユースケとリンコも武器を手にしているが、それはもしもの時に備えての事で、実際には使用しないだろうと思っている。
ドドドッという足音が聞こえた瞬間にユースケは自身に加速をかけ、横一列に並ぶ三十人に同時に加速をかけた。
かけられた者たちはそのまま手にした武器を五回振ると、後列の者と入れ替わる。
ユースケは見えた動く魔獣に減速をかけてから、また自身に加速をかけて、入れ替わった者たちにも加速をかける。
かけられた者たちは同じように五回、武器を振る。そしてまた入れ替わる。
三回目には第一陣の魔獣たちは殲滅されていた。
「すっ、スゲーッ!! ユースケ様のお陰でこんなに早く第一陣が終わった!!」
狩人の一人がそう叫ぶとあちらこちらから同意する言葉が上がる。
「本当になっ!! こんなに誰一人怪我もせずに第一陣を切り抜けたのは初めてじゃないか!?」
「これなら第二陣にも対応出来そうだなっ!!」
あちこちで上がる楽観的な声に騎士団長のエイムスが喝を入れた。
「気を引き締めろ!! まだ大暴走が終わった訳じゃない!! 全てが終わるまで集中しろっ!!」
辺りに響き渡る大声にみんなの緩んでいた気が引き締まった。
ユースケはそれを見て、ちゃんと騎士団長なんだなあと内心で思ったが口に出しては違う事を言った。
「取り敢えず、みんなが訓練通りに出来てるから第二陣までは大丈夫だと思う。けれども第三陣に対しては昨日の訓練の通りにレベル15以下の人たちは下がって見ていてくれ。レベル16以上の人たちだけで対処するからな」
そう、第三陣では向かってくる魔獣のレベルも上がるので、低いレベルの者たちの攻撃ではユースケの加速があっても通用しないだろうとの見解になったのだ。なので、第三陣に対してはレベル16以上の者たちで構成しなおして攻撃する事に決まった。
そうこうしている内に第二陣のものと思われる足音が響いてきた。
「よーしっ!! 来るぞ! 気合をいれろーっ! 街を守るんだーっ!!」
エイムスの声にオーッという声で全員が応えて、第二陣に備えるのだった。
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