第8話 陛下、無双する
それからセバス、イルマイ、ホーン、メイア、ユースケ、リンコの六人は馬車に乗り王宮から外に向かった。
王都の街並みは整っていて、人々の笑顔がとても眩しい。どうやら国としては本当に善政をしいているようだ。
「どうだろうか、お二人とも。私が父から受け継ぎ、民たちが苦労しないようにとできる限りの事をしてきた我が国の様子は?」
セバスからそう聞かれたユースケは認めながらも辛口で言う。
「おう、確かに凄いなセバスさん。この街のみんなはとても良い笑顔だ。だけど、この王都以外の街や村はどうなんだ? そこまで気を配れているのか?」
ユースケのその失礼とも言える疑問にリンコが突っ込む。
「し、失礼ですよ、先輩!!」
しかしセバスの笑顔は変わらずにリンコに言う。
「良いのだ、リンコ殿。このように余に直接、言いづらい事を言ってくれる者は臣下には居ない。ユースケ殿の率直な物言いが余にとってはとても役に立つ事なのだよ。それで、王都以外の街や村についてだが、この度大暴走が起こるであろう魔獣の森方面には人は住んでおらぬ。それこそ、大暴走が数年に一度は起こるからな。それと、北にも街や村は無い。南には港町が一つと小さな入江がある村が一つ。今から向かうナカクニ方面の沃野までの間に商工の街が一つと村が二つある。ナカクニとの境には砦を築いており、もしもナカクニとの間で戦争になったならばその砦で敵を防いでいる間に、村や街の民を王都に避難させる予定となっている。港町の方にも常駐兵五十人が待機して不測の事態に備えている。港町から村へも一日に二度、その兵たちが十人一組で巡回をしているし、勿論だが余も視察には月に一度は公式に、月に二度は忍んで行っておるよ」
年若い国王であるセバスのその言葉にユースケは感心していた。
「ほえ〜、凄いなセバスさん。そこまでどうしてやれるんだ?」
ユースケの問いかけに笑顔で答えるセバス。
「余の先祖が興したというだけで、余自身が何かを成した訳ではない。それにも関わらず民たちは余を国王だと認めてくれている。ならばそれにちゃんと応えるべきであろう? そうは思わぬかユースケ殿、リンコ殿」
そのセバスの言葉にユースケはリンコに言う。
「リンコ、ヤマハゲにセバスさんの爪の垢を煎じて飲ますべきだと俺は思う」
「先輩、ヤマハゲには勿体無いですよ、それにアイツには効きませんって」
「それもそうか…… 今頃、アイツはどうしてるかな? いや、思うのも不快だから今の無しだな!」
などと二人で辛辣な事を言い合っていると、どうやら商工の街に着いたようだ。だが今回は街の視察ではない為に素通りする。乗っている馬車は何の変哲もない普通の馬車に見えるが、門番の兵士や街中の巡回をしている兵士たちには王家の馬車だと分かる印が施されている為に何の問題もなく素通りできた。
そのまま街を素通りして二つの村を迂回して馬車は進み、王宮を出てから凡そ三時間で沃野にたどり着いた。
沃野には大きな道があるのだが、イルマイがユースケとリンコに説明をする。
「コチラの街道を更に進むと我が国の砦がございます。この街道自体には弱めの結界を施しておりまして、レベルが8以下の魔獣は街道に入ってこれなくなっております。何故、レベル8かと申しますとこの沃野には弱い魔獣しか居ないからです。但し、まれにレベル10ほどの魔獣も現れますので、先ほどの街を巡回しておりました兵士とは別の兵士が砦までの半分の街道を巡回し、砦からは同じく村までの半分の街道を巡回して警戒をしております」
「へえー、なるほどなあ。それで、ここでセバスさんのレベル上げをするんだね、イルマイさん。で、セバスさんの今のレベルっていくつなんだ?」
それにはセバス自身が答えた。
「余はレベル5だ。家臣たちから危ない事は止めてくれと言われてな…… 中々これ以上上げるのが難しかったのだ。安心して欲しいのだが、一通りの剣術はちゃんと学んでいるぞ」
そう言うとセバスは腰の片手剣を抜いて型を披露する。その動きを見てユースケは思った。
「うーん…… 大丈夫か? どう思うリンコ?」
「そうですね、先輩。セバスさん、上から下に振り下ろす動きだけをするようにして下さい。それで大丈夫だと思います」
リンコの言葉にセバスは素直に従い、
「ムッ、こうかなリンコ殿?」
と、上から下に向かい片手剣を振った。
「はい。魔獣が現れて先輩が加速をセバスさんにかけたらその動きを魔獣に向けてして下さいね」
「分かった、そうしよう」
セバスが返事をした時にホーンが魔獣を見つけた。
「出ました、草原狼です。五体居ます、どうやら斥候のようです」
セバスが街道から外れて草原に立ちユースケに言う。
「良し! ユースケ殿、頼む!!」
ユースケは直ぐにセバスに加速をかけた。それを感じたセバスがリンコのアドバイス通りに剣を上から下に振り下ろす。一秒に五十回、それを五秒続けると剣先から斬撃が飛び、草原狼五体は真っ二つになった後に塵となり消えた。
「おっ、おおーっ!! やった、やったぞ!! 余は魔獣を倒したぞ!! それにレベルが5から6に上がったぞ!!」
雄叫びを上げて喜ぶセバスは年相応に見える。ちなみにセバスの年齢は十七歳だそうだ。
そこからはセバスが凄かった。何しろ五秒〜八秒ほどで魔獣を殲滅出来るのだ。あまり疲れる事もないので次々と現れる魔獣を真っ二つにしていく。
「やった! また上がったぞ! これでレベル10になった!!」
その声が聞こえた時にイルマイがセバスの前に行きセバスを止めた。
「さて、陛下。そろそろ戻りましょうか。執務も滞りますゆえに」
ユースケはセバスが駄々をこねるかと思っていたが、イルマイに言われたセバスは素直にいう事を聞くようだ。
「っ、そ、そうであったな。イルマイ。余はついレベルが上がるのが嬉しくて…… だが、これで2桁レベルになれたのだ。大暴走防衛作戦には余もちゃんと参加するぞ、良いな!」
「はい、お約束でしたからね。但し総大将としてでございますよ、陛下」
「分かってる。それでも良いのだ、余がちゃんと関わっていると分かって貰えるならば……」
と二人の話を聞いていたユースケだが何かに気づいたようだ。ホーンに向けて聞いている。
「なあホーンさん。あっちには砦があるって言ってたよな? 何か煙が上がってるんだが」
問われたホーンがそちらの方を向くと確かに煙が上がっている。
「アレは敵襲の狼煙!? 陛下、イルマイ様、大変にございます! 砦が何者かに攻撃されてるようです!!」
「何っ!? もしやナカクニか?」
「いえ、あの狼煙は左の塔からですので魔獣の襲撃のようです! 陛下とイルマイ様はメイアと共に王都へお戻り下さい。ユースケ様とリンコ様も共に! 戻る際に商工の街にて兵士たちに知らせるのだぞ、メイア!」
そう言うと駆け出そうとするホーンだが、セバス自身がそれを止めた。
「待つのだっ、ホーン! そなただけ行ってもなんにもならぬやも知れぬ! ユースケ殿、リンコ殿、力を貸して貰えぬか?」
この緊急事態にユースケはのんびりと頷く。
「ああ、勿論いいよ。リンコも良いよな?」
「はい、セバスさん。私たちで良ければ手助け致します」
そう返事をしてからユースケは自分のレベルを確認してみる。
名前:ユースケ
性別:男
年齢:十五歳
職業:
レベル:18
経験値:34,255,/40,460
体力:3,227
魔力:8,010
【時魔法】
加速:持続時間十秒
自身対象(消費魔力1)
自身以外対象(消費魔力2)
減速:持続時間五秒〜十五秒(選択可能)
自身対象(消費魔力3)
自身以外対象(消費魔力5)
SP:34,255
スキル:
取得可能スキル:
加速付与(SP5,000で取得可能)
減速付与(SP10,000で取得可能)
一秒で一経験値と一
「俺のレベルは今18になってるから、セバスさんを守りながら戦えると思う。リンコはどうだ?」
名前:リンコ
性別:女
年齢:十三歳
職業:空間魔士 《くうかんマシ》
レベル:12
経験値:2,850/3,555
体力:83
魔力:170
【空間魔法】
結界:
自身対象(消費魔力1)
自身以外対象(消費魔力2)
空間圧縮:
対象範囲一立方メートル辺り(消費魔力5)
SP:2,850
スキル:
取得可能スキル:
箱(SP200で取得可能)
五メーターテレポ(SP1,000で取得可能)
一分で五経験値と五
問われたリンコも自分のレベルを確認する。
「先輩、私はレベル12になりました」
「そうか、それじゃ行くか」
しかしイルマイが待ったをかける。
「ちょっ、ちょっと待って下さい、お二人とも。さか陛下までお連れするつもりじゃないでしょうね?」
慌ててそんな事は許さないという気概でイルマイが言うが、けれどもユースケの返事は軽いものだった。
「うん? そのつもりだけど? 何か問題ある? イルマイさん」
「問題大アリですっ!? 陛下をそんな危険な場所にお連れするなどっ!!」
しかしイルマイの大声の反論に対してユースケはのほほんとした口調のままで言う。
「それそれ、イルマイさん。セバスさんは防衛作戦に参加して、自分が決して最後尾でコソコソと命令だけするヤツになりたくないって思ってるんだよ。それはセバスさんの見栄もあるだろうけど、何よりもそうしたくない、自分も戦って民を守りたいという気持ちの表れだと俺は思うんだ。それならばそう出来るように何とかしてやりたいって思ったんだよ。で、今回はこの沃野にやってきて魔獣を倒してレベルが上がりました。そのタイミングで砦が魔獣により襲撃されているようだ。ならばセバスさん自身が行って砦を守る兵士たちを鼓舞するのは非常に有意義だと俺は考えるよ。さあ、【賢者】イルマイさんはどう思う?」
「凄い! 先輩がマトモな事をこんなに長く喋った……」
「いや、リンコよ、驚くのはソコじゃないからな!」
そんなユースケとリンコのやり取りを聞いてイルマイは……
「フッフフフ…… 私が陛下の御心を妨げていたとは…… 参りましょう、陛下! 行って兵士たちを鼓舞致しましょう!!」
そう叫び、ユースケとリンコに頭を下げたのだった。
「うん、それじゃみんなに加速をかけるから、走ろうね」
ユースケはその場の全員に加速をかけて走り出す。持続時間十秒が切れる前に再度かけなおし、三回目の加速が切れる前に砦前にたどり着いた。
砦を襲っていたのはゴブリンを従えたオークで、ゴブリンたちが壁をよじ登ろうとしている。ゴブリンの数はぱっと見で百体ほど、オークは十体だ。
ユースケはホーンとメイア、それにセバスに加速をかける。
「ほら、アイツら背中を向けてるから今なら斬り放題だよ! ヤッちゃって下さーい!!」
三人が剣を振り下ろし、十体いるオークのうち三体を真っ二つにして、そのまま前にいたゴブリンたちをも斬り裂いていった。
さすがに斬られなかったオークも気がついたが、こっちに来る前にセバスが縦横斜めと剣を振り、七体のオークを真っ二つにすると、残っていたゴブリンたちはギャーッと叫びなから北に向かって逃げ出した。
「フフフ、やったぞ! イルマイ、余でも戦える!!」
そう喜びの声を上げるセバスに砦から兵士たちの声が響く。
「陛下ーっ!!」
「陛下御自らの助太刀! この国の兵士で良かった!!」
「陛下の御身に栄光あれ!!」
その声に応えるようにセバスが剣を頭上高くに掲げると、兵士たちの雄叫びが砦から上がった。
「皆のもの、よくぞ砦を守ってくれた!! 近日中に魔獣の大暴走が起こるであろうが、余がいる限り心配は無い!! 皆はこの砦を守ることに集中して欲しい!! 後ほど、褒美を送るゆえ今後もしっかりと防衛を頼む!!」
セバスが雄叫びに応えてそう言うと、
「国王陛下、バンザーイッ!!」
「アスノロク王国にセバス王在り!!」
兵士たちが口々にそう称える。その言葉を聞きながら、六人はその場を後にしたのだった。
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