第7話 取り敢えず魔獣を見たい
セバス国王が大声でユースケの魔法を褒め称えた後に、イルマイに向かって言葉をかける。
「賢者イルマイよ、確かレベルが24であったな?」
「ハッ、陛下。そのとおりでございます」
「ムウ、何ともはや…… イルマイの張った結界がこの様に斬り裂かれておるという事は、レベルの低い騎士たちでも自分よりもレベルの高い魔獣の相手を出来るという事になるのか」
セバス国王の言葉にイルマイだけでなく騎士団長のエイムスまでもがハッとした顔をする。
「そうですな…… 陛下。まさしく仰るとおりでございます!」
エイムスは同意して深く頷いた。そして
「ユースケ様にお聞きしたいのですが、その魔法を何度使えますかな? いえ、それよりも一度で何人にもかける事は可能でしょうか? また、持続時間はどれだけあるのでしょうか?」
と矢継ぎ早に質問を始めた。その顔は国防を担う騎士団長としてキリリッと引き締まっている。
「先輩、真面目に答えないとダメなヤツですよ」
リンコの言葉にユースケは突っ込む。
「あのな、リンコよ。俺を何だと思ってるんだ。ちゃんと答えなきゃダメな時ぐらい俺だって分かってるっつうの!」
そのユースケの突っ込みにリンコは反論した。
「だって先輩、ヤマハゲに怒られてる時もふざけてたじゃないですか!? 笑いを堪えるのが大変だったんですからね!」
「いや、アレはヤマハゲだったからでだな……」
とまたもや二人で会話が続きそうになった時にセバスから待ったがかかった。
「待たれよ、そのお話はまた今度にしてくれぬか? 今はエイムスの質問に答えて頂きたいのだ」
そこでリンコは素直にごめんなさいとセバスに言い、ユースケは悪い悪いとちっとも思ってない風に謝るふりをする。
「エイムスさん、俺自身に加速をかけたら一度に百人に魔法をかけられるよ。持続時間時間は十秒だな。だから、十秒で千人にかける事が可能だ。でもな、もう一つ使える魔法があってな。そっちの検証はまだなんだが、減速という魔法を魔獣に使えばかなり有利になると考えているんだ。その魔法の持続時間は五秒〜十五秒で選択可能だからな」
ユースケの言葉にエイムスが考え込む。
「うむ、我が国の防衛組織の総人数が約百人…… ならば五秒で五十人に魔法をかけてもらい、残り五秒で魔獣にその減速の魔法をかけて貰えば、かなり有利になる……」
ブツブツと何事か呟いていたエイムスだが、おもむろにユーリの方を向いて言う。
「ユーリよ、木剣を手に取れ。久しぶりに模擬戦をしよう。ユースケ様、ユーリに加速を、俺に減速をかけて貰えますか? 持続時間は同じ十秒で」
問われてまあコレも検証になるかと承諾したユースケ。
そして、エイムスに減速をユーリに加速をかけた。
勝負は一瞬だった。ユーリの斬撃になす術無く吹き飛ばされて壁をぶち破って飛んでいくエイムス。一方で吹き飛ばしたユーリも呆然として自分の手にした木剣を見ている。
「えっ、私と団長ではレベル差が4もあるのですが…… 何故?」
「そりゃあ、一秒で三回も木剣を振れるユーリさんだから、一秒で百五十回も振ったらホーンさんよりも斬撃圧が凄くなるよな。それにエイムスさんには減速をかけてたからいつもよりも反応が遅くなるし。でもまあ甲冑を着てたからそれほど大ダメージは受けてない筈だよ」
とユースケが言った時には破れた壁から胸部の甲冑が大きく凹み、しかも明らかに腕が変な角度で曲がった状態のエイムスがヨロヨロと戻ってきて、セバスに言った。
「陛下…… 先ず間違いなく大暴走を食い止める事が、グフッ、出来ます、ぞ、ガハッ!!」
「も、もう良い、喋るなエイムス! イルマイよ早く治療を!」
「クッ、私がエイムスごときの治療をせねばならぬとは…… いと高き至高の存在よ、かの者に癒やしを【大治癒】」
イルマイから飛んだ光がエイムスを包むとそこには甲冑の凹みまで治った状態でしっかりと立つエイムスが居た。
「ふん、まさかむっつりイルマイの世話になるとはな!!」
この二人、実は仲が良いのではとユースケとリンコは思った。
「それで、エイムスよ。そなたの先ほどの言葉だが」
「はい、陛下。私はユーリよりもレベルが4上です。通常ならばユーリの攻撃により傷つく事はありません。しかし、加速をかけられたユーリの攻撃はレベル差を物ともせずに突破して私を瀕死にさせました。つまり、魔獣たちの大暴走で、最終段階に来る高レベルの魔獣たちをも倒せる可能性が高くなったと証明されたのです!!」
エイムスの言葉にイルマイが補足を入れる。
「恐らくですがエイムスが瀕死になったのは減速をかけられていた事も理由の一つだと思います。なのでそれを証明する為に今度はユーリさんに加速だけをかけて、通常状態のエイムスにどこまで通用するのかを検証したいと思います。な〜に、怪我をしても私が治しますのでご心配なく、陛下」
イルマイの言葉にエイムスが慌てる。
「いや、ちょっと待て、イルマイよ! その検証は本当に必要か? ユースケ様に魔獣たちに減速をかけて貰えば良いだけの話じゃないか?」
しかしイルマイは真面目くさった顔をしてシレッと言う。
「何を言ってるんだエイムス。何事も検証を重ねて慎重に見極めることは必要な事だろう。ですよね、陛下?」
「うむ、そうだな。イルマイの言うとおりだ。エイムスよ、済まぬがもう一度頼む。ユースケ殿も頼めるかな?」
セバスに問われたユースケはアッサリと言う。
「ん、別に良いよ。痛いのはエイムスさんだけだし」
ユースケのその言葉にリンコとメイアの声が重なった。
「「さすが無慈悲な野郎です……」」
しかしそれでエイムスの覚悟も決まったようだ。
「クッ、陛下に言われれば仕方がない! だがな、ユーリよ、世の中には手加減という言葉があるのだ! お前も俺に次ぐ強者なのだ、そろそろ手加減を覚えても良いだろうと思う! 良いか、手加減だぞ!!」
どうやら覚悟は決まってなかったようだ。しかもその言葉にはユーリ自身から正論で反論されてしまう。
「団長、これは検証ですから先ほどと同じ力で行わなければなりません。でないと正しい検証になりませんから」
「その通りです! ユーリさんはさすがにちゃんと分かっておられる!!」
すかさずユーリを褒めてエイムスの逃げ場を無くすイルマイだった……
その光景を見て、やっぱり仲は悪いのかなと思うユースケとリンコだった。
そうしてユースケはユーリに加速をかけ、エイムスは素のままでそれを受けた。
幸いな事に今度は先程よりも怪我の程度は軽く済んだようだ。血反吐を吐いてないから……
「グッ、クソッ、ユーリよ、手加減を覚えような……」
息苦しそうにまた大きく凹んだ甲冑の上を手で抑えながら戻ってきたエイムスに、イルマイが回復魔法を施した。
「あ〜、何かさっきよりも軽いな、ならこれで大丈夫だろう。【治癒】」
先ほどの回復魔法よりも小さな光がエイムスに向かって飛んでいき、今度は甲冑は治っていない。
「おい! イルマイ! 甲冑が治ってないぞ!!」
「エイムス、勘違いをしてるようだから言うぞ。私は人体の回復魔法をかけたんだ。だからエイムスの怪我は癒えただろう? さっきは瀕死だったから仕方なく壊れたものを全て回復する大治癒を使用したにすぎない。今回はその必要がないから、甲冑は鍛冶師に治してもらえ」
それもまた道理ではある。鍛冶屋じゃないからなあ、イルマイさんは。ユースケがそう考えていたら、セバスがエイムスに聞いた。
「それで、エイムスよ。どうだった?」
「ハッ、陛下に申し上げます。感覚的な物言いになりますが、レベル差が8ぐらいまでならば通用するかと思われます。減速を使用していただければレベル差が10以上でも恐らくは攻撃が通用すると愚考します」
その言葉にセバスは少し考えて、こう言った。
「イルマイよ、余も国王としてレベルをあげたい。ユースケ殿やリンコ殿と一緒ならば魔獣狩りに出かけても良いのではないか? 余はそなたたちに大切にしてもらって感謝をしておるが、それでも民を守れる力も欲しいのだ……」
しかしイルマイは難色を示す。
「陛下、それでも御身に何かがあれば我が国は大変な事となります故……」
けれどもユースケとリンコは違った。
「えっ、魔獣見れんの?」
「あ、私も見たいです! セバスさんは私の結界で守りますから、行きましょう!」
そう、自分たちが魔獣を見たい為に咄嗟に提案したのだった。権限が国王と同等となる二人から言われてイルマイは断れる筈が無かった……
「クッ、わ、分かりました! 陛下の装備をお持ちしろ、魔獣の森ではなく西の沃野に向かう。ユーリさん、ホーンくんとメイアさんを陛下の護衛として連れて行きます、良いですか?」
「はい、畏まりました。イルマイ様。ホーン、メイア、しっかりと陛下とユースケ様、リンコ様をお守りするのよ!」
「はい! 副騎士団長!!」
そんなやり取りをいじけて見ている男が一人……
「俺が騎士団長なんだけど、なんで誰も俺の許可を得ないで話をすすめるのかなぁ……」
そんないじけた男の首根っこをワシッと掴んでユーリは言う。
「さあ、団長! 楽しい楽しい書類作成の続きをしましょうね〜」
さっきまで完全に忘れていた事を思い出したエイムスは、顔を引きつらせ抵抗を試みる。
「いや、待て、ユーリ! お前が凹ませたこの甲冑の修理を依頼しに鍛冶工房に行かないと!」
「はいはい、それは庶務の子に伝えてお願いしておきますから、さあ、行ってキリキリ働きなさいっ!!」
クワッと般若の顔になったユーリに抵抗を諦めてエイムスはドナドナされて行くのだった。
一方で魔獣を見に行く予定だったがちょうど時間的に昼食時間だという事になり、国王セバスと共に食堂へと向かう一同。
「何をしておるのだ、イルマイもホーンもメイアも席につくのだ。時間が惜しいからそなたたちも一緒に食事をせよ! これは余の命令だ!」
その鶴の一声で全員が慌ただしく食事をする。まあ、ユースケはマッタリと食べているが。
「うっま! これ旨いな。ワマトからの輸入品なのか? この干物は」
「はい、左様でございます。コチラはワマトの一流乾物問屋、【セトノウチ】より仕入れた最高級の一品です」
給仕をしてくれているメイドさんがそうユースケに教えている。
「先輩、お米もあって良かったですね」
「おお、確かにな! 醤油も味噌もあるみたいだし、落ち着いたら味噌ダレと醤油ダレ作りをさせて貰おう」
「ああ! アレですね! それは良いですね! っとそういえば先輩…… ネイちゃんとアカリちゃんは大丈夫ですかね?」
とリンコが心配そうに言うと、ユースケが何でもない事のように返事をした。
「ああ、あの二人なら心配要らないだろ? シンゴが着いてるだろうし」
「エッ? シンゴくんですかぁ…… あの無口で何を考えてるのか分からない……」
「ハハハ、リンコよ、心配ないぞ。シンゴは極度の女人見知りなだけだ。常識もあるし、俺の弟子でもあるからな」
「その話、いま初めて聞きましたけど?」
「聞かれなかったから言ってないぞ?」
「そういう大事な事は聞かなくても教えておいて下さいよっ!!」
などと二人が話をしていたら気持ちが急くのか国王セバスが二人に言う。
「ユースケ殿、リンコ殿、そろそろ出発したいのだが良いだろうか?」
「おっ! おお、そうだな。行こう、行こう!」
リンコから責められていたユースケはこれ幸いとセバスの言葉に乗るのだった。
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