第5話 二十四人の召喚者(幕間)
ここで少し話は遡る。ユースケとリンコ以外の召喚された者たちの様子を見てみよう。
「ど、何処だ、ここは?」
そう言った五十代半ばの男性の頭頂は見事に禿げ上がっている。恐らくはヤマハゲ課長だろう。
「な、何が? ここは何処なのっ!! アケミちゃん、何処なのっ!!」
そう叫んでいる四十代前半の女性は恐らくはお
他の者たちも目覚め、周りがザワザワとするなか二人の若者は目を覚ます様子が無い。言わずと知れたユースケとリンコだ。
そこに神である
『やれやれ、騒がしいのう……』
突然現れた玄抻素にヤマハゲが詰め寄る。
「お、おい、
玄抻素はため息を吐く。
『お主は何歳じゃ。もう少し歳上の者に対して口のききかたがあろうに…… まあ、良い。そこでまだ二人ほど寝ておるが起こさなくても良いか?』
「フンッ、この二人は俺の部下だ! という事は俺を優先させる義務がある。寝てるなら放っておけば良いのだ、だから早く説明をしろ、爺!」
ヤマハゲの言葉にキョウコも便乗する。
「そうよ! 私たちはバスに乗ってた筈なのにどうしてこんな場所に居るのよっ!! 何か知ってるなら早く教えなさいよっ!!」
やれやれ、こんな奴らを召喚するとはエバンス王国も困った国じゃとは口に出さずに心で思う玄抻素。そして、起きている二十四人を全員を
マトモな者は起きている中では五人とこの寝ている二人だけか…… しかし、起きておる五人をこの集団から切り離すのは得策ではないようじゃな…… ワシの加護を与えておくか…… それでも無事に過ごせるかは分からんが。早めにこの集団から抜け出せば良いのじゃがな……
心の中でそう決めて玄抻素は説明を始めた。
『先ずは説明をするから黙って聞くのじゃ。ワシの名は
そこまで玄抻素が喋った時に一人の男性が叫んだ。
「そっ、そうだっ!! た、確かに俺は覚えてるぞっ!! 崖下に向かって落ちてその衝撃で俺の首が折れたのを!! グッ、ウエッー、ゲッ、」
吐き気を覚えたようだが男性の口からは何も出てこなかった。
『落ち着くのじゃ。確かにお主らは死んだ。じゃがお主らの魂を召喚しようとする地球とは違う別の世界がある。もちろん、召喚に応じた場合には新たな肉体が与えられる事になる。二十五歳を超える者は十五歳に、二十五歳未満の者は十三歳という年齢になるがな。それは死んだ時の年齢は関係なく全員がそうなるのじゃ』
「なにー? 死んだだと? そんな馬鹿な! ここにこうして俺は居るじゃないか!」
何人かはそう叫ぶが、それよりも大きな声で反応した者がいた。
「ウソッ! わ、若返れるのっ!!」
キョウコがそう叫び、ヤマハゲも
「お、俺もかっ!? ちゃんと若返れるのかっ!!」
と玄抻素に向かって掴みかかろうとするが、その手は何も掴むことなく空を切った。
『誰でもじゃ…… お主らは今は死んで魂だけじゃからな、ワシを掴むことなぞ出来んぞ。しかしじゃ、召喚しようとする国ではお主らを兵器として召喚しようとしておる、それでも応じて新たな生を生きたいか?』
その言葉に二十四人のうち十九人は即答した。
「当たり前だっ!!」
「スゲーっ! 異世界転生だぜっ!!」
「現実にあるんだなっ!」
「よーし、俺がアケミちゃんを守るからな」
「私たちでも異世界でイケメンを狙えるチャンスが!!」
「あなたじゃ若返ったくらいじゃ無理でしょ!」
「何よっ!」
そんな騒ぎの中で玄抻素は言う。
『ここで今起きておる二十四人はエバンス王国の召喚術によりエバンス王国へと向かう事になるが、ここに寝ておる二人は違う国の召喚に応じて貰う事となる。それは構わぬか?』
その言葉にヤマハゲが言う。
「むう、祐介はともかく、コチラの凛子は一緒に来れないのか?」
しかしそこにキョウコから反論が出る。
「課長! 寝てるような役立たずは違う国に行って貰った方が良いですよねっ!?」
キョウコの圧ある言葉に、若い頃にキョウコと不倫をしていたヤマハゲは逆らわずに、あ、ああそうだなと同意した。他の者からも意見は出なかった。
しかし、周りが雑然と騒ぎ出す中で二人の女性は隅の方でコソコソと相談をしていた。
「ど、どうするネイ。祐介主任はまだ起きてこないし……、凛子先輩もまだ寝てるし……」
「ど、どうしましょう、アカリ。私たち二人でこの集団を相手にするのはキツイわよ……」
そんな二人に玄抻素が心の中で声をかけた。
『二人には言うておこう。寝ておる二人はお主らとは別の国に召喚されておる。じゃがそなたら二人にだけは特別にワシの加護を授けてやるから、それを使って早めにこの集団から離れるのじゃ。そうすればこの二人を召喚した国に来れるじゃろう』
その突然に脳内に聞こえた言葉にキョロキョロする二人だったが、玄抻素の方を見て納得したようだ。二人も心の中で返事をする。
『神様、本当ですか?』
『私たち、祐介主任や凛子先輩と合流できますか?』
『うむ、そうなるように手助けはする。じゃが気をつけるのじゃ。そなたら二人を狙う者もおる…… 誰かはワシからは教えられんのじゃがな…… その者からもワシの与える加護を上手に使って逃げるのじゃぞ』
そう言われて不安そうになる二人だが、それでも覚悟を決めたようだ。
それを見届けて玄抻素はみんなに言う。
『さて、それではここに三十三のワシの権能がある。一人一つじゃがその権能を授けてやれる。誰かが選んだ権能は他の者は選べぬが、順番を決めて選ぶと良い』
その言葉にヤマハゲがしゃしゃり出る。
「よーしっ、それでは役職順だ。俺からだな。次にキョウコ係長、次にアケミ主任だ。後は入社順だぞ!」
「さすが、課長ですわ! こうして順番が揉める事なく決まるのは良い事ですわね!」
ヤマハゲとお局様キョウコによって勝手に決まった順番に意見を言う者はいない。まだ生きてた頃の価値観に縛られているようだ。
「よしっ! 俺はコレにするぞっ!!」
ヤマハゲが選んだのは【絶対剣技】だった。極めれば剣神とも呼ばれるようになるだろう権能だ。
「私はコレよーっ!!」
キョウコが選んだのは【魅惑の目】である。欲望にギラギラになっているその目では誰にも効かない気がするが……
「私はこれにします」
アケミが選んだのは【経験値五倍】だった。
その後も順調に選び、最後の三人となった。ネイとアカリの前に選んだ男性は【影術の鍛錬】を選んだようだ。
ネイは【見極める眼】を、アカリは【スキル経験補助】を選んだ。
そうして寝てるユースケとリンコ以外の全員が権能を選んだ時に、リンコをジットリと嫌らしい目で見ている男にネイとアカリは気がついていた。その男は営業二課の出来る男(自称)で
寝ているリンコを見るコウタの心中はこんな感じだった。
『ああ〜、リンネたん。暫しのお別れだね。でも大丈夫だよ、直ぐに僕たんが迎えに行くからね。僕の貰った権能は【経験値倍々】だからキョウコの婆あよりもチートだからね。そうそう、リンネたんの大切な後輩のネイたんとアカリたんもちゃんと僕たんが守って一緒に迎えに行くから安心してね。それまではボンクラユースケに任せる事になるけど…… クゥッ、やっぱり僕たんも残って二人と一緒に召喚に応じようかなぁ。でもそうするとネイたんとアカリたんを僕たんの愛人にできなくなる可能性もあるし…… ヤマハゲが狙ってるのは知ってるからなぁ。僕たんが守ってやらないと……』
かなり痛いヤツのようだ。玄抻素がネイとアカリに言った二人を狙っている者はコイツかも知れない。
全員が権能を選び終えたので玄抻素が再び口を開いた。
『どうやら選び終わったようじゃな。今の選んだ権能によってお主らが今から行く世界での
その言葉と同時に二十四名はその場からユースケとリンコを残して消えた。
召喚された国、エバンスで物凄く苦労をするのを知らずに……
「よくぞ参った、召喚者たちよ。余はエバンス王国の国王、テメー・ラ・カチク・ダ・エバンス六世だ。そなたらはこれよりジョブ認証にかけられ役に立つ者たちは訓練に入り、役に立たない者たちは魔の森に放棄する。これは決定事項ゆえ覆る事はない! 但し、将来的に期待を持てる美貌の女は余の愛妾になると誓うならば城で侍女見習いとして雇ってやろう。男は要らん! 以上だ! 賢者ダーマ・スノー・ト・クイよ、この者たちのジョブ認証を直ちに行え!」
「ハッ、陛下!!」
いきなり召喚されてこの言い様に全員が反発したかったが、周りには甲冑を着た騎士たちが百名ほどいて取り囲まれていた為に、誰もが怯えて何も言い出せなかった。
そして、ジョブ認証によって振り分けられる二十四名の者たち。
「ふん、剣聖か…… まあ良いだろう、貴様はコチラだ」
「何だ?
問われたキョウコは直ぐに
「ハイ! なります、なりますから放り出さないで下さい!」
とダーマに土下座した。
「おお、貴様はマトモなようだな。聖女か、ならば貴様は先ほどの男の元に行け」
アケミは聖女だったようだ。嬉しそうにヤマハゲの元に向かうアケミ。それを睨みつけるキョウコ。
次々にジョブが認証され、役に立つと残される者が十二人。愛妾になると誓った者が四人。
魔の森に放棄される者が八人となった。ネイとアカリは放棄される側だ。
残される者の中にはリンコの寝顔を見ていた僕たんことコウタも居る。ジョブは【配達人】で鍛えれば異空間に物資を大量に入れられるようになったり、自分自身とレベルによって連れて行ける人数が変わるが複数人をこの世界ではあり得ない速度で移動出来るようになるので残される事になった。
そして、本当に八人は魔の森に放棄された。
ネイのジョブは【鑑定師】。アカリのジョブは【補助師】で、二人は他の六人から直ぐに別れて行動を起こした。
そんな二人にひっそりと着いていく者に気が付かずに……
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