第4話 リンコの魔法と近接戦闘

 リンコはイルマイに言われて自分が今使える魔法の説明を読んでみた。



【空間魔法 結界】

1.自分に対してかければ任意の範囲で自分よりもレベルの低い者からの攻撃を防ぐ結界を作る。効果時間一分。


2.任意の者(物)に全体を囲む結界を作る。術者のレベルより低い者からの攻撃を防ぐ。効果時間一分。


✱効果範囲はレベルが上がる事により広くなる。



【空間魔法 空間圧縮】

任意の空間を圧縮出来る。範囲内にいる生物、物も同じく圧縮されてしまう。

使用魔力に応じて圧縮範囲は変わる。 


 ふーん、こんな感じなんだと思って説明を読み終えたリンコはイルマイに説明をした。


「リンコ様も既に二つの魔法を使用可能なんですね…… それに、その魔法は時空魔法士のバリアよりも強力ですね。時空魔法士のバリアは効果時間は二十秒、攻撃を防ぐのではなく受けるダメージを減らすものなんです。それに空間圧縮ですか…… そんな魔法は聞いた事がありません……」


 どうやらこの世界の職業である時空魔法士よりも強力で、しかも圧縮する魔法は無いようだ。リンコはそれにより気を良くする。


「エヘヘ、聞いた事が無いんですって、先輩」


「おお、リンコがこの世界初の魔法を持っているのか! 凄いな!」


 二人がそう盛り上がっているところにイルマイが二人に訊ねる。


「あの、お二人にお聞きしたいのですが、マシとはお二人にとっては当たり前の職業名のようですが、私は寡聞かぶんにして聞いた事がありません…… どのような職業なのか教えて頂けますか?」


 イルマイにそう問われた二人は戸惑いを見せる。二人とも魔士の概念なんかは知らないのである。ユースケは子供の頃にやったゲームで出てきた魔道士が近いかなという程度の知識だし、リンコはそのゲームすらした事がない。


 けれども問われれば答えてしまう日本人。ユースケはゲームの中の設定を思い出しながらも説明を試みた。


「俺もそんなに分かってる訳じゃないけど…… 魔士マシ魔士道ましどうを極める者だという事だな」


 ユースケのその言葉にイルマイだけでなくリンコまでポカーンとした顔をする。


「先輩、頭のネジが二〜三本外れましたか? いえ、先輩は普段からネジが外れてますから本数が五〜六本に増えた?」


「ウォイッ、ちょっと待てリンコ!?」


「え? 間違ってました? でも魔士道って何ですか? 聞いた事が無いですよ」


「何を言ってるんだリンコ。騎士に騎士道、武士に武士道があるなら魔士に魔士道があるのは当たり前だろ?」


 とユースケが言った途端にリンコだけじゃなくイルマイまでが納得した。


「「なるほどっ!? それはそうだ(ですね)!!」」


『おお、納得しやがった』とユースケは思った。口から出まかせを言ったのだがどうやらイルマイを納得させてしまったようだ。そのイルマイが謎が解けたように言う。


「つまり、騎士と同じように魔士とは魔法を使って弱き者を守る者だという事ですね!」


 ユースケはイルマイの言葉でどうやら魔法しか使えないと思われてるようだと感じたので訂正する事にした。


「いや、誤解のないように言っておくけど俺もリンコも魔法だけじゃなくて近接戦闘もちゃんと出来るよイルマイさん」


「えっ!? お二人とも魔法職なのにですか?」


 イルマイが驚きそう聞くとユースケが説明をする。


「うん、そうなんだ。俺もリンコもこの世界に来る前に住んでた世界では特殊な家系だったから。流派は違うけど俺たちは武術を連綿と受け継いできた家で育ったからね。で、その学んだ武術がスキルとして発現してるんだ」


 ユースケの説明を聞いてもイルマイはまだ半信半疑みたいだったが、それならば後で見せて下さいねと言ってこの場をおさめた。


 それからリンコの魔法について有効度を確認してから、イルマイは先ほどは伝え忘れましたがと言って報酬などについて話を始めた。


「先ずは我が国だけでなく全国共通の通過であるゼニーについてお教えしますね。ゼニーはいちゼニー硬貨から五百ゼニーまでが硬貨であります」


 そう言ってイルマイが一ゼニー、十ゼニー、百ゼニー、五百ゼニー硬貨を机に取り出した。


「そして、千ゼニー、五千ゼニー、一万ゼニーがコチラの紙幣になります」


 今度は紙幣である。日本の円と似た硬貨と紙幣なのでユースケとリンコはこれならば良く分かるとホッとしていた。


 お金についての説明を受けた後には物価についてなどの説明も受けて大体の事を把握したのでユースケは他の国、それも二十四名が召喚されたであろうエバンス王国について聞いてみた。


「イルマイさん、エバンス王国っていう国はどんな国なんだ?」


 ユースケからの唐突な質問にイルマイはびっくりしながらも答えてくれる。


「突然ですね…… エバンス王国は我が国からだとかなり離れています。ナカクニ大皇国たいこうこくの西にハカラ王国があり、更にその西にエバンス王国があります。エバンス王国は今は北のダマスク公国と南のノーマン帝国と戦争をしており、新戦力を各国の傭兵に対して募集しているようです。もっとも、ダマスク公国もノーマン帝国も同様に募集しておりますが」


 二カ国を相手に戦争を仕掛けるなんてよほど自信があるのかバカなのかのどちらかだなと聞いたユースケは思った。


「エバンス王国の王様ってバカなのか?」


「いえ、決してバカでは無いでしょう。恐らくは勝算があるから仕掛けたのだと思います。ナカクニでも今はエバンス王国の動向を見守っていて、うちのような小国を放っておいてくれてるので、うちとしては有り難いのですがね……」


 イルマイがそう答えたのでユースケは勝算が二十四名の召喚かと思ったが、今はまだイルマイには伝えない事にした。いたずらに不安を煽る事になると思ったからだ。


「さて、それでは奥に魔法を実践できる部屋がありますのでそちらで魔法を実際に見せていただけますか? そちらに騎士団から二名ほど来て貰いますので」


 そう言うとイルマイは遮音を解いて、側にいた所員に騎士団から二名を呼んできてくれと伝えた。

 ユースケとリンコを奥の部屋に案内すると中は学校の体育館ほどの広さの部屋で、


「ここは魔法陣で物理、魔法の両方に耐える結界を張ってあります」


 とイルマイが説明し、おもむろにイルマイが魔法を唱えて壁に向かって放った。


「魔力の源において淀む力を放たん! 【魔弾】」


 黒いソフトボール大の大きさの球が壁に向かって飛び、当たったが壁には傷一つついてない。


「とまあ、こんな感じで結界があります」


 とそこまで説明を聞いた時に部屋の扉が開き、大声が響いた。


「おい! むっつりイルマイ! クソ忙しい騎士団員を呼びつけるからには重要な案件なんだろうなっ!!」


 その大声にイルマイが即座に反応する。


「軟弱ナンパ野郎エイムスよ、クソ忙しいと言う割には団長自らこんな所に来て良いのか? それともまた副騎士団長のユーリさんに書類作成を言われて逃げ出してきたのか? いい加減に書類を貯めずにさっさと処理をしておけよ。ああ、君たち忙しいのに済まないね。君たち二人はここに残って欲しい」


 理路整然とした言葉にユースケもリンコも唖然としているが、大声を出した団長について来ていた二人の騎士団員はいつもの事だというように平然としてイルマイに返事をする。


「はい、賢者様。うちの団長がいつもスミマセン」

「賢者様、出てくる前にユーリに連絡しておきましたから直ぐにユーリが来ると思いますわ」


 二人目の女性の騎士団員の言葉に団長が驚く。


「なっ!? 何っ!? メイア、ユーリに教えたのかっ?」


「当たり前でしょう、団長。いつもいつも書類作成をユーリに押し付けて逃げてるのは団員ならば全員が知ってる事ですし、私たち女性騎士は全員がユーリの味方なんですよっ!! それに賢者様とご学友だからといって言葉もかなり悪いですし…… 団長は知らないかも知れませんが、賢者様のお陰で女性騎士団員は遠征時にかなり助けられてますから、団長は言葉に気をつけた方が良いですよ」


「バカなっ!! むっつりイルマイがモテるなんてっ!?」


 そう叫ぶエイムスの後ろ首をガッと掴む腕が……


「ウフフフ、ダ・ン・チョ・ウ!! 捕まえましたよ〜。さあ、楽しい楽しい書類作成のお時間ですよ〜。今日の目標は三百枚ですよ〜。達成するまでおうちに帰れませんからね〜。ウフフフ〜……」


「グワッ!? まっ、待て! ユーリ、ち、違うんだ、逃げた訳じゃないんだっ!? イルマイに呼ばれて、だな……」


「ああ、ユーリさん。ご苦労様です。私が呼んだのはコチラのお二人でエイムスは呼んでませんのでどうぞ連れて行って下さいね」


「は〜い、賢者様、いつも有難うございます。ついでにお願いがあるのですが……」


「はい、何でしょう?」


「この馬鹿団長に魔法で足かせを着けて頂けますか? 絶対に外れない強力な奴を」


「あ安い御用です。ほの昏き深淵に眠る永久の闇より永久の枷をそに与えん【闇囲】」


「うっ、裏切り者ーーっ!!」


 こうして騒がしい騎士団長エイムスは副騎士団長ユーリに連れ去られて行った。

 ユースケとリンコはいつの間にか喜劇を見るように楽しんでいたのだった。 


「さあ、騒がしいやつは居なくなったのでユースケ様にリンコ様、先ずは先ほど仰っていた近接戦闘について見せて頂けますか? そちらの訓練用の木で出来た武器からお好きな物をお選び下さい」


 イルマイの言葉に騎士二人が驚いている。


「賢者様、こんな子供二人を相手にしろと言うのですか?」

「賢者様、無理にもほどがありますわ!」


「二人とも落ち着いて。コチラのお二人は稀人まれびとなんだ。後ほど、君たち二人に協力してもらって魔法の検証もするけれども、お二人は近接戦闘も出来ると仰るので見せて頂く事にしたんだよ。だからホーンくんはユースケ様と、メイアさんはリンコ様と模擬戦をして欲しい。強化魔法は無しでね」


 イルマイのその言葉に反応したのはユースケとリンコの二人ともだった。


「いや、イルマイさん。強化魔法っていうのも使って貰っても良いよ」

「そうですね。私も構いません」


 だがそんな二人にホーンとメイアが危惧を抱く。


「いや、しかし……」

「そんな、だって……」


 けれどもイルマイは達観していた。内心ではイルマイもユースケとリンコがそれ程では無いだろうと思っている。なので最初から力の差を分からせる意味でも二人の言うとおりにすれば良いと思ったのだ。


「ホーンくん、メイアさん。お二人がこう仰っているから、その通りにしよう。それで、ユースケ様はその棒でよろしいですか? ホーンくんは木剣で良いんだね。それじゃ、はじめてください」


 イルマイに言われてホーンとメイアも渋々納得し、木剣を手にして部屋の中央に行く。ユースケは地球で六尺棒と呼ばれる棒を手に既に中央に立っていた。


「稀人のユースケ様。なるべく怪我をしないように注意はしますが、無理なら直ぐに降参と言って下さいね」


 ホーンの言葉にユースケは笑顔で答える。


「うん、分かったよ。ホーンさん」


 そして、ホーンは身体強化の魔法を自らにかけて、木剣を振りかぶりユースケに迫った! 


 





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