第2話 小王国アスノロク

「おっ、おおーっ!! せ、成功だ!! 初めて我が国で召喚術に成功しましたぞ、王よ!!」 


「おお!! やったな、賢者イルマイよ! 其方そなた其方そなたの元で研究を続けてくれた者たちに余は感謝するぞ!!」

 

 という声が聞こえるが、実際にその場に立っているユースケとリンコは顔を見合わせていた。そして、コソコソと話を始める。


「先輩、初めてって言ってますよ、大丈夫ですか、この国……」


「言うな、リンコ。俺もちょっと不安なんだから……」


 そんな二人に年若い、今の二人とも余り年が違わないだろう男性が声をかけてきた。


「ようこそ、王国アスノロクへ。我らの召喚に応えて頂き感謝する。余は王国アスノロクの国王で、セバス・ガル・アスノロク三世と申す。お二人のお名前を教えて頂けないだろうか?」


 その挨拶を聞いてまた二人ともコソコソと話をしだす。


「おい、リンコ。俺の中ではセバスは執事の名前だったんだが……」


「先輩、私もそう思ってました……」


 そんな二人に不安そうに国王セバスが聞いてくる。


「もしやお二人には余の言葉が解らぬのでは…… イルマイよ、その辺りはどうなのだ?」


「はい、陛下。召喚に応じて来ていただいた方々は我らの国の言葉を自由自在に読み書き出来ると文献には書かれております。ですので大丈夫だとは思うのですが、何しろ我が国では初めての事にございますれば…… ひょっとしたら我が国の言葉をお二人がご理解されてない可能性もございます」


 イルマイという男性が国王の言葉にそう答えたのを聞いて慌ててユースケは言葉を発した。


「いや、待て、待ってくれ。言葉は分かるが俺たち二人は国王陛下が国を治めていない国からやって来たんだ。だから言葉も不敬な感じになるかも知れないがそこは勘弁して欲しいのだが…… その相談を二人でしていたんだ」


「何と、そうであったか。それならば何の心配もされる事はない。お二人の立場は召喚に応じて頂いた稀人まれびとである。なので国王である余と同等のくらいとなるので安心して欲しい。それよりも、お二人のお名前を教えて欲しいのだが……」


 再度そう聞かれて二人は名乗った。


「俺はユースケと言う。年は十五歳だ」

「私はリンコです。年は十三歳になります」


「おお、文献通りでございます、陛下。私からもお二人にご挨拶をしてもよろしいでしょうか?」


「うむ、勿論だイルマイ」


 国王から許可を得たイルマイがユースケとリンコに挨拶をする。


「ユースケ様、リンコ様、初めまして。私は王国アスノロクで賢者として職に就いておりますイルマイと申します。このたび、お二人を召喚させていただくにあたり、召喚術の全てを監修させて頂きました。召喚に応えて頂き本当に有難うございます」


「あー、うん。さっきも名乗ったが俺はユースケだ。よろしく頼むイルマイさん」


「私はリンコです。よろしくお願いします、イルマイさん」


 そんな二人をニコニコとした顔で見ていた国王が壁に掛かっている時計を見て慌てる。


「しまった、もうこんな時間か! すまない、お二人とも、余はこれから外交をせねばならぬ。我が国の詳しい事情はイルマイより聞いて欲しい。のちほど、そうだな昼食の時間にでもご一緒したいと思う。ではまた……」


 そう言うと国王はお付の兵士と文官を連れて部屋を出ていった。

 部屋にはイルマイとその部下たち、そしてユースケとリンコが残っていたが、イルマイが部下たちに部屋の片付けを命じて、二人を案内しますと言って部屋から連れ出した。 


 二人が連れて来られた部屋はこじんまりとした応接室で、二人を三人がけのソファーに座らせるとイルマイはその対面に腰掛けた。


「さて、それではもう一度お礼を述べさせて下さい。召喚に応じて頂き感謝いたします。これは我が国の民をも含めてみんながお二人に感謝する事も含めてのお礼です。それでは先ずは我が国についてお話をさせて頂きます……」


 そうしてイルマイが先ずは基本的な事を教えてくれた。


 この国ではというかこの星では、一年は地球と同じく三百六十五日、一月〜十二月までも同じである。閏年は無いそうだ。今日は四月五日だという事だ。


 時間も一日二十四時間らしく、ちゃんと時計も開発されている。腕時計はまだないそうだが懐中時計はあるらしい。

 二人には懐中時計がイルマイからプレゼントされた。そんな二人が召喚されたのは午前七時ちょうど。今は午前七時四十八分だ。


「先ずはこれぐらいの基本的な事でよろしいでしょうか? でしたら次はこの国が今抱えている問題についてお話させて頂きます……」


 そこで一息おいてからイルマイは再び口を開いた。


「我が国は南が海で、西には大皇国たいこうこく【ナカクニ】が谷を挟んであり、東には友好国である【ワマト】天皇国が魔獣の森を挟んであります。北は峻厳な人が登れないほどの山脈がございまして、その先に何があるのかは我らにも分かっておりません…… そんな我が国ですが、三日前にワマトより使者がやって参りまして、我が国でも把握をしていたのですが、魔獣の森に強い魔力が感じられているので、森から魔獣たちがその魔力の元から逃げようとして、我が国やワマトに向かって大暴走を開始する恐れがあると伝えてくれたのです。しかしながら我が国ではその大暴走を抑えるだけの兵力はございません。また、友好国であるワマトでも自国の防衛で手一杯になるでしょう。西のナカクニに手助けを依頼するしかないかと思っていたのですが、陛下が一度も成功した事がない、召喚術にかけてみようと仰られて今回、お二人が来てくださいました…… あの、それで我が国としてはお二人のお力を魔獣の大暴走を抑える為に、我が国の兵士たちと共に戦っていただけないかと思いまして…… 駄目な場合は仰ってください! 無理強いをするつもりは我が国にはないので!!」


 と最後は早口で慌てたように言い、二人の返事を待つイルマイ。ユースケとリンコは互いを見て、それからイルマイを見てユースケが口を開いた。


「知っているなら教えて欲しいのだが、この国では自分の能力を見る事が可能なのか? もし可能ならばその方法を教えて欲しい」


 ユースケの問いにイルマイは答えた。


「ああ、そうですね。頭の中で能力値表示と唱えてみてください。そうしたら自分にしか見えないボードが目の前に現れると思います」


 そう聞いた二人は早速実行したようだ。

 

 ユースケの目の前にはとても簡単な表示のボードが現れていた。


名前:ユースケ

性別:男

年齢:十五歳

職業:時魔士ときマシ

レベル:12

経験値:3,018/3,555

体力:83

魔力:170

【時魔法】

 加速:持続時間十秒 

 自身対象(消費魔力1) 自身以外対象(消費魔力2)

 減速:持続時間五秒〜十五秒(選択可能)

 自身対象(消費魔力3) 自身以外対象(消費魔力5)

SP:3,018

スキル:はざま流柔剛術

取得可能スキル:

無し


玄抻素くろのすの権能:

一秒で一経験値と一スキルポイントSP


 当たり前だがユースケの経験値とSPは既に一秒で一ずつ上がっていってる。


「良し良し、順調に上がってるぞ、俺は。リンコはどうだ?」


 問われたリンコは難しい顔で自分の目の前のボードを眺めていた。



名前:リンコ

性別:女

年齢:十三歳

職業:空間魔士 《くうかんマシ》

レベル:6

経験値:250/315

体力:23

魔力:40

【空間魔法】

 結界:

 自身対象(消費魔力1) 自身以外対象(消費魔力2)

 空間圧縮:

  対象範囲一立方メートル辺り(消費魔力5)

SP:250

スキル:境界きょうかい流古武術

取得可能スキル:

箱(SP200で取得可能)


玄抻素くろのすの権能:

一分で五経験値と五スキルポイントSP


 取得可能スキル【箱】って何? と思いながらもユースケに向かってリンコは言う。


「うーん…… 先輩は職業は何になってます? 私は空間魔士なんですけど」


 リンコはユースケに聞いた。


「ん? 俺か? 俺は時魔士だぞ」


 とユースケが答えた時にイルマイが二人に質問をした。


「えっと…… 時空魔法士じくうまほうしじゃなくてユースケ様が時マシでリンコ様が空間マシですか…… それってどんな職業なのでしょうか?」


 イルマイに聞かれて二人はアレって顔で見つめ合う。それでもユースケはちゃんと説明をしようと話し始めた。


「えっとだな、時間に関する魔法が使える魔士何だが……」

「私は空間に関する魔法を使える魔士です」


 と言うとイルマイが何ソレって顔で二人を見ていた。


「あ、あれ? 分からないか?」


 ユースケに聞かれてイルマイは慌てて言葉を取り繕いながら言う。


「あ、いえ、あのですね、我が国では時空魔法士という職業がございまして、主に補助魔法が得意な魔法士なのですが、例えばクイックという魔法がございまして、そのクイックを唱えればかけられた相手は倍の速さで動けるようになるのですが…… まあ数が多い相手には余り有効ではない魔法となりますが……」


 と少し残念そうに言うイルマイ。そこでユースケは自分の魔法である時魔法の加速を指先でタッチしてみた。するとそこには驚くべき説明が書かれていた。


【時魔法 加速】

1.自身に掛けると一秒で出来る動きを百分の一秒で出来るようになる。


2.自分以外に掛けると一秒で出来る動きを五十分の一秒で出来るようになる


 説明を読んだユースケは思った。


『俺、一秒で突きが三回出来るから加速をかけると一秒で三百回の突きが出来るようになるのか…… 北斗百○拳よりも凄いな……』


 それからイルマイにこの事実を伝えようと思いイルマイを見ると、既に戦力外のような顔で二人にこう言ってきた。


「お二人には後方支援として活躍して頂きたいのですが、ダメでしょうか?」


「いやいや、ちょっと待ってくれ、イルマイさん。俺の魔法はどうやらその時空魔法士のクイックとは違うみたいだぞ。魔法名は【加速かそく】で持続時間は十秒で俺自身に掛けたら一秒で出来る事を一秒で百回出来るようにするらしいんだ、俺以外にかけると一秒で出来る事を一秒で五十回出来るようにするみたいだぞ」 


 そのユースケの言葉を聞いてイルマイはびっくりした表情を顔にはりつけて叫んだ。


「なっ、何ですかーっ、その魔法はっ!?」


「いや、俺にも良く分からないけど……」


 ユースケは元々地球には魔法なんて無かったから、魔法のある国の人間が分からないものを俺が分かる訳ないだろうとイルマイに心の中で突っ込んでいたのだった。 






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