時魔士?何それ?って言われたよ

しょうわな人

第1話 気がつけば神の前

 とある会社の社員旅行のバスが運転を誤った対向車線の大型ダンプと衝突し崖下へと落ちていた。

 運転手と添乗員を含めた乗客たちは全員が死亡を確認された……


「うーん…… もう着いたのか?」


 一人の若い男性が目覚めたのは何もない白い空間だった。


「えっと、俺が寝ている間に何処かに着いて、それで嫌われ者の俺はその場所に放置されたとか…… ってんな訳ないか、ハハハ……」


 と一人でツッコミを入れて虚しく笑っていたら、


「先輩、起きましたか?」


 と後ろから女性の声がした。この声は知ってる声だと思った男性は振り返る。


「おっ、リンコじゃないか? お前も俺と一緒に放置されたのか?」


 と先ほど自分で否定したのにそう聞く男性。


「それは無いと思いたいんですけどね、先輩。それに何度も言いますけど私の名前は凛子りんねです」


「いや〜、でも名前の終わりがなんだから素直にコって読むのが人として普通だろ? で、ここは何処なんだ、リンコは何か知ってるか?」


 名前に対するツッコミを無視してリンコと呼ぶ男性にもはや諦めているのかリンコはため息を吐きながらも返事をする。


「はあ〜…… もう良いですけど、ここが何処かは私も分かりません。私もバスで寝てましたから。起きたらこの場所でした。他の皆さんの姿は見てません」


 その答えに男性は考える素振りをするが、何も考えてないのはリンコには分かっていた。


「で、先輩。どうしますか? このままココに居ます?」


 問われた男性は少し間を置いてから答えた。


「…… ん〜、まあ動いてもしょうがなさそうだからココに居るか。リンコは好きにしていいぞ」


「私だって動きませんよ、それよりも先輩。何でいつも私を外そうとするんですか?」


「いや〜、そりゃお前、俺とお前が馴れ合ってるって実家にバレたらお互いにマズいだろ? まあ、社内でもマズいしな。俺はおつぼね様のキョウコやヤマハゲ課長とかに目の敵にされてるからな。いくら教育係になったからって俺と馴れ合ってたらお前まで嫌な思いをするぞ」


 という男性の返事にリンコは怒ったふうに言い返す。


「私は実家とは縁を切ってます! それにキョウコさんとはそれなりに上手くやってますし、ヤマハゲのバカは会社の総務にセクハラで訴えてますから!!」


 その言葉に男性はアチャーって顔をした。


「お前、それ一番ダメな選択をしたな…… お局様のキョウコは陰でお前の事を『あの尻軽がっ』って呼んでるし、総務課長はヤマハゲの娘婿だからお前の訴えはもみ消されるぞ…… それに、実家と縁を切ったって、お前が言ってるだけでお前の親父さんが時々会社に隠れて来てるぞ」


 男性の言葉にリンコは怒りで震えている。


「あんの、クソ親父ぃ〜、母に言って折檻して貰わないと…… って、総務課長ってヤマハゲの娘婿なんですか!? 何でもっと早く教えてくれないんですか、先輩!!」 


「いや、教えるも何も聞かれなかったからな」


 と何もない白い空間に居る事を不思議にも思わずに会話を続ける二人に遠慮がちな声がかけられた。


『あの〜、ちょっとすまんが……』


「ん? 何だ、爺さん。悪いが道を尋ねられても俺たちも分からないぞ」


『いや、違っ!?』


「もう〜、先輩、何を言ってるんですか、お爺さん、大丈夫ですよ。お名前は言えますか? お年は何歳でご家族のお名前は? って、そうですね、先輩。近くの交番に連れて行こうにもここが何処か分からないんでした…… 迷子のご老人をどうしましょう?」


『イヤイヤ! 違うぞ、迷子じゃないぞ、ワシは!!』


「はいはい、皆さん最初はそう仰るんですよ。大丈夫、私には分かってますからね」


 と、老人のツッコミを無視して言葉を続けるリンコ。


『むう〜、なんと思い込みの激しい娘じゃ。お主が教育したのであろう、狭間祐介はざまゆうすけよ?』


「おっ!? 爺さん、何で俺の名前を知ってるんだ? はっ、まさか最近感じていた殺気のこもった視線はリンコの親父さんのじゃなくて爺さんだったのか?」


『違うわいっ!! ワシがそんな事をするか!! 良いか、二人とも心して聞けよ、ワシは神じゃっ!!』


 と老人が言った途端に座っていたユースケが立ち上がり、リンコの腕を掴んで老人から遠ざかる。


「おい、リンコ。ただのボケ老人じゃなくて認知症の一番のヤバい進行状態みたいだぞ……」


「そうですね、先輩。よりによって神様だって言い出すなんて…… マズいですね、どうします?」


 遠ざかった場所で相談している二人に老人が声をかける。


『コラコラ、ワシは認知症じゃないしボケてもおらん、神じゃと言うておろうが、教海凛子きょうかいりんねよ。今からお主たちの状況を説明してやるからよく聞くんじゃぞ……』


 と、リンコまでフルネームで呼ぶ老人にリンコは言う。


「ハッ!? ま、まさかストーカーっ!!」


『違うわーいっ!!!』


 人が出せる音量ではない怒声が辺りに響きわたった。それによりユースケとリンコの鼓膜が破れる。だが、二人とも幼い頃よりとある事情で鼓膜が破れた程度は日常茶飯事だったので気にしない。

 が、それも老人が手を振った瞬間に一瞬で鼓膜が元に戻った事に気がついた。


「おい、リンコ、ヤバいぞあの爺さん。ホントに神様かもな?」


「そうですね、先輩。私も今そう思ったトコロです」


『じゃからワシは神じゃと言うておろうが。全く、昔の人間ならば直ぐに信じておったのじゃが…… まあ良いわい。それよりも説明をするぞ。二人だけがココに居ったのは先に目覚めた他の者たちの意思じゃ。バスに乗っておった二人以外の二十四人の男女が、眠っておった二人は起きるまでこのままにしてやってくれと言っておったのでな…… まあ、優しさからでないのはワシも分かっておったのじゃが、あ奴らと一緒よりは良かろうと思っての……』


 そう言って自称神様が語り出したところでユースケが質問をする。


「ちょ、ちょっと待ってくれ、爺さん。俺たち二人以外の二十四人って言ったし、バスについても言及したけど、そのバスは何処だ?」


『ああ、お主らにはそこから説明が必要じゃったな。本日、社員旅行に出ていた㈱ママズマムの営業部第二課の全員が乗っておったバスはカーブを曲がりきれんかった対向車のダンプと衝突して、崖下に転落。乗っておった者は全員が死亡したのを警察によって確認されておる。寝ずに起きていたならお主ら二人ならば助かっておったかも知れんがな……』


 その言葉にユースケもリンコも顔を見合わせた。


「クソッ! ヤマハゲの所為だな…… 三日も徹夜させやがったから……」


「そうですね、先輩…… あのハゲ…… 会ったら殺して…… ってもう死んでるんですよね……」


『おや、お主らは既に死んでおる事を受け入れるんじゃな。二十四人は直ぐに信じなかったのじゃが』


「ああ、まあな爺さん。先ずは俺自身が自分の身体に括力かつりょくを感じないのが分かっていたからな」


「私も、自分の身体ではあるのは分かりますが、等力とうりきを感じないので……」


『ホッホッ、さすがは武人ぶじんの二人じゃな。で、そんな二人に先ほど二十四人にしたのと同じ提案をさせて貰おうと思うのじゃが、どうじゃ、このワシ時空の神である玄抻素くろのすの創造、管理する世界に転生してみんか? と言ってもじゃな昨今流行りの赤ちゃん転生ではなく、ユースケは十五歳、リンコは十三歳の年になり、とある国に召喚された形になるのじゃが、どうかの?』


「えっ、今わたしの名前が神様にまでリンコ認定されましたっ!?」


「うん、じゃ、転生ついでにリンコに改名だな、いや、真名まなに戻ったというべきだな!」


「先輩、自分がそう呼ぶからって勝手に真名まなにしないで下さい…… はあ、分かりましたリンコと名乗りましょう……」


 その会話を聞き終えてから玄抻素はまた語り始めた。


『どうやら二人とも召喚転生に賛成してくれるようじゃな。それならばワシからのプレゼントを選ばせてやろう。と言っても目ぼしいものは先の二十四人に取られておるのじゃが……』


 そう言うと二人の前に画面が現れて、何かの一覧が表示されている。が、三十三ある項目のうち、二十四は黒くなっていた。


 経験値二倍、魔力増幅、確定ジョブ、などなど確かにそれなりのものは既に選べなくなっているようだ。そんな中でユースケは気がつく。


「おっ、この一秒で経験値とスキルポイントSP一を獲得っていうのが良いな」


 と言うと玄抻素が脅すように言ってきた。


『それは確かに良い能力ではあるが、得られる職業ジョブがワシの世界では認知されておらんジョブになるぞ、それでも良いか?』   


「うん? ああ、別に構わないぞ、爺さん。っとその前に召喚されるっていう国は何を期待して召喚するんだ?」


「先輩、ナイスな質問です! 私も知りたいです」


 と二人から聞かれて玄抻素が答えた。 


『ホッホッ、そんなのは決まっておろうが、隣国など敵対国に対する兵器としてじゃよ』


「おーい、爺さん、ホントに神か?」


 呆れてそう言うユースケに玄抻素は言う。


『何度も言うがワシは神じゃよ。しかし、星を創造し管理はするがそこに住む者たちが何を成すかは口出しも手出しもせん。それが神じゃという証明でもある。が、各国の召喚については他の星の神からの抗議もあって、基本的には亡くなった人を転生させる形にしておるのじゃ。召喚しておる国はその事実を知らぬがな』


「えっと、召喚されてその国からそう命令されるとそれに従う必要はありますか?」


 少しだけ先の言葉に威厳を感じたのかリンコが丁寧にそう聞くと、


『うんにゃ、その必要は無いぞ。好きに生きたらエエんじゃ。と言うても一秒で一経験値、SPを選んだユースケは国によっては直ぐに放逐されるじゃろうがな』


 との返事を聞いて、リンコは玄抻素に聞く。


「先輩が選んだのと同じように認知されてないジョブを得られるのはもう残って無いですか?」


『あるぞ、ほれ、ユースケが選んだヤツの直ぐ上じゃ。一分いっぷんで経験値とSPを五獲得する能力じゃ。ユースケのほどではないがコレも中々【ちーと】じゃぞ』


「それじゃ、私はそれにします!!」


「あ〜、爺さん、一つ聞いても良いか? 俺たち二人は先の二十四人と別の国に召喚されたいんだが、そんな事は可能か?」


『ホッホッ、可能じゃ。先の二十四人は大国であるエバンス王国の召喚術に送ったが、そうじゃの…… 二人はエバンス王国から遠い場所にある小国じゃが良識のある王国アスノロクの召喚術に送ってやろう。あの国ならば知らぬジョブでも無責任な事はすまい』


「そうか、それなら助かる。有難う爺さん」

「有難うございます、お爺さん」


『…… 二人とも何度も言うがワシは神じゃからの…… まあ良いが…… 困った時にはアスノロクに辛うじて残っておるワシの神殿に行くが良い。では、良き第二の人生をな、二人とも、さらばじゃ』


 玄抻素の言葉と共に二人の姿はその場から消えた。そして玄抻素もまたその空間からはいなくなったのだった。




✱注

括力かつりょく等力とうりきは作者の造語です。】

括力は体内の力を一括するという意味。

等力は体内の力を等しくするという意味。

だと考えて造りました。

よろしくお願いします。 

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