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にぎわいがすくないからイベントで人集めしよう。そんな文句が、岩谷は嫌いだ。

「寄贈していただきありがとうございます」

「いえいえ。安いもんです」

私設図書館というのは、都心集中に対するのろしだと思っている。それはトレンドというより、伊那路アイデアを持った人間が同時発生しているのだ。

「口の立つ人間、か」

蝉時雨のなか、シャッターの降りた集合住宅の低層階を去る

「そういう呼ばれ方は、どうも苦手でね」

ライナーに乗るとき、彼は決まってPホテルの高層ビルがみえないか探す。


「まさか自分が仕掛ける側になるなんてな」

車両はうなり声をあげて斜面を駆け上がる。やがて右手に三重塔が見える。

「山本さん!」

「おひさしぶりです」

山本は黒髪短髪赤目の男性をとらえ、声をかける。

「今日は何人来る?」

「まだ把握してへん」

時間は未来から流れてくる


いい加減でしか仕事をしないせいか、大まかな方向だけ決めてあとはとりあえず動く、みたいな面がある。


彼女が向かったのは加古川であった。神戸から電車で20分。

「おっかしーな、ここで面談と訊いたんやが」

駅南へ歩き、交流施設へと向かう。

「どなたか御用です?」

と話しかけたのは、セーラー服に青ジャージでギターらしき何かを背負った子だった。

「へー垂水なんですね。加古川でもいかなごは有名ですよ」 日ノ岡公園 かつ飯以外食い物産業

かこのちゃんと呼んで、という彼女は1年前に団体に加入。いかなごは確か神戸ではなく播磨発症だったはずだ。


神戸でもまちおこしpjは存在するが、しょっちゅうやっているわけではなく、他都市との比較をかね、播磨や阪神間のpjに顔を出すことも多い。

「でもそういうのって参考なることあるの?」

という周囲の意見に対し、山本は

「あるいうとるやろーーーー!!!!」

というのだろう。


加古川駅前商店街の再興に際し、みなでイベントを一から企画する、というもの。

メンバーは教師、元療養者、中高生、大工自営業などなど、どこの地域でもコミュニティから多様性が生じるのは神戸と共通している。

神戸の特異性はさしずめ異なる性格の地域が同居するところか、と山本は言う。他都市は駅前にしか商店街がない、単一エリアになりがち。


「そうだ、今度100人会議やるんですよ」


まちかつと聞いてガチ勢がドドドドドドドドド

餃子焼くシーン 餃子は文化

北区からすれば加古川姫路きたはりますもと都会やねえ

交通局労組 ASLEF pj阻止する台風VS前進駆動したいWE

ATCGにラードと反骨物質混ぜたのが神戸人

神戸人は普通 だってみな面白くありたいという点で共通してるため 神戸じゃ普通

明舞はオールドタウンのモデル都市第一号

文化比較 加古川へ西宮へ


「バスのダイヤってどんな作り方しとるんです?」

「ひたすらソフトに数字打ち込んで、、、」

「んで接続とかも考慮せなアカン」

ぎゅっとめしを出す店へ向かう

「ちょっと変化を出そう(混ぜはじめ)」

「お前何した今?」


法学検定の過去問は5週目まで行った。こうなると、どの辺を強化したらいいか夜明けのように分かってくる。

「しかし最初やる気なかったのにここまで続くとはな」

仕事帰りの地下鉄でふとそう思った。進行方向に対し足を並行と斜めにする。こうすると揺れに対応できる。弓子が教えてくれた。


自分は実に奇妙な友人とまちかつをしている。何も考えていないように見えて常に計算の上で生きている弓子と、表情が薄く塗りつぶされたマークシートの如く読めない垂水と、元いじめっ子で町工場営業の岩谷と、全くなぜ彼らと集まってなぜまちかつをすすめているのかよくわからない。しかし、まちかつなどそれくらいが適正なのかもしれない。本来そう言うものだ。

「自分は好奇心が強すぎてワンマンなりがちやからな」

北須磨の夕焼けを見ながら、トンネルに入る。

岩谷は帰りに寄り道することにした。阪急春日野道周辺は、何故か商店街が5つも6つもある。

「どこに行ってもこういう風景ってあるんだよなあ」

食い物ややパチンコ屋の横を通り過ぎ、アーケードの先を見ると、古い建物と新しい店舗が同居している。そういう街区は、人口が循環するので持続する。

「ここに新規路線を拓くというのは、何かあるな」

在住外国人たちの会話に耳を澄ませつつ、そう確信した。


山本はいつもの如くまちかつするところだが、珍しく何も予定がなく、ひたすら法権を続ける。土日で憲法をすべて制覇した後は、走り抜けた後の高揚感がある。

岩谷から電話があった。

「聞いたか? 201系統の話」

「国か行くやつやな」


西山が知りたかったのは、例の写真がどこで撮られたというのと、なぜとる必要がったのか、だった。

山「東尻池やね」

中央図書館でコピーしたa3の古地図を引用して色々話した。

山「周囲に鉄道駅がないのに栄えている神戸市街地区域としては、平野と東尻池があげられる。どちらもかつての市電通の名残や。今でも商店や中小企業が多い」

東尻池 ブログで検索すると確かに様々な飲食店の記事が出てくる。

山本の地図好きは大体理解できる。内向的でおとなしい人間はそうなるのだ。

山本の対人恐怖は筋金入りで、小学校のころから友人らしい友人はいなかった。人と気兼ねなく話すということをまるで知らない。当然、本音でああだこうだ言う経験もないのだろう。他者に傷つけられるのを過剰に恐れる。人と協業する意識が全く感じられない。

しかし、それと矛盾するようだが、他人からどう思われるかは問題外だ。他人の目を全く気にしないせいか、好奇心とか妄想癖だけ肥大化している。常識が数十本欠落している。彼がチームに入ったとき、誰も気づかない視点に気づくのはそのせいだ。

西「自分から協力しようとはしないが、協力を求められたら、スッと応じるんやろな」

決して向いていないわけではない。ただ彼自身がそのことに気づいていないだけだ。

西山は最近、山本がほとんど街を歩いていないことに気づいた。どこ歩いたとかいう話もない

それは、街を歩いているだけでは、何も買えられないことに気づいたからだろうか。


最後に歩いたのは、先月弓子に連れられてPIに行った時だ。

弓「山ちゃんってよくわかんないよね、コミュニティが好きなのか、一人でいたいのか」

山「基本後者やが」

例えば周囲になじめてなくて河合荘などというのは周囲が勝手にそう思っているだけで、当の本人はそれが平常運転なのだから邪魔しないでいただきたいと思っている。コミュニティに参加するのはそうしたいからというより、その方が生存戦略上優位だからだ。

コミュニティに参加することが増えたからと言って、基本根底が1人志向であることには変わりはない。

山「たとえば、今前に2人組が歩いているだろう。あれで何がわかる?」

彼が指したのは陸上部上がりらしい、角刈りの短ランの二人組だった

弓「ああ、柔軟で受容力があるんじゃないのかしら」

山「歩き方がああだからせっかちではなさそうだが」

2人が近づくと、片方がもう片方に声をかけ、2人に道を譲った。

弓が寄りたいといった私設図書館で彼女は陸軍参謀の本を探し、彼はずっと地元紙を読んでいた。そこでは何も起きなかったし、何も話さなかった。それが、彼らにとっての場の持ち方だった。

帰り、山本はふと、ライナーのホームからPホテルの方向を見た。

Pホテルに泊まったのは、何年前だっただろうか。高校の時だから、10年前か。

他メンバーは歓楽街だとかに繰り出しているのに、山本だけ別空間のように、ある時は本を読んでて、ある時はその辺を島内をうろついていた。それが、彼にとって無上のバカンスの過ごし方だった。


「次は、長田、長田神社前です。山陽電車線は、お乗り換えです」

ある平日の仕事帰り、19時に彼は地下鉄長田の改札を抜けた。

待ち合わせ場所のコンビニの前で出迎えたのは、やはりあのメロンパン顔の往来だった。


三階建て、西向き、築30年。

駅から北へ坂を歩いて15分、空きや群に位置する中古物件であった。

「この辺に本棚を置いて、みなが読めるスペースとか、ひと棚何円とかでオーナー制にしたりしたいですね。」

そうすれば、様々な属性の人が集まるだろう、と。山本は芳香剤の香りがする磨かれたフローリングに目を落とした。足は内向きなんやな。

「他に図書施設見てるとお、思うんですが、特にこのpjで工夫したいことってあります?」

「住民主体ですかね。自分たちでこの街を作るんだっていう感覚を養えたら」


うなり声をあげる緑の市バスを横目に、サンドールを南へ歩いた。夜だと前面のLEDが目立つ。あれは3系統の吉田町行きか。


弓「そうか、マウス使わないタイプやったね」

西山はPCを操作する際、マウスではなくタッチパッドを使用している。IT系にいた名残で、ショートカットキーは使い慣れている。

西「なんで弓子さんは仕事でミスあっても常に自信を保っていられるんです?」

神戸の人間は大体でしか仕事をしない人間というのが一定数存在する。弓子もその一人だった。決して100点を目指さず。アジャイル型で修正しながら100点を目指すのだ。西山と比較して明らかに適当な性格だ。

弓「そもそも、能力なんて不明確なものだしね」

簡単に能力を開発とか伸ばすとかいうけど、実はそうでもない。

弓「何かやってるときに向いている向いてないなんてそんなに気にせんでええ。慣れたか慣れていないか」

西山も経験があった。教えを乞うた起業家に聞いても、「新しいことの90%はうまくいかない」と言っていた。

弓子の紅い目は、やはりどこか遠いところを見つめている。ぼーっとしているように見えて、北斎の絵のように焦点の定まった目つきをしている。


名谷の夜は静かだ。どこからか虫の音が聞こえる。

岩「俺、気づいたよ」

キッチンカーで買った包み紙を開ける。油の香りが立ち昇り、冷房に乗って部屋に広がる。

岩「この街の人間は混ざろうとしないというより、ぶつかろうとしないんや」

フィッシュアンドチップスをつまみ、適当に録画したワールドニュースを見る。相変わらず物価高と、総選挙の話が上がっている。指先についた油分を拭く。

岩「かつてのお前が、そうだったようにな」

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