第3話 温泉旅行

 これまで、女性のことが好きとか、付き合いたいとか思ったことなかったし、そういう人がいることは知っていたけど、周りにいるとは思っていなかった。でも、なぜか分からないけど、光莉はそんなに気持ち悪いとは思わなかったわ。


 というより、人の気持ちを考えずに、ぐいぐい入り込んでくる男性よりも、なんか横にいて心地よいというか、私のことをわかってくれていて大切な人。光莉の気持ちに応えられるかわからないけど、これからもずっと一緒にいたい。


「5月のゴールデンウィークには、どこか行くの?」

「まだ予定はないのよね。」

「じゃあ、遠出して九州の黒川温泉とか興味ない?」

「聞いたことある。なんか町おこししたとかで、人気あるよね。行ってみたい。」

「じゃあ、一緒に行こうよ。女性2人旅で、気楽に温泉で体をほぐすとかさ。」

「楽しみ。」


 思ったより奥地で、阿蘇熊本空港からレンタカーを借りることにした。それならと、せっかくなので初めての阿蘇山を訪問してから黒川温泉に行ったの。


 阿蘇山では、硫黄の匂いがするなか、光莉の帽子が飛ばされないか心配していたわ。でも、こんな雄大な風景があるんだって、来てよかった。


 そして、今回泊まる旅館は、温泉街の中心からは少し外れて、ひっそりとした雰囲気だったけど、敷地は結構広かったわ。お部屋は古い感じもしたけど、家族風呂が4つあって、その中の1つは、外の離れの1室という感じで、露天風呂が新緑の中にあるという感じだった。


 光莉と一緒に、敷地の中で少し坂を登った入口から、その一軒家のような建物に入ると、広めの桶みたいなお風呂があり、その水面には、若い薄緑色の葉が、楽しそうに映り、葉が水と一緒に揺れて、自然と一つになった温泉の中で、ひとときを楽しんだ。


「綺麗ね。ねえ、手を握ってもいい。」

「もちろん。」


 光莉は、私の手を握って、私の肩の上に頭を乗せ、風で揺れる新緑の葉を一緒に眺めていた。そして、そよ風と一緒に光莉の声も流れてきた。


「こんな幸せな時間、ずっと続かないかしら。朱莉は、子供みたいに、本当に真っ直ぐな人。そんな人と、こんなに美しい光景の中で、肩を寄せ合って一緒の時間を過ごしている。朱莉との時間を、これからもずっと大切にしたい。」


 私も、同じ気持ち。光莉とは安心して手を握れる。


 少し、熱めの温泉から、体を出して風に当たると、とっても気持ちがいい。よくみると、少し下に小川が流れ、山の斜面にある小さな温泉という感じで、猿でも出てきそう。そんな自然の中に、光莉と2人でいるなんて、贅沢よね。


 木々からは、木漏れ日が差し込み、温泉の水面はキラキラとしている。そして、光莉の笑い声が私をいっぱいに包み込んだ。この時間がずっと続けばいいのに。


 温泉に入った後、夕食会場に行ったけど、お料理も、温泉宿として想定していたものとはレベルが違って、斬新な盛り付け。そして海の幸もありながら、地元の食材とかもふんだんにあって、最後は濃厚なプリンで締めくくるというレベルの高いものだったわ。


 周りには、カップルもいたけど、女性1人とか、男性1人とかの客もいて、女性2人でも、全く気にならなかった。それよりも、地酒の飲み比べとかあって、だいぶ飲んじゃった。気持ちよく2人で大笑いしていたから、周りのお客には少し迷惑だったかも。


 そして、食事も終わり、酔っ払って部屋に戻った。


「温泉旅館のいいところは、酔っ払ってすぐに部屋で寝れるところよね。」

「そうそう。本当に美味しいお料理とお酒、そのまま部屋でくつろげるって最高。」

「あ〜、布団もふかふかで気持ちいい。」

「本当ね。」


 それから、たわいもないことを、布団に入ったまま話して、2時間経ったころかな、お休みと言って寝ることにした。でも、電気を消すと、光莉は気配しか感じなかったけど、少し泣いていたように感じたのは気のせいだったの?


 そんな気がしたから、光莉の手を握って寝ることにした。新月のせいか、部屋は真っ暗だったけど、暖かい光莉の気持ちが手を通じて伝わって、安心して眠りについたの。


 そして、翌朝、眩しい日差しが差し込み、暖かい朝が私たちを迎え入れてくれた。

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