第2話 出会い
そうなの。私は、手に触れると相手の考えている声が聞こえる。すごく得する能力のように思えるけど、逆に、人間不信になっちゃった。どんな優しそうな人でも、表情からはわからないぐらい、ひどいことを考えている人ばかり。
男性の人に憧れたこともあったけど、付き合った男性がいつも考えていることといったら、私の体のことばかり。胸が大きいとか、どんな下着だろうかとか。そんなんだったら、マネキンと付き合えばいいのに。
もちろん、子供じゃないし、エッチも男性にとって大切なんだとは頭ではわかっている。でも、それは結果で、最初から私の体のことばかり考えている人とは付き合いたくない。どこかに、私を内心から愛してくれる人はいないのかしら。
高望みじゃないわよね。友達とか、みんな素敵な彼がいて楽しそう。どうして、私だけ縁がないのかしら。
桜の花が池の周りで楽しそうに咲き誇っている井の頭公園のベンチに座り、そんなことを考えていた。周りは、みんな満開の桜を愛で、お酒も飲みながら楽しそうにしている。目の前の女性は、公園で買った、甘酒なのかな、飲みながら、一面、真っ白な桜の木の下で、彼の肩に頭を埋め、このひとときを楽しんでる。
そのときだった。目の前に、キラキラと光る真っ白なワンピースが飛び込んできた。桜の妖精? そんなはずはないわよね。ほのかにピンク色の真っ白な世界の中に、ヒラヒラと真っ白な姿で飛び跳ねているような女性だった。
「お姉さん。元気ないじゃない。楽しまないと損よ。せっかく、桜、こんなに綺麗じゃない。」
「そうね。飲んでるの?」
「そう、さっきまで、仕事関係の人と、この上の焼き鳥屋さんで飲んでた。でも、男たちが、女は席を外せとか言ったから、公園の桜を見にきたの。缶ビール2本あるから、一緒に飲まない?」
「それもいいかもね。ありがとう。いくら?」
「いいわよ。安いし。お姉さん、いくつ?」
「25歳になったばかり。あなたは?」
「同い年なんだ。なんか、大人の女性って感じね。お名前は?」
「朱莉。あなたは?」
「光莉。なんか名前、似てるわね。ところで、なんかあったの?」
「別に。みんな彼がいるのに、どうして私には素敵な彼ができないのかなって考えていただけ。」
「そうなんだ。朱莉さんは、綺麗だし、男性にはモテるでしょ。」
「そんなことないわよ。」
「どんな男性が好きなの?」
「そうね、私のこと、本気で大切にしてくれる人かな。男性って、最初はチヤホヤしてくれるけど、結局、体が目当てだって人多いじゃない。」
「わかる。でも、体が目当てで始まった男でも、何人かは、朱莉さんを大切にしてくれる人もいるんじゃないかな。」
「そうなのかな。」
「そうよ。そんなもんだから、暗くならないで、明るく考えればいいの。」
寒い冬が終わり、外にいても暖かい日差しの中、ベンチで1時間ぐらい、こんな会話でお酒を飲んで、お互いにLine交換をして別れた。
光莉は、桜の花の隙間から青空が僅かに見える光景を見上げ、ずっと笑っていた。でも、遠くを見上げるその目には、少し不安が感じられたのは気のせいだったのかしら。
なんとなく、気が合った光莉とは、時々、一緒に飲みに行くようになった。会社は、それぞれ違う場所みたいだったけど、住んでるところが2人とも吉祥寺だったから、週に1回は仕事帰りに待ち合わせて飲みに行くようになったの。
「光莉、そういえば、どんな男性が好きなの?」
「う〜ん。秘密にしておこうかな。」
「どうして?」
私は、興味もあり、ずるいとは思いつつ、おしぼりを渡すときに、光莉の手に触ってみた。
「女性しか好きになれないなんて言えない。これまでも告白したら、気持ち悪いって、ずっと嫌われてきたもの。朱莉は上品だし、少し硬い感じもするけど、真っ直ぐに生きていて、その生き方が素敵。こんな女性と付き合いたいな。でも、どうして、私って、みんなと同じに生きられないのかしら。」
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