第12章 朱莉(あかり)と光莉(ひかり)(回想)
第1話 クリスマスイブ
「メリークリスマス。これ、僕からのプレゼント。ネックレスだけど、絶対、似合うから、つけてみて。」
「ありがとう。私からも、これプレゼント。喜んでもらえるといいな。」
付き合って1ヶ月目で少し早い気もしたけど、彼から、せっかくのクリスマスイブだと言われて高層階のレストランに来ていた。ANAホテルにあるミシェランの三つ星レストランで、多分、かなり高いと思う。
予約は裕一が取ってくれたけど、さすがにクリスマスイブでこの席、結構、予約するのに大変だったんだろうな。裕一は私に優しくしてくれる。まだ、付き合って間もないけど、結婚に向けて大切にしていくつもり。
2人だけの円錐形のボックスシートというのかしら、目の前の窓には六本木の素敵な夜景がキラキラして、カップル、家族、その人達の暖か気持ちが灯っているみたい。はるか下にある高速道路に流れる車のライトも都会の夜景の一つになって、寒い都会の星のような光景を温かい部屋で味わえる。このシートを選んだのはセンスがいいわね。
夜景も見えるけど、窓に反射した私と裕一も楽しそうに、今注がれたシャンパンで乾杯した。そう、社会人の若い幸せそうなカップルという感じ。
お料理も、どのお皿も美しい盛りつけで、一つひとつに驚きがある。そして、最後の方のデザートは、こんなに多くの種類が出るんだとびっくりで、どれも、これまで食べたことがないレベル。
でも、それよりも、この日に、裕一と一緒の時間が過ごせるのが嬉しかった。だって、クリスマスイブの夜を私と一緒に過ごすって、私以外の女性はいないってことでしょ。
彼とは、マッチングアプリで出会った。使ったのは初めてだったから、少し怖かったけど、友達が、そんな奥手だと、彼氏がいなくて25歳になっちゃうぞと背中を押されて試してみたの。
だから、最初会った時は、その友達、その彼と、マッチングアプリで紹介された彼と私の4人で飲みに行ったの。でも、思ったより、友達の前でも、しっかりしていて、外資系のコンサル会社でコンサルタントをやっていると話していた。給料も同年代よりははるかにいいみたい。
それから2回ぐらい外で会って、今日、この高層階のレストランに一緒にいる。結構、イケメンだと思うし、これまでも、会う日を決める時でも、私の都合とか、真面目に聞いてくれて、結構、私に合わせてくれている。この人とは、やっていけそう。
「朱莉、今日は来てくれて、ありがとう。嬉しいよ。」
「私も嬉しい。今日は、素敵なところに誘ってくれて、ありがとう。最近は、仕事、忙しいの?」
「結構、忙しいかな。でも、朱莉と一緒にいられるんだったら、頑張って時間を空けるよ。31日は、夜、渋谷の居酒屋とかで年越しのカウントダウンをして、明治神宮とかで元旦の朝日を見て参拝というのはどう?」
「楽しそう。来年は、一緒に、もっと素敵な1年にしようね。」
そして、彼が会計を済まし、席を立つときに、私の手を握ってエスコートをしてくれた。その時だった。
「これで、今日はやれる。まだ付き合って1ヶ月だけど、こいつ、なんか清純派というか、奥手で、見た目はいいんだけど、お堅いんだよな。俺だって、何人もの女を断って、こいつと一緒にクリスマスイブ過ごしているんだから、今日こそはやらないと割に合わない。その分、レストラン代とプレゼントは奮発したんだから。でも、こいつ、男性経験なさそうだから、しばらくは面倒だけど、その分、俺を忘れられなくしてやろう。」
私は、手に触れると、相手が考えている声が聞こえてくる。裕一は、こんな人だったっけ?
私だって、25歳にもなるんだから、男女の関係とかは分かっている。でも、その前に、私のことを大切にしてくれる、愛してくれるという男性じゃないと嫌。もっと、早く手を繋いで、裕一のことを知っておくべきだった。
「朱莉、今日はクリスマスイブで、特別の夜だから、このホテルの一室を予約しているんだ。一緒に行こう。」
「ごめんなさい。裕一には今日のことは感謝だけど、体調も悪くなったし、私、帰るわね。これ、ここのレストラン代。3万円じゃ足りないかもしれないけど、渡しておくわ。裕一は、本当によくしてくれてるし、私が悪いの。こんな大切な日に帰るなんて言って、本当に、ごめんなさい。」
「なんで。体調が悪いなら、なおさら、部屋で休もうよ。」
「ごめんなさい。」
多くのカップルが楽しそうに歩く坂を1人で六本木駅に向かって登っていった。ネオンは相変わらずキレイで、トナカイのイルミネーションとか、いかにもクリスマスって雰囲気。でも、私の周りだけ空気は凍りついて、コートに入ってくる風は体を冷やしていった。
どうして、私の前には、体じゃなくて、私そのものを見て大切にしてくれる、誠実な男性が現れないのかしら。
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