第2話 幸せなひととき

 美花は就職活動も忙しいようだったけど、私は、司法試験も合格して、大学の単位も十分とっていたから、大学生最後のこの時期は余裕はたっぷりだった。そう、私の学部は卒論とかなくて、単位だけ取ればいいから。


 だから、週に2回ぐらい、夜、待ち合わせて、一緒に食事に行ったの。美花の就職活動を邪魔しない程度に。


 そして3週間ぐらい経ったころ、ちょうどクリスマスイブの時に、一緒に温泉旅行に行くことにしたの。周りからは、きっと、彼氏がいない女性2人が、都内だと寂しいので、地方の温泉宿に逃げてきたと思われたかもしれないわね。


「こんな老舗旅館に来てみたかったんだけど、やっぱりいいわね。温泉でのんびりして、旅館で美味しい郷土料理をいただいて、お酒を飲んで、すぐに休めるなんて最高だもの。」

「美花が、そんなに喜んでくれたら嬉しいわ。この旅館、雪も積もっているからか、風情があって、露天風呂もきっと素敵ね。楽しみ。」

「ここの温泉、美肌の湯だってよ。お互いに、今まで以上に美人になっちゃおうね。」

「そうそう、楽しみ。」


 2人は、とおされた部屋で一緒に浴衣に着替え、旅館の露天風呂に行った。


「美花は浴衣姿も似合うわね。」

「沙羅も素敵じゃない。でも、こんなふうに、肌を見るのも初めてよね。沙羅の肌って、透き通るようでとても綺麗。」

「美花も、すべすべで素敵よ。こんなこと言うのも変だけど、服着ているとスリムに見えるけど、バストは結構、大きいのね。羨ましい。」

「沙羅だって、大きいじゃない。こんな話しができるのも温泉旅行ならでわね。」


 話しの内容は別として、外から見ると、キャッキャ言っている若い女性2人に見えたと思う。


 そのまま、一緒に湯に入り、露天風呂の岩を背に横並びに座った。そして、ゆっくりと美花の手を握った。仮に、そこに他の人がいても、仲の良い友達にしか見えなかったかもしれないわね。そして、美花は、私の肩に頭をのせ、しばらく雪がちらつく風景を一緒に見ていた。


 それだけで、とっても幸せだったけど、美花は、誰もいなかったのを見て、私の肩から頭をあげ、私の唇に唇を重ねてきた。こんな時間があるなんて、これまで考えてこなかった。私は、美花を抱きしめた。


 そして、2人で初めての夜は、濃厚な時間を過ごした。じっくりとキスをして美花を感じた。話すより、美花と一体感を感じたかも。ずっと、キスを続けていたい。そして、抱き合い、お互いに相手の体に・・・。体の中に稲妻のようなものが走ったのは、これが初めてだったわ。


 愛されているって、心から感じられ、本当に満たされた。ずっと、このままでいたい。


 好きな人と一緒の時間を過ごせる幸せ。日常とは違う旅館の部屋で、好きな人と。このまま、時間が止まってほしい。


 その後、ずっと、抱き合ったままで、ベットで日々のたわいもないことを話したわ。こんなに、心穏やかに好きな女性と一緒の時間を過ごせるなんて、少し前までは想像もしなかった。


「本当に、今日は素晴らしい記念の日になったわね。ありがとう美花。」

「私こそ、幸せ。沙羅に声かけた時はドキドキだったけど、後悔はしたくなかったから声をかけて本当に良かった。」

「さっき、恥ずかしい姿、見せちゃったかもしれないけど、嫌いにならないでね。」

「それが素敵なんじゃない。お互いに、全て曝け出せる仲になりましょうよ。」

「美花に会えて、本当に幸せ。」

「私も。ずっと、私のこと好きでいてね。」

「もちろんよ。」


 なんか、涙が出ちゃった。こんな時間が過ごせるなんて。私には、こんな時間は永遠にないと思ってたから。そして、朝起きると、横に美花がいて、おはようって。このまま、ずっと、この時間が続かないかしら。


 世の中のおじさん達からは、少子化で子供を作らないのはダメだと言われるかもしれないけど、そんなこと、私達には関係ないわ。そもそも、子供を作れる人だって、子供を作りたくないと思う環境が悪いんじゃない。私たちが悪いわけじゃない。


 それに、男性と関係を持てと言われても、男性が好きになれないんだから無理。私が変わっていて、ごめんなさいということなんだろうけど、気持ちなんだから、どうしょうもない。

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