第3話 最愛の人の死
旅館から帰る途中で、美花は私に相談してきた。
「私、最近、誰かに見られている気がするんだけど、ストーカーとかかな。」
「怖いじゃない。警察とかに相談してみた?」
「まだ、何かあるというわけじゃないし、相談していない。気のせいかも。」
「今度、私が、夜道で後ろから着いていってみるね。」
「沙羅の方が危ないじゃない?」
「気をつけるわ。でも、美花が心配だもの。」
「ありがとう。無茶はしないでね。」
私たちは、旅行から帰ってきて日常の生活に戻ったけど、美花と私の部屋を行き来するような日々が続いた。
「今日のお寿司、少し高めだったけど、美味しかったわね。」
「関さばとか初めて食べたけど、あんな美味しい鯖って初めてで感激したわ。また、日本酒、結構飲んだわよね。」
「少し、酔っちゃった。シャワー借りてもいい?」
「どうぞ。ところで、この前、思ったんだけど、沙羅の部屋、解約して、ここで一緒に暮らさない? 男女だと周りの目もあるけど、女性どうしならシェアルームということで、誰も変な目で見ないと思うし。賃料も半分で済むからお得よね。」
「嬉しい。本当にいいの?」
「もちろんじゃない。どうしてダメなの?」
「じゃあ、すぐにそうするね。楽しみ。」
これから、コーヒーの香りで朝起きて、私がトーストとスクランブルエッグを作って一緒に食べて、お昼はそれぞれの生活をして、また、夜には、同じ部屋に戻ってくる。こんな生活ができるなんて。
帰ってくると、電気がついていて、美花がお帰りって言ってくれる温かい生活。考えるだけで幸せ。美花と出会ってから、幸せがずっと続いている。
一緒にいられる時間はとっても増えたわ。何かあっても、すぐに声をかけて、話しが聞ける。こんな生活がずっと続いてほしい。
「そういえば、最近、ストーカーされているという感じはしなかったんだけど、2日前ぐらいかな、また、始まったはような。」
「じゃあ、明日の夜、駅からこの部屋まで、後ろから着いて行ってみるね。気をつけてね。」
次の夜、最寄りの駅から、美花が先に歩き始め、私は30mぐらい後から気配を消して着いていった。そしたら、5分ぐらい歩き、繁華街を過ぎてやや暗くなった道に来た頃、いつの間にか1人の男性が美花の後ろを歩いているのに気づいた。
たまたま、同じ方面に帰る人かもしれない。寒いからかフードをかぶって、マスクをしていて、どんな顔かわからないけど、パーカーのポケットに手を入れて、少し猫背気味で歩いてる。20代で、少し背が低い男性って感じかしら。でも、多分、気のせいね。
そして、2人は曲がり角を曲がって、私の視界から消えた時、美花の悲鳴が聞こえた。私は、走って角を曲がると、道路に倒れている美香の姿がそこにあった。駆け寄ると、背中にナイフが刺さってうつ伏せで倒れてる。
私の頭は真っ白になった。何が起こったの? さっきの男性は見えない。どうすればいいの? そう、救急車を呼んで美花を助けないと。
救急車が来て、病院に一緒に来たけど、先生から友達ですかと聞かれ、そうですと答えると、美花が亡くなったと告げられた。
美花、さっきまで笑って話していたのに。もういないの? 信じられない。
その後、警察から話しを聞かれて、ストーカーで悩んでいたこと、さっきの男性が後ろを歩いていたことは話したけど、顔は見なかったし、真っ暗の中、黒い服でよく見えなかったので、話せることは少なかった。
でも、低めの身長で、猫背気味の男性が犯人だから、必ず捕まえてくださいと訴えた。それがあまりに強い勢いだったので、横の刑事から、落ち着いてくださいと制される程、私は憤っていた。
私は、美花の部屋に戻り、寒々とした1人ぽっちの部屋で、美花とはもう会えないんだって今更だけど実感した。そして、その部屋で、一晩中、泣いていた。
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