第3話 フェイク動画

「今日は、あなたが、社内で流したフェイク動画について、お話しをお聞かせください。あなたは、社内の女性が後輩男性社員をホテルに連れ込み、性行為に及んだというフェイク動画を撮って、社内にばら撒いたと証言したようですが、正しいですか?」

「正しいけど、なんかイメージが違うわ。その女は、後輩男性社員をホテルに連れ込んだのは事実。だから、ばら撒いた動画はフェイクだけど、ホテルで2人がエッチしていたのは事実なの。その男性社員が、その女から無理やりホテルに連れ込まれて、エッチを強要されたと証言したんだから。それにしても、私が作った動画って見た? すごいでしょう。あの女が、動物のメスって見えるように、いやらしく、汚く映るよう映像を作るのには苦労したのよ。口からよだれを流して、あの男性社員を呼びつけ、自分を舐めるよう強要してから、あそこを前に出して、入れなさいって。そういう時には、グロテスクなあの女のあそこに、クローズアップとか。作った私も、気持ち悪くなっちゃった。」

「ビデオの内容は別として、ホテルに2人が一緒にいて、後輩男性社員がエッチを強要されたことは本当なのだとしましょう。だからと言って、フェイク動画を作って、社内にばら撒いていいことにならないでしょう。」

「どうして? その後輩男性社員がどんなに辛い思いをして、その女の性のおもちゃにされたのかわかる。そんな気持ちを救ってあげたのに、どこに悪いことがあるの?」


 どこまでいっても、悪いことがあれば、自分は何をしても良いという考えを変えようとは思っていないようだ。


「この前もそうだけど、どうも意見がすれ違うわね。そんなこと言っているから、不正が蔓延するのよ。人のメールをチェックしちゃいけない、絶対に行われているはず動画を流しちゃいけない、なんか、悪人の肩を持っているとしか思えないわ。まず、そういうことをして、悪事の可能性をあぶり出し、あとは、あなたのいうように、複数の人でチェックして、実態を解明すればいいのよ。間違ってる?」

「そうなんですけど、その女性、セクハラで会社から処分されて、会社に居づらくなって会社を辞めて、今、鬱で家から出れなくなっているんですよ。」

「当然の報いじゃない。これで、追加の被害者がでなくなったんじゃないの。」

「あなたの正義感はわかるけど、やることが限度を超えてるんですよ。」


 この患者は、どうして、ここまで人を貶めることができるんだろう。自分が攻撃されているわけでもないのに。正義感? いや違う気がする。その背景には、やっぱり自分の利得があるように感じる。


 これは、当時、付き合っていた彼に、その女性が声をかけたのを不愉快と思って、その女性を排除するために行ったとしか考えられない。それを、部下男性社員へのセクハラとして問題をすり替えている。


 どうして、こんなに話しの展開が上手なんだろう。だから、この患者も、自分が正しいと信じてるし、罪悪感もない。でも、やってることは、自分が好きじゃない人を痛めつけているだけ。好き勝手に。


「結局、先生とは見解の違いで、これ以上やっても堂々巡りね。もうやめる?」


 根本的に治療の方法を変えなくてはいけない。私には無理だ。

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