第5話 刑務所

 隆一は、なんとなく昔の一香とは違うような気もしていた。目の裏側に、何か違う気配があるような。いや勘違いだね。そして、ずっと計画していたプロポーズをすることにした。もしかしたら、疑念を消し去るためだったのかもしれない。


「一香、今日は、再会してから3年目だね。プレゼントがあるんだ。」

「なに、なに。ワクワクする。」

「これ。婚約指輪だけど、受け取ってくれる?」


 私の目は涙で溢れた。


「ありがとう。本当に今日は最高の日。嬉しいわ。こんな私だけど、よろしく。」

「一香がいてくれて楽しく過ごせた。これからも、ずっと一緒にいてほしい。」


 そして、二人は結婚し、幸せな日々が続いた。そしてある日、ベットの中で、私から隆一に将来について聞いてみた。


「ねえ、子供って何人欲しい?」

「そうだね。女の子、男の子の2人かな。」

「なんか、幸せそう。そろそろ、作らない。」

「いい時期かもしれないね。」


 そう言って、2人は妊活を始めた。子供ができやすい日を調べて、その日は、隆一は早く帰ってきてもらい、精力がつく料理を食べて、夜を一緒に過ごした。


 隆一も子供が好きみたいで、自分から、いろいろな提案をしたり、調べたりしてくれたり、その日の数日前から、飲み会とか断って体力を温存してくれたりした。やっぱり、優しいのね。


 そして、半年ぐらい経った頃、生理が来ないので病院に行ったら妊娠したって。やっと、隆一との子供ができるんだわ。エコーで調べたら、女の子だろうって。可愛い女の子に違いない。隆一と私の子供なんだから。名前は何にしようかしら。


 最初、つわりはしんどかったけど、落ち着くとお腹が大きくなっていき、中からぽんぽんと叩くことも増えたの。私の子、本当に可愛い。愛してるわ。


 そして、しばらく経った頃、夕方に陣痛が激しくなって、隆一に病院まで車で連れて行ってもらった。そして、次の朝には、元気な女の子が生まれた。これが私と隆一との子なのね。とっても、可愛い。


 抱きしめたときだった。女の子が喋った。


「私の隆一を返して。」


 生まれたばかりなのに話すはずがない。看護師さんも唖然としている。でも、聞き間違いだろうし、私は、今聞いたと思う言葉を無視して、話しかけた。


「ずっと、私と一緒に暮らそうね。」

「隆一は私のものだから、早く別れて。」


 この声ははっきりと聞こえた。私は、蒼白となり、赤ちゃんを投げ出してしまった。隆一は、子供が亡くなったこと、さらに、それが私のせいだと知り、ひどく落ち込んでいて、私は、翌日、警察に連行された。


 また、私が生まれたばかりの子供を殺したという事件を週刊誌が騒ぎ立てたのを契機に、沙奈の父親が、週刊誌に載った子殺しの妻の夫である隆一の顔を見たようで、娘の部屋にある写真に隆一が写っていると警察に訴えたらしい。それを契機に、警察がまた動き始めた。そして、隆一と一香の共犯というシナリオで捜査が進んでいった。


 警察は、隆一が2人の女性と付き合い、沙奈が邪魔になって殺した、そして、隆一と私が、殺人があった直後から2年間、付き合っていなかったことも、ほとぼりを冷ますためだと思ったらしい。


 私は、その2年間は、別れてたんだって言ったら、どうして、そんな都合のいい時期に別れるんだって問い詰められた。別れるのに理由はいらないでしょって答えたんだけど、刑事は、全く信用していない顔だった。


 物証はほとんどなかったけど、隆一が沙奈を知らないと証言していたのに対し、写真が残っていたので嘘を言っていると検察側が強く訴えた。その主張を契機に、裁判は隆一と私に不利に進んでいったの。そして、その裁判で、私の父親が、証人として証言した後、急に叫んだ。


「我が子を殺したのはお前たちだ。我が子を返してくれ。」


 よく考えてみると、このバストも体のラインも子宮から出た女性ホルモンで作られた。出産も移植された別の女性の子宮がしている。そして、顔も整形した。おそらく、脳も女性ホルモンの影響を受けて、元のままじゃないと思う。


 だから、この父親が産んだ子供は、この世の中にどこにもないんだって今更ながらに気づいた。そう言ったんだじゃないと思うけど、そう聞こえた。でも、もう昔には戻れないわ。お父さん、ごめんなさい。


 隆一は、最後まで、全く記憶になく、殺した事実はないと主張し続けた。私も、妻として、隆一と同じ主張を続けたわ。


 裁判の結果は、私たちに反省の色がないということで10年の懲役刑が下された。そして、今も、別々の刑務所に入っている。どうして私達って、一生のパートナーなのに、別居しなければいけないの? 


 心から怒りが溢れ出してきた私は、食事の時に使った箸を服の中に隠し、廊下で横を歩いていた女性刑務官の目を、その箸で突き刺していた。

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