2-22





 白熱した話し合いを終え、とぼとぼと自室に戻る。


 昔の人は3人寄れば文殊の知恵とか言ってたけど、7人も集まってろくなアイデアが何一つ出なかったのはどうしてだろうか?


 きっと普通な常識人が俺1人しかいなかったのが問題だったんだろう。


とは言え、この学院に来ている生徒の中で知り合いと言えば彼ら彼女らくらいしかいないので、どうしようもないわけだが。


「それで?こんな時間に人の部屋の前で何やってんの?お姫様」

「・・・・・・護様」


 これは、既成事実を作りに来たとか、そういう感じではなさそうだ。マサル王子との夕食会の後からすっかり元気を無くしていたんだけど、まだ元には戻らないみたいだ。


「あの・・・・・・私、護様に・・・・・・」

「とりあえずロビーに行こ?座って話ができた方が良いでしょ?」

「・・・・・・」


 なかなか話を切り出せない様子のミナモちゃんに移動を提案したんだけど、なぜか彼女は俯いたまま、俺のシャツを力なく引っ張った。


 この感じ、他の人に話を聞かれたくないとかそんなのかな?


 さすがに夜に女の子を自室に連れ込むわけにもいかないし。


「んじゃ、訓練場に行くか」

「へあ?」


 悩んだときは体を動かすのが1番だって、誰かが言ってた!





「はぁ・・・はぁ・・・ま、護様。これは・・・いつまで?」


 訓練場に到着してから1時間ほど。


ミナモちゃんのペースに合わせて走っていたから、まだ30㎞も走ってないと思うんだけど、今の『いつまで?』っていうのはどういう意味だろう?


 いつまで準備運動を続けるの?って言う意味なのか、いつまでちんたら走ってるんだ?っていう意味なのかもしれない。


「少し速度上げる?」

「はぁ・・・まだ走る・・・の・・・」

「ああ、そっちね。じゃあ、模擬戦に移ろうか」


 パタリと足を止めたミナモちゃんを尻目に、俺は模擬戦用の道具をとりに倉庫へ向かう。


 最近拳術のスキルが生えたので、たまには盾を使わずに拳とショートソードだけを使うのも面白いかもしれない。


 ミナモちゃんはこの前ロングソードを使っていたから、木剣もそのサイズの物を用意してあげれば良いかな?


 ロングソードを相手に、拳でどれだけ立ち会えるのか楽しみだな、などと思いながらミナモちゃんの元に戻ると、なぜか彼女は座り込んで俯いていた。


「ミナモちゃん。まだ元気でない?」

「はぁ、はぁ・・・いえ、護様・・・そういうわけではなく・・・」

「まあ、大丈夫。ちゃんと体を動かし始めれば、元気出ると思うから!」

「そうじゃないです!疲れたので、少し休ませて欲しいんです!」

「え?」


 まだ準備運動の段階だぞ?たかが時速30㎞のペースで1時間走ったくらいで休憩が必要?


 でも、見ればミナモちゃんは汗だくで、体操服には形がしっかり視認できるほど黄色い下着が浮かび上がっている。呼吸もかなり荒くなっているみたいだ。


 もしかしてお姫様って、あんまり体を動かすことがないんだろうか?


「それじゃあ、1分だけ休憩して呼吸を整え―――」

「10分!せめて10分、休ませてください!」

「わ、わかったよ」


 結構声が出てるから、まだまだ大丈夫そうだけど、仕方ないか。


 とりあえず体が冷えないようにタオルと、水分補給用にプロテイン・・・・・・は訓練が終わった後か。じゃあスポーツドリンクで良いか。


「ほい、ミナモちゃん。急いで飲むと体冷えるから、ゆっくり飲んでね」

「ごくごくごくごく」


 手渡したスポーツドリンクを、一息に飲み干してしまう。あ~あ、あんな飲み方するんなら、水で薄めたから渡した方が良かったな。


「落ち着いた?」

「ぷはぁ。死ぬかと思いました!」

「よし、それじゃあ体が冷えないうちに訓練を―――」

「まだ!10分経っていません!休ませてください!」


 全然元気そうだけど、まだダメらしい。じゃあせめて、汗くらいは拭いた方が良いだろうと、手にしていたタオルを手渡した。


「ありがとうございます。護様は、汗をかいておられないんですね」

「うん?まあ、普段よりずっとゆっくり走ってるからね」

「・・・・・・あれより速く走るのですか?あの時間を?」


 え?東さんがあの10倍は速く走ってたから、俺なんか普通だよなぁと思ってたんだけど。


もしかして比較対象がおかしかっただけで、俺もおかしい?


「やはり、地球生まれの方はテリオリスの人間とは違うのですね」


 少し元気になってきたと思ったけど、また表情に影が差し、俯いてしまった。まだまだ走り足りなかったってことだろうか。


「それじゃあ、さっきの倍の速さで走ろうか!」

「え?ま、待ってください。今のは、私の話を聞いてくれる流れではないのですか?」

「走りながら?」

「座ったままです!」


 いや、それじゃあ訓練にならないじゃん、と思ったんだけど、よくよく考えたらこれ別に訓練じゃなかったわ。


 そもそもなんで走ってたんだっけ?


「私の話を聞いてください!だから!木剣を差し出さないで!話を聞いて!」


 そっと差し出した木剣を、ぽーいと放り投げられてしまった。せっかく拳術を試せると思ったのに残念だ。


「私は、護様に謝罪しなければいけないと思って」

「謝罪?」

「はい。護様のお父様を、公爵に叙爵したことです」


 よくわからないな。なんでそんな話を今更、俺に謝る必要があるんだろうか?


「そもそもうちのお父さんを貴族にするって言ったのは、水姫さんでしょ?お父さんだって、貴族になれるのを喜んでいたし」

「たしかに、叙爵を決めたのは私の両親です。ですが、護様のお父様は本来、伯爵位を叙爵するはずでした」


 それから、ミナモちゃんは我が家が公爵位を賜ることになった経緯をつらつらと話し始めた。


 ことの始まりは、水姫さんが生き別れの兄とまた一緒に暮らしたい。そう国王陛下にお願いしたところから始まる。


 それを聞いた国王は、そのお願いを快諾し、フォルティア王国に貴族として迎えようという話になった。


 せっかく貴族にするんなら、日本との外交の窓口になってもらえるように、伯爵位を与えて外交特使になってもらうのはどうかと、お偉方から意見が挙がり、採用。


 そこで、例のミサカイ皇国のご登場。


 大量の異世界召喚によって国力が底辺まで落ち込んだミサカイ皇国ではあるが、アホな皇子様はミナモちゃんを嫁にすることをあきらめていなかった。


 もちろん情勢が変わったことで、フォルティア王国は突っぱねたが、「一度は色好い返事をしておいて今更反故にするとは何事か!王族同士の婚姻を軽く見るな!」とゴネまくったらしい。


 仕方なく、国内ですでに新しい婚約者がいると返事をしたところ、「我が国の王族からの婚約を破棄にするのだ。当然、それなりの身分の相手なのだろうな?」なんて言ってきた。


「それで、それなりの身分が公爵?」

「王族に次ぐ地位ですから。しかし、我が国には公爵家は存在しません。そこで、侯爵家のどこかを昇爵しようとしたのですが、どこの家も私と年齢的に釣り合いのとれる男子がおりませんでした」


 伯爵家には、ミナモちゃんと年齢的に釣り合いのとれる次期当主の男子がいたそうなんだけど、いきなり伯爵家を公爵まで昇爵するのはムリ。


 だったら、王国の英雄であり、王妃でもある水姫さんの功績で、生家である中里家を公爵にしちゃえば良いんじゃね?となったらしい。いや、そこだけノリ軽いのなんで?


「ですから、私のわがままのせいなのです。私のせいで、貴族になって早々、護様には重責を担っていただくことになってしまいました」

「重責ってなんのこと?」

「え?」


 重責なんて担ってないよね?






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皆様の応援を励みに頑張って毎日更新・・・・・・は難しくても、定期的な更新をしていきたいと思うので、これからもよろしくお願いします!

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