2-21
「というわけで、普通の交流会をします!」
「「「ええぇ~」」」
なんとも嫌そうな反応が返ってくるが、気にしない。もう引き返せないんだもん。
本当は俺だってやりたくない。準備だけして当日不参加でも良いかな?それはありかもしれん。
さてさて、今俺たちは学院にある『1―A』と書かれた教室に集まっている。メンバーは日本の生徒だけで、今回ミナモちゃんには外してもらった。
せっかくなので、ミナモちゃんたちにも参加してもらって、日本の『普通』を学んでもらいたいからね。
「まあ、運営係は普通とはほど遠いメンバーなわけだが」
「ちょっとちょっとちょっと!それってもしかしなくてもボクのことだよねぇ?」
「正解!」
いや、正確に言えば運営係の全員が、だけど。
甘楽さんには前科があるし、久賀くんも勘違い野郎で友だちいなそうなので普通とはほど遠い。
あとは脳筋バカとバーサーカーと厨二病。
一応、相談役というかお目付役で大間々先生が参加してくれてるけど、この人も異世界の基準が身についてるから、日本の普通とは感覚が違いすぎる。
つまり、普通なヤツは俺しかいない。俺がしっかりしないと!
「ではまず、会議を始める前に1つだけ言っておきます。今回は、スキルや魔法の使用は全面的に禁止です!」
「ええぇ~!」
うちの相方から不満の声が漏れる。
いや、日本のありふれたクラス交流会風な感じにするって言うのに、どうしてそこで不満が出るんだよ。
宴会芸で魔法でも使うつもりだったのか?
「魔法が使えないと、あのバカ王子を消し炭にできないよ?」
「交流するんだよ?戦闘でも討伐でもなく、友好を築くんだよ?熱く燃えるような友情が消し炭になったら大問題だよね?」
「くふふ。熱く燃えるような友情は、戦いの中でしか生まれないんだよ」
「それで友情が生まれるのは少年マンガの中だけなんだわ。普通の社会で強敵と書いて『とも』とは読まないんだわ。それに、最初にバカ王子を消し炭にって言っちゃってるからね?もう説得力ないからね?」
「なんだよぉ~、ちょっとくらい良いじゃんか~!」
ぷくりと頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。そんな可愛い顔しても、魔法の使用許可は出しませんからね!
「ついでに言っておくけど、拳で殴り合うのもダメだからね?」
「なんだと!」
なんで驚いてるんだこの脳筋バカは。
「じゃあ―――」
「竹刀や木剣での立ち会いもなし!戦いません!」
戦いの中でしか友情を育めない戦闘民族か何かかな?
だとしたら、どうか自分の星にお帰りください。
「それじゃあ、戦闘行為以外で、何かやりたいことのある人は挙手をお願いします」
「はい!」
ぴしりと、真っ直ぐきれいに手を挙げたのは、バーサーカーこと上野さん。この様子だけ見ていると、学院のアイドルと言われても納得してしまう美しさだ。
「はい、上野さん。意見をどうぞ」
「護とポッ○ーゲームがしたい!」
「他に何か意見のある人はいますか~?」
「え?あれ?護、なんで黒板に書いてくれないの?」
「ちょっとちょっとちょっと~。意見はしっかり黒板に書かなきゃダメなんじゃないの~?」
せっかく流してしまおうと思ったのに、なんで止めるかね。
この前も思ったけど、クラスの交流会とかでポッ○ーゲームってやる?普通にお菓子としてはあっても良いと思うけどさ。
少なくとも俺の小中学校時代で、ポッ○ーゲームをやった経験は皆無。
だってあんなの合コンとかいうやつのノリじゃん!日常的にできるゲームじゃないよ。
それとも上野さんとか甘楽さんクラスの陽の者になると、ポッ○ーゲームは普通なんだろうか?
うえ~いとか言ってるヤツらといかがわしい遊びを・・・・・・
「う、上野さんは、その、男子とポッ○ーゲーム、よくやったの?」
「え?やらないけど?」
「やんないのかよ!」
じゃあなんで言ったんだよ!
「普通に!やったことのあるゲームを提案してよ!」
「え~、ボクはやったことあるよ?ポッ○ーゲーム」
「甘楽さん以外で!」
甘楽さんには昨日の前科があるので、発言権はほぼありません!
ただ、声をかけておかないと裏で暗躍しそうなので、監視の意味で運営係を手伝ってもらっている。
「でもでもでもさ~。昨日買ってきた大量のポッ○ーはどうするの?さすがに普通に食べられないよね~?」
「はぁ」
ニヤリと不敵に笑う甘楽さんに、小さなため息で返す。
たしかに昨日上野さんが買ってきたポッ○ーは、大人買いのレベルを超える量だ。よくこれだけの在庫を確保していたなと思う。
しかもスタンダードなポッ○ーだけ。
「でも、ポッ○ーゲームやるよりポッ○ーの早食い対決でもやった方が減りが早くない?1本ずつゲームで使ってたら、いつまで経っても終わらないよ?」
「ちっちっち。甘いねマモルくん。何も1対1でやるだけがポッ○ーゲームではないんだよぉ」
「はあ、そっすか。まあ、ポッ○ーはあまりをみんなで分ければ良いでしょ。ゲームはなしの方向で」
「じゃ、じゃあさ。今、やらない?」
「は?」
何を言っているのか、上野さんは箱から1本のポッキーを取り出して、そのまま咥えた。
そして、なぜかチョコの塗られた先端をこちらへと突き出してきた。
「ほは、はあふふぃて?」
ほら、早くして?って言ったのかな?
果たしてこの状況で俺は何を早くすれば良いと言うのだろうか?
理解が追いつかずに、じっと上野さんを眺める。ポッ○ーを咥えた唇はリップを塗っているのかぷるんと潤いがあり、前屈みになっているせいで、緩く開いたブラウスの隙間から強調された胸の谷間が見えている。これで上目遣いで見上げられてんだぞ?そんなん、断れる男なんかおる?
まあ、俺と刀司以外にはいないだろうな。
「ということで、甘楽さん出番だよ?」
「いやいやいや!なんでボクにフッたの?どう考えてもマモルくんがやる流れだったよね?いいの?こんな可愛い子からのお誘いほん投げちゃって?」
「ほおふぁ!はあふぅまふぉる」
たしかに大変魅力的なお話ではあるんだけど、この場にいるのは俺たち3人だけではないのだ。
「「じいぃ~~~」」
俺にはおっかない保護者が2人もついている。擬音を口にするほどしっかり監視してますアピールをされてるのに、あからさまなハニートラップを踏むわけにはいかないのだ。
「ん~~!」
なぜか目を閉じて甘えたような声をあげてくる上野さん。目を閉じたと言うことは、相手が代わっても文句を言えないと言うことだな。
「ちょちょちょ!はむぅ!」
甘楽さんに無理矢理ポッ○ーの反対側を咥えさせる。
その瞬間に上野さんは甘楽さんの後頭部に両手を回し、もの凄い勢いでポッ○ーを貪り食い始めた。
「んー!んー!んー!」
甘楽さんの悲鳴にならない悲鳴が教室に響き渡る。
甘楽さん、キミの犠牲はムダにしないからね。
「はい、ということで、何をするか他に意見のある人はいますか~?」
「えっと、中里くん?さすがにこれは、酷いんじゃないでしょうか?」
「やれとは言わないけど、さすがにこの仕打ちはあんまりだと思うよ、護くん」
保護者2人の意を汲んで甘楽さんと交代したというのに、なぜ俺が怒られているんだろうか?解せん。
「ちょ、ちょっと!な、なんでマコトと入れ替わってるの?あ、危うくアタシの初めてがマコトに奪われるところだった」
「うううぅ。ボクも危うくひかりちんに初めてを奪われるところだったよぉ。直前で気づいてくれて良かったぁ」
さて、気を取り直して、真面目に考えていくとしますかねぇ。
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