2-20
「ふむ、このサラダに使われている野菜は実に瑞々しい。我が国ではこれほど新鮮な野菜を口にすることはなかなかできないぞ」
「お、お褒めいただき光栄です」
マサル王子の賛辞に、どうにか笑顔を作って対応する。
あれだけのことがあったのに、よく平気で食事を開始できたものだ。
「と、ところで殿下?本当に治療はよろしいのでしょうか?すぐにでも、やった張本人に治療させますけど」
「ナカサト様、お気遣い痛み入ります。しかし、これも一つの教育故」
「う、うむ。そちらのご令嬢に治療していただきたい気持ちもあるが、これも私の不徳。甘えるわけにはいかぬ」
とても立派なことを言っているようだけど、自分でアホなことをした代償なので、褒める気には全くならない。
けどさすがにさ、目の前で食事する人が顔面ボコボコの血だらけだったら、気になって食事どころじゃないでしょ。
よく他のみんなは普通に食事ができるものだよ。
マサル王子が上野さんに求婚した直後、上野さん渾身のグーパンがマサル王子の顔面に直撃。
壁に埋もれることになった王子は、執事のおじさまにさらに数発の折檻をもらって今に至る。
全面的に王子が悪いため、こちらに非を求めることはないと執事さんは言ってくれたけど、どう考えてもこちら側にも落ち度があった。王子様とのディナーに、バーカーカーを同席させてしまったんだから。
そんなバーサーカーは、まるで育ちの良いご令嬢のようにフォークを使い、サラダを食べている。少しは悪びれろ!
「ところで、今日はフォルティア王国の子息令嬢と何やら面白そうな催しをやったと聞いたが?」
催し、といえばあのアホなレクリエーションのことだろう。面白くなかった、と言えばウソになるだろうけど。
「ハダカノツキアイという文化は非常に素晴らしい。どうだろうか、我がサランド王国ともその催しをしていただけないだろうか?」
さすがにもう一度あれをやるわけにはいかないよなぁ。大間々先生にはめっちゃ怒られたし、ご令嬢たちにはなぜか求婚されたし。
ちらりとミナモちゃんに視線を向けると、彼女は苦笑しながら首を横に振った。
「やり方を教えることはできると思いますけど」
そう言ってやんわり断ろうと思ったんだけど。
「いやいや、ぜひともナカサト殿たちも一緒に!」
めっちゃ食いついてきた。これはどう考えても、上野さんを参加させてあわよくばを狙っている。もしかしたら、小雪が参加するかもと、淡い期待を胸に抱いている可能性も。
全然反省してないじゃんかこのアホ王子!
「殿下、さすがに貴国の子息令嬢とそのようなことをするわけには・・・・・・」
「いやいやいや!これは交流会の一種なのであろう?同じ学び舎で学ぶもの同士、交流を持つことは良いことなのではないか?」
「たしかに、交流を持つのは良いことだと思います。ただ、あれはちょっと」
「せっかく異世界の日本に留学してきたのだ!この国の文化を学びたいのは我々も同じだ!」
ああ、はい、そうですよね。だったらあんな間違った日本文化を学んでもらっては困る。
「クリストフ殿下。少し落ち着かれてはいかがですか?護様も困っていますよ?」
「しかしミナモ姫。フォルティアだけこの国の文化に触れるのはずるいではないか?」
ミナモちゃんが諫めてくれようとしても、聞く耳持たず。これは執事のおじさまにご協力いただくしかないか?
「・・・・・・」
そう思って視線を向けるのだが、なぜか執事のおじさまは何も言わずに控えていた。
文化に触れる、という王子の言葉に思うところでもあったんだろうか?
「そもそも、護様はフォルティア王国の貴族子息。国内の貴族家と交流を持つのは当然のことです」
「ナカサト家は公爵位。であるならば、他国との交流も必要となろう?」
「まだ叙爵されたばかりですもの。他国との交流よりも、自国での地盤作りが優先ですわ」
そう言うんだったら、なんでこの席に俺が同席されているんですかねぇ?
「はっはっは。ミズキ王妃の親族とは言え、いきなり公爵の位を賜るくらいなのだ。聞けば、日本国の大使となったのであろう?であれば、外交能力に問題は無いと思うが?」
「ふふふ。それはあくまでナカサト公爵の話。ご子息の護様には、まだ少し早いかと」
いや、うちのお父さんにも外交能力とか皆無だと思うよ?能力で貴族の爵位をもらったんじゃなくて、コネで手に入れた地位だし。
「15となれば、親と共に仕事をしていても普通だ。早いと言うことはないと思うが?」
「とは言え、今まで貴族教育など受けていなかったのですから、それをいきなり公爵家の子息だから、と仕事を任せるのは酷なのでは?」
「酷なものか。貴族に叙爵されたのであれば、その瞬間から国のために、民のために尽くさねばならぬ。それが貴族としてのあり方であろう?」
「・・・・・・そうですね」
アホな王子かと思っていたけど、王族としてはしっかりした考え方を持っているみたい。
ラノベとかアニメで出てくるような、民を蔑ろにするクソみたいな貴族とは違うようだ。
まあ、あれやこれや偉そうなことを言っているけど、結局は女子の裸が見たいだけなんだけど。
そんな魂胆で言い負かされてしまったミナモちゃんが少しばかりかわいそうに思うよ。
せっかく俺をフォローしようと応戦してくれたのに、これだとミナモちゃんがマサル王子に王族としてのあり方で負けたみたいじゃんね。
「というわけだ。我が国とも、ハダカノツキアイというヤツをしてくれるな?ナカサト殿」
「いや、そうはならんでしょう」
「なんだと!」
なんだも何も、あんなのをもう1回やります、なんて言ったら、大間々先生にまたお説教されちゃうし、小雪にも何を言われるかわからん。
「そもそも、裸の付き合いってのは、あんなふざけたレクリエーションのことじゃないんですよ。日本の文化を学びたい殿下であれば、あのような日本文化を冒涜したような遊びをしたいなんて言いませんよね?」
「したいいいいいいいっだあ。爺!今良いところだったのに!なんで邪魔をするのだ!」
「先ほどまでは、貴族のあり方をご立派に語られておりましたのでお止めしませんでした。しかし、今のは違いますな?」
「何を言うか爺!例え間違った文化であろうと、交流をはかるのは重要なことであろうが!」
「本音は?」
「ツキヨノ嬢やそちらのレディの裸がみだああああああぁ!」
本当にこの人はアホだなぁ。
素直なのは良いところでもあると思うけど、王族なんだからもう少し本音を上手く隠さなきゃ。
ミナモちゃんとのやりとりではちゃんとしていたのにね。
「姫殿下、ナカサト様。我が主が大変失礼いたしました。どうか、先ほどの言葉はお聞き流しください」
「はあ」
さすがに小雪や上野さんの裸が見たいからって理由を聞いて、あのレクリエーションをやってやろう、とはならない。
「で、ではせめてぇ、お茶会などいかがだろうか」
「まだあきらめてないんですか?」
「ふっふっふ。当然である。是非ともツキヨノ嬢やそちらのレディとお近づきになりたいのだ」
「小雪には近づかない、話しかけない、視界に入らないって約束でしたよね?」
「うぐぅ。そこをなんとかぁ!」
なんとかと言われたって、小雪との間で交わされた約束に、俺が口を挟むことなんてできない。
バディではあっても、恋人や家族ではないんだから。
「頼むぅ、ナカサト殿おおおおおぉ!」
なんか最近、王族に泣きつかれてばかりな気がするんだが。もう少し外聞を気にしたほうが良いんじゃないの?
「はあ、わかりましたよ。それじゃあ、現代日本流のお茶会、やってみますか?」
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