2-19





 レクリエーションは無事に終了しなかったけど、大間々先生と小雪のお説教を切り抜け、信号機3人娘のプロポーズを放り投げて、男子寮の自室に帰ってきた。


 なぜか本日は過密スケジュールなので、シャワーを浴びて着替えたらすぐに出なければならない。


 これなら1日東さんと訓練してる方がよっぽど楽だと思っている俺は、すっかりここでの生活に馴染んでしまったのだろうか。


「はぁ、本当だったら今頃、春休みだったんだよなぁ。アニメを流しながら積んであったマンガやラノベを消化したり、アニメを見ながらゲームして過ごす予定だったのに」

「アタシと出かける予定が入ってないよ?」

「いやいや、普通に考えて赤の他人の上野さんと春休みに出かけるわけないじゃないですか」

「そうです。赤の他人の上野さんとは一緒にいる必要はございません」


 この後の予定は、サランド王国の第二王子、なんちゃらマサル王子とディナー。


 そんなわけでマサル王子を接待するはずだったんだけど、今回小雪は欠席。


午前中の決闘で『今後小雪に近づかない、遠目からでも見ない』って約束させたから連れて行くわけにはいかないし、そもそもあの王子様に小雪を合わせたくない。


 仕方なくミナモちゃんと2人で向かう予定だったんだけど、なぜか上野さんまで一緒にやって来た。


 王子様と聞いて、一目会ってみたくなったとかそういうヤツだろうか?


 まあ、赤の他人の俺には関係のない話だけど。


「ま、護、違うんだよ。さっき言った赤の他人って言うのは言葉の綾ってやつで。アタシはちゃんと護のこと、と、とと、特別に思ってるから!」

「はあ、そうですか」

「なんか軽くない!やっぱりまだ怒ってる?ど、土下座したら許してくれる?そ、それとも裸になったら良いのかな?」

「は、裸で土下座、ですか?」


 この人急に何を言い出してるんだよ!さすがの俺も美少女を裸にして土下座させるほど鬼畜じゃないよ。


 それとも上野さんには、俺がそのレベルの変態だと思われているのだろうか。心外である。


「ち、違うよ。アタシの裸を見せるって言っただけで、裸のまま土下座するなんて言ってないよ。も、もしかして、裸で土下座、してほしいの?」

「・・・・・・してほしくないです」

「今の間はなんですか?」


 すぐ否定できなかったのは、見たいと思ったわけじゃなくて、理解が追いつかなかっただけだから。


 土下座なんてオプションがつかなければ、見せていただけるのであれば一度は見て見たい気もするようなするような?


「さて、それでは本日の席順はどうしますか?」


 どうでも良いことを考えているうちに、ディナーが用意されている貴賓室に到着してしまった。


 はぁ、またあの王子様と顔を合わせないといけないのか。気が重い。


「では、この席でよろしいですね?」

「うん?」


上野さん 俺 ミナモちゃん

    テーブル

   マサル王子?


「だから!どうして俺が真ん中なの?ミナモちゃんが真ん中で良いじゃん」

「いえ、私は護様のお隣に座りたくて」

「ミナモちゃんが真ん中に座れば、必然的に俺はキミの隣にすわるよねぇ?」

「それだとアタシが護の隣に座れないから」

「上野さんは俺の隣に座る必要ないですよね?」

「な、なんでぇ!」


 いや、なに世界の終わりみたいな表情してるんだこの人。そんなにミナモちゃんの隣に座るのが嫌なの?


「まあまあ護様。この席でよろしいではありませんか。特に不都合な点はないと思いますよ」

「ミナモちゃんが王子様の正面に座って話をしてくれないと、俺がしゃべらなくちゃいけなくなるでしょ?それに、小雪は俺のバディだから一緒にいても問題ないけど、上野さんが俺の隣に座ってたら、恋人かと勘違いされるかもしれない。そんなの嫌だよね?」


 正論を並び立てたのが効いたのか、ミナモちゃんは気まずそうに視線をそらした。


 ふふふ、これで今日は王子様の相手をしなくてもすみそうだ。


「えぇっと、あまり敵に塩を送るようなことはしたくないのですが、さすがに上野さんがかわいそうじゃないかなぁと」

「護に恋人だと勘違いされるのは嫌だって言われた護に恋人だと勘違いされるのは嫌だって言われた護に恋人だと勘違いされるのは嫌だって言われた護に恋人だと勘違いされるのは嫌だって言われた護に・・・・・・」

「こわっ!」


 何かをうわごとのようにつぶやきながら、瞳に涙を溜めて虚空を見つめている上野さん。


 ミナモちゃんはよくこの状態を『かわいそう』見てかわいそうなんて表現できたな。


手に包丁でも持たせたらスイッチの入ったヤンデレ少女にしか見えないよ。


「あの、上野さん?体調が悪いんなら帰った方があああああぁ!」


 ミナモちゃんに全力で足を踏みつけられ、思わず絶叫する。


「なにすんのミナモちゃん!」

「それはこっちのセリフです!よく死体にムチ打つようなことができましたね。上野さんのことがお嫌いだとしても、もう少し言葉を選んでください」

「え?別に上野さんのことは嫌いじゃないけど?」

「ほ、ホント?」


 なぜか急に活力を取り戻した上野さんは、期待に満ちた瞳で俺の目をのぞき込んだ。


 なんでいちいち怖いんだよこの人。


「ホントに、アタシのこと嫌いじゃない?」

「・・・・・・嫌いではないです」

「ホントにホント?」

「あんましつこいと嫌いになるかもしれません。あと、近いんで離れてください」

「わかった!しつこくしない!離れる!」


 顔はものすごく良いからあんなに近づかれると心臓に悪いんだよ。幼馴染とは言え、刀司はよく顔つき合わせて口喧嘩できるよな。


 さて、上野さんも離れてくれたところで、俺は端っこの席に腰を下ろそう―――


「護様、そこじゃないですよ?」

「あ、はい」


 がっしと肩を掴まれて、あえなく真ん中の席に座ることになってしまった。




「ところで、上野さんはテーブルマナーとかできる人?」

「???」


 いや、そんなきょとんとされても困るんだけど。


「一応相手は王族だから、気をつけないとさ」

「王族って言っても、同じ学校に通う同級生になるんでしょ?そんな相手にマナーを守って壁を作るのっておかしくない?この学院の話を聞いた時にも、日本の文化を教えてあげてって言われたし、アタシたちが変に気を遣う方が失礼だと思うよ」


 ま、眩しい!


 これがスクールカーストで頂点に君臨し続けてきた人の放つ陽のオーラか!


「ふふふ、その通りですね。私たちは地球の文化を学ぶためにやって来たのですもの。気を使われることは、逆に学びの機会を失してしまいます」


 っく!こっちも陽のオーラが・・・・・・いや、違うぞ?これはどす黒いゲスなオーラを感じる。


 絶対何か企んでる顔だ!


 何を考えてるか知らないけど、十分警戒しておこう。


「お嬢様、お客様がご到着なさいます」


 いつものメイドさんがやって来て、マサル王子の到着を告げる。


 俺たちは立ち上がって、入り口の前で並んだ。


 貴賓室のドアが開き、来客が入室して来るのだが。


「殿下、しっかりなさいませ。皆様に失礼ですぞ!」

「う、うむ。わかっている」


 昼間のように覇気が全く感じられない、年相応の少年が入室してきた。


 小雪との決闘がそうとうきいてるんだろうなぁ。


「殿下、しっかりと謝罪の言葉を」

「ミナモ姫、ナカサト卿、先ほどは失礼した。初対面の相手に求婚しただけでは飽き足らず、決闘騒動など、王族がやって良いことではなかった。本当に申し訳ない」


 深々と、マサル王子は頭を下げた。これにはさすがのミナモちゃんも驚いたようで、目を丸くしている。


 やっぱり王族が頭を下げるっていうのは、とんでもないことなんだろう。


 王族が頭を下げる意味、そんなのは知らないけど、1人の少年が頭を下げて謝罪する。その誠意は十分に伝わった。


「頭を上げてください殿下。反省していただけたのなら、こちらも水に流しますよ」

「そ、そうか。良かった」


 マサル王子は顔を上げて、安堵の笑みを浮かべる。そのまま、ミナモちゃん、俺の順番に視線を送り、上野さんに視線を向けて硬直した。


「う・・・・・・ううう」

「う?」

「美しい!これほど美しい女性を目にしたのは貴女が初めてだ!貴女の美の前では、女神すらも逃げ出すことだろう。必ずや貴女を正妃として娶ると誓う!私の妻となってくぶへえええぇ!」


 全く反省していないバカ王子は、上野さんのグーパンで吹き飛んでいった。






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