2-18





「膝枕といったら、幼馴染みの特権でしょ!」

「何をおっしゃっているんですか?幼馴染み同士でそう言った接触は体が発育する前までです。それ以降は疎遠になるか、兄弟のように性的な目を向けられ無くなるかのどちらかでは?」

「はぁ、いい加減2人とも服着た方が良いんじゃない?風邪ひくよ?」

「えっと、小雪もいい加減俺の顔から手を放してね?」


 ぎゃあぎゃあ騒いでる上野さんとミナモちゃん。それを見ながらやれやれ言ってる小雪。そして、小雪に膝枕してもらいながら、その実、体重を乗せたアイアンクローをくらっている俺。


 なにこの混沌!


 視覚情報が完全に塞がれてしまった俺には、聴覚を頼りにするしかないのに、何一つ肝心な情報が入って来ないよ。


 2人はいまどんな格好してるの?それだけ教えて欲しいけど、さすがにそうは言えないよね。


「小雪さん?ホントにそろそろ手、放してくんない?痛いし、何も見えないんですけど」

「いや、見えないように押さえてるんだから、何も見えないのは当然じゃない?」

「う、うん。そうだよね。でもさ、そろそろ放してくれても良いんじゃない?せっかくの膝枕なのに、小雪の太ももの感触よりも、アイアンクローの手の感触しか堪能できてないんだよ」

「そ、そうなの?で、でも放すと、見ちゃいけないものが見えちゃいそうだし」


 いや、もじもじした感じで俺の顔面をこね回すの止めてくれ!うどんじゃないんだよ俺の顔は~!


「よし、それじゃあこっち向きなら良いよ?」

「ぐへ」


 ゴキリッと嫌な音を立てながら、俺の頭は急速に方向転換された。


 最後に強力なダメージを受けたけど、やっとアイアンクローからは解放されたよ。


 長時間押さえつけられていたせいでぼんやりとしていた視界が、徐々に回復してくると、何かがこっちに向かってくるのが見えた。


「ちょっとちょっとちょっと~!なんでボクだけ縛られてるんだよ~!」

「こんないかがわしいこと提案しておいて、お咎めなしなわけないでしょう。はぁ、粕川くんはとっとと逃げてしまったようですから、その分甘楽さんにみっちりお仕置きですね」


 ずるずると、魔法の鎖で簀巻きの状態になった甘楽さんが引きずられてやって来る。


 ぷりぷり怒りながら鎖を手にしているのは、我らが大間々先生。片手で甘楽さんを引きずってくるんだから、さすがのステータスだよね。


「なんでなんでなんで~。そもそもこういう遊びが流行ってるって言ったのはマモルくんなんだよぉ~!」

「そうなんですか?中里くん」


 とんでもないキラーパスを投げられた俺は、全身が硬直した。毎回思うんだけど、どうして大間々先生は笑いながら殺気を飛ばすことができるんだろう。


 大間々先生から回復魔法をかけて欲しかったのに、このままだと氷結魔法でもぶっ放されそうだ。


「俺は全力で止めましたよ!何度も、何度も言ったんです!でも粕川先生と甘楽さんは聞く耳を持ってくれなくて―――」

「でも、一番多く女の子を裸にしてたのは護くんだったよね?」

「こ、小雪さ~ん。それは今、あんまり関係ないんじゃないかな~?」


 そんなこと言うから、大間々先生の素敵なお目々がめっちゃ鋭くなってんじゃん!


「ち、違うんですよ先生!俺だってこんな戦いしたくなかったんです。でも、ラフィさんたちに包囲されたから仕方なく応戦しただけで」

「そうですか、つまり正当防衛で、邪な気持ちはなかったと?」

「はい!」

「じゃあ、そのショートソードの柄に引っかかってるモノはなんですか?」

「柄?」


 本当になんのことか心当たりがない。俺のショートソードに何が引っかかってるというのだろうか?


「うげ!」


 え?なにこれなにこれ!な、ななな、なんで俺のショートソードに純白のブラジャー?


「それ、わたしがつけていた肌着です」


 体の後ろからそんな声が聞こえてくる。この声、聞き覚えがあるような。


 大きさ的に、青髪さんや金髪さんのモノではないと断言できる。と言うことはこれ、赤髪さんのブラジャーか!


 でも、どうしてこんなところに赤髪さんのブラジャー?


「そういえば、赤髪さんにカウンターを使った時に、なんか引っかかる感触があったような」


 つまり俺、赤髪さんを倒してからずっと剣にブラジャーを引っかけて戦ってたってこと?


 半裸の男子高校生が、盾とブラジャーで飾り付けたショートソードを持って女の子と戦っていたってことだよね。


 もうただの犯罪者じゃないかな?


 こんなん、良いわけのしようがないわ。


「えっと、小雪。これ、赤髪さんに返してあげて」

「・・・・・・」


 無言で持っていくの止めて!まじで怖いから。


「さて、中里くん?言い訳を聞きましょうか?」

「俺はただ、包囲されたから仕方なく戦っただけです!」

「仕方なく戦った、じゃないですよ!女の子のブラジャー持ったまま戦う人がどこにいるんですかこのおバカー!」


 はい、おっしゃる通りです。


「そうだそうだそうだ!レクリエーションが始まる前にぃ、マモルくんが『目指すは完全勝利だ~!』って、他の男子を煽ってたよ~!」

「ちょ!甘楽さん何言ってるんだよ」

「つまりつまりつまり~、女子全員裸にしようぜって言ってたんだよ~」


 あ~、まぁ、そうですね。そういうふうに解釈することもできるかもしれませんね。


「ねえ、護くん?それってどういうことなのかな?」

「ゆっくりと聞かせていただく必要がありそうですね」


 結局この後、俺も魔法の鎖で簀巻きにされて地面に転がされることになった。


 なぜか顔まで覆われて。




「さて、これで大方治療は済みましたかね」


 しばらくして、大間々先生たちが戻って来て無事?に魔法の鎖は解除された。


 黒炎はおさまっているものの、訓練場は巨大なクレーターだらけだ。


 辛うじて被害を免れた場所に、意識を失った生徒たちが男女別で寝かされている。もちろん、体の上にはしっかりと毛布が掛けられていたよ。


「なっはっはっは。随分威力が上がったじゃねえか、小雪」

「いや~、あの時は我を忘れて世界を滅亡させようとしちゃいましたからねぇ」


 たしかに、あの攻撃が降ってきた時はこの世の終わりかと思ったよ。


「ほう。地球をぶっ壊すつもりだったんなら、まだまだ威力が足んねえな。一撃で地球がぶっ壊せるように、また明日からみっちり鍛えてやるぞお!」


 そんな火力、人類に必要ないんですが?その口ぶりだと、アンタ地球をぶっ壊せるのか?


 大間々先生と東さんは、小雪が魔法を詠唱し始めたタイミングで訓練場にやって来たようで、障壁魔法?とかいうので俺たち以外の生徒を守ってくれたらしい。


 ただ、小雪の魔法の威力が強すぎて、完全には防ぎりれなかったらしく、みんな意識と体操服を失ってしまったらしい。


 ちなみに上野さんとミナモちゃんは、体操服を失いながらも自力でしのぎ切ったらしい。化け物かよ。


 というわけで、せっかくのレクリエーションではあったが、意識があるのは俺と小雪、上野さん、ミナモちゃん、そして、俺がどうにか守り切った信号機3人娘だけだ。


 その3人娘が今、なぜか俺の前で正座して座っている。


「「「何番目でも構わないので、どうかもらってください」」」


 きれいに三つ指をついて、3人娘は同時に頭を下げた。


 それはまるで、少女が結婚の報告をするかのような―――


「待って待って!もらうってなに?なにをもらえばいいの?」

「それはぁ」

「もちろん!」

「あたしたちを嫁にもらえって言ってるのよ。その、ちょっととはいえ、は、裸を見られたわけだし」

「意味が解らないんですが!」


 やっぱり異世界の常識、日本の非常識っていうのはよくある話なんだろうか?


「私が正妻であるなら、かまいませんよ?」


 なんて言い出した従兄妹の頭は全力で引っ叩いた。






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