2-17





「うおおおおおおおぉ!」


 純白の光は、漆黒の炎に押し潰される。あと、俺の体も少しずつ地面に埋まってきた。


 必死に踏ん張るけど、威力を殺すことができない。このままだと、後ろの信号機3人娘と一緒にぺっちゃんこだ。


「ぺっちゃんこは青髪さんだけか」


 そんな俺の軽口を拾う余裕もないようで、3人娘は声もあげない。もしかしたら気絶しちゃったか?


いや、確認のために後ろを振り向きたい気持ちもあるんだけど、半裸の美少女3人組の姿なんか見たら、その瞬間に集中切れていっきに押し負ける。


 まだ集中できているうちに、どうにか現状を切り抜ける方法を考えないと。


「周りは、まさに地獄絵図、か」


 訓練場の地面は巨大なクレーターがあちこちできあがり、そこから黒炎が噴き出している。


 先ほどまで目の前にいた少女たち、そしてラフィさんの姿は跡形もなくなっていた。これ、やっちゃった?やっちゃったのか?


 特にうずくまってた女の子の中には、ダメージを肩代わりしてくれる体操服がなくなっていた子もけっこういたから、この威力の直撃を受けてたら・・・・・・


「考えても仕方ない。集中だ・・・・・・集中して、跳ね返す!」


 盾を握る左手に、ぐっと力を込める。それに応えるように、ひかりの盾も輝きを増していく。


 目標は、誰もいないところ。


 間違っても小雪に打ち返したり、他の人がいそうな場所はダメ。


「あそこか」


確実にレクリエーションに参加した生徒がいなくて、あわよくばこの状況を作りだしたカスに一撃入れられる場所。


観客席!


俺は観客席の中でも、一際安全面に配慮され、立派に作られているブースに向かって足を踏み出す。


 あのVIPルームで、ワイン片手に笑いながら観戦しているであろう粕川先生の顔を思い浮かべて、渾身の力で叫ぶ。


「リフレクタアアアアアァ!」


 ひかりの盾はさらに輝きを増し、凶星を吹き飛ばす。速度を増して飛んで行く石塊は、しかしVIP席にたどり着く前にはじけ飛んでしまった。


 粕川先生か、もしかしたら東さんの仕業かもしれない。あのヘラヘラした顔面に1発ぶち込んでやりたかったのに、残念だ。


「これで終わったぁ・・・・・・おわ!」


 全力を尽くし、立っているのも辛くなった俺の体は、そのまま後ろに倒れそうになったのだが、その途中で後頭部に柔らかな温もりが当たる。もたれかかるようにその柔らかさに埋まっていくと、いやに甘ったるい香りが鼻腔に届く。


「あ、あのぉ。ま、守ってもらってありがとうございますぅ。お体、だ、大丈夫ですかぁ?」

「えっと、金髪さん?」

「あ、アイシェア・アイリ-・ラムスタンですぅ」


 そう言って、アイシェアさんは微笑みながら俺の顔をのぞき込んできた。しかも、異様に距離が近い。


 いや、うん。もうわかってるんだ。俺の後頭部がどこに乗っかってるかなんて。


 ああ、ここは天国で、きっとこの子は天使様なんだ。願わくば、ずっとこうしていたいです!


「ねえ護君、どういうこと?」

「あ・・・・・・」


 天国から、一気に地獄へと引き戻される。


 この地獄を作りだした、大魔王様が顕現した。


 上空からゆっくりと下りてきた小雪は、ゆっくりとした足取りでこちらに向かってくる。これは今すぐにでも逃げ出さなければと思うんだけど、全身に力が入らないし、何より後頭部の感触を失いたくない。


 なぜかアイシェアさんが小刻みに震えだしたので、それに合わせて後頭部の感触も気持ち良く変化しているし。


「ねえ、護君、言ったよね?エッチなことはしないって」

「ひぃ!」


 表情が完全に消え去り、瞳のハイライトさえ失った小雪の瞳は、まるで深淵を表しているかのようだ。


 その瞳が、じっと俺の瞳をのぞき込む。


「おかしいなぁ護君は別に女の子の裸が見たいわけじゃないって言ってたのにこの状況はなんなんだろうね裸の異世界美少女3人組に抱きつかれて鼻の下伸ばして挙げ句の果てには巨乳の女の子におっぱい枕までしてもらってるしこれでエロいことしてないって言われても信じられるわけないよねそれとも私がおかしいのかなこんなの別にエッチなことじゃなくて高校生同士ならこれくらいのことは普通にやってることだっていうのかな・・・・・・」

「す、ストーップ!こ、小雪さん、落ち着いてください」

「私は全然落ち着いてるよ?ただ護君の考えるエッチなことと私の考えるエッチなことの基準が違うみたいだからそこをもう少し教えて欲しかっただけだよだってこれが終わったら普通の交流会もしようって言ってくれたもんねそれに護君の相棒として参加するんだからエッチなことの基準をすり合わせておかないといけないかなと思っただけなんだけどもしかして私何か間違ってるのかな・・・・・・」

「ご、ごめん小雪。大丈夫、小雪は何も間違ったことはしてないから、ちょっと話し合いをしましょう!」

「・・・・・・」


 無言でこちらの瞳をのぞき込んでくる深淵の瞳。そんな瞳に見つめられ続けているせいか、全身から冷や汗が噴き出している。


いや、もしかしたら俺を支えてくれているアイシェアさんの汗かもしれない。それはそれで悪くないような―――


「私、真面目な話をしてるんだよ?」

「ひぃ!ご、ごめん、ちゃんと聞いてる!聞いてるから、小雪も1回深呼吸して落ち着いて」

「・・・・・・すうぅ・・・はあぁ・・・それで、護君はいつまでそうしてるわけ?」

「はい!申し訳ありません!」


 本当に命の危機を感じると、体って動くもんなんだなぁ。先ほどまで全く力の入らなかった俺の体は、アイシェアさんから離れて土下座を決めた。


「あれ?護君はなにか、土下座をしなきゃいけないことでもしたの?」

「うぅ、小雪さん、本当にもう勘弁してよ。諸悪の根源は粕川先生と甘楽さんなんだから」

「ふふ、はいはい。でも、女の子にエッチなことしたのは事実なんだから、しっかり反省してよね」

「わかりました!って、いてててて。体バッキバキなの忘れてた」


 そこで本当の限界がきたのか、俺は地面に横になって悶え苦しむことしかできなくなった。


「はぁ、まったくしょうがないな。私の相棒は」


 そう言って俺の隣に正座で腰を下ろした小雪は、俺の頭を持ち上げて、そっと小雪の膝の上に乗せてくれた。


 さっきの弾力ほどの柔らかさはないけれど、こっちの方が落ち着くなぁ。


「もうすぐ大間々先生がきてくれるから、もう少しガマンしてね」

「小雪に膝枕してもらうのって、初めてだね」

「まあ、こんなことするのが初めてだし。ギャルゲー主人公の護君は、女の子の膝枕はなれっこなのかなぁ?」

「なんだよギャルゲー主人公って。俺なんかモブキャラでも言い過ぎなくらいだよ。せいぜいアニメで声優も割り当てられてない背景キャラさ」

「私の相棒が背景キャラ?それはなんか嫌だなぁ」

「ハーレム鈍感クソ野郎よりましでしょ?」

「え?自分のこと言ってるの?」

「いや、俺はハーレムなんて持ってないし、鈍感でもないから!」


 そんな俺のセリフを聞きながら、小雪は半笑いしている。


 いやいや、俺って別に持てないし、けっこう相手の感情を読み取るの得意なんだよ?


「「あああああ!」」


 そんなことを考えていると、小雪の後ろから元気な声が聞こえてくる。どうやら上野さんとミナモちゃんは無事だったようだ。


「ちょっと月夜野さん!なんで護に膝枕なんて!」

「ずるいです!私に代わってください!」

「ちょっと2人とも!そんな格好でこっち来ないでよ!」


 え?そんな格好って、ど、どんな格好ですか?私、気になります!


 むくりと身体を起こそうとしたところ、小雪に全力で顔面を押さえつけられたため、何も見えなくなってしまった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る