2-16





「これが、『ハダカノツキアイ』ですか。貴族家の令嬢をこれほど辱めるとは、なんとも恐ろしい文化です。普通であれば首が飛ぶか、責任をとって全員娶ってもらわねばならなくなりますよ」

「いや、日本では一夫一妻だから、法律的には誰か1人としか結婚できないよ」


 ラフィさんの物騒な発言に、俺は慌てて否定する。


仮に国が許したとしても、こんな大人数の奥さんを娶るなんて、普通に考えてあり得ない。


 ハーレム系ラノベの主人公だって、もうちょっと人数は自重するだろう。


「マモル様はフォルティア王国公爵家の嫡男。側室の10人や20人、普通のことではありませんか?歴代の国王の中には、100人を超える妃を娶った方もいらっしゃいますもの」

「ただの種馬じゃん!」


 俺の仕事は子作りです!なんて、中学の頃の同級生には絶対言えないヤツじゃんか。


 まあ、家を絶やさないために多くの妻を娶るなんて話はよく聞くけども、それはあくまでフィクションの話。


 日本の倫理観に染まった俺としては、到底許容できない。そもそも、どんだけ稼げば20人の奥さんと生まれてくる子どもたちを養えるってんだよ。


 普通の一般家庭には到底無理。共働きならあるいは?


「いやいやいやいや!俺は普通をこよなく愛する庶民なんだ。奥さんは1人いれば十分だから!」

「マモル様のお立場で庶民などと。たしかに、マモル様の父君の叙爵は、王国の歴史をたどっても異例でした。それ故ナカサト公爵の叙爵を快く思わない貴族もおりますが、正妃であるミズキ様の兄君様ですもの。王国貴族であれば、誰も反対などできませんわ」


 水姫さん、誰も反対できないって、よっぽど怖がられ・・・・・・影響力が強いんだな。


「それともマモル様は、女性がお嫌いなのですか?」

「いや、嫌いじゃないけど」


 さすがに、これだけ半裸やら全裸の女の子がいる前で、女の子が大好きです!なんて口が裂けても言えないよ。


「そうですか。では、これは喜んでいただけますか?」

「えいっ!」

「いやああぁ!」

「っとう!」


 ラフィさんが微笑んだ直後、背後から声が上がる。


 約1名悲鳴をあげていたように思ったが、すぐにその理由はわかった。俺の両腕と、背中に突如として重さが加わる。


 俺の右腕を青髪さんが、左腕を赤髪さんが、そして背後から抱きついてきたのは金髪さんだろう。


 右腕はかなりの威力で締め上げられており、かなり痛い。下手に動かそうと思えば、腕がへし折られる可能性がある。


 それに対して、左腕には柔らかな温もりが!青髪さん以上、金髪さん未満とは言え、なかなかな豊かさ。


その間に腕が挟まれてしまえば、締め付けられていると言うよりは挟んでいただいていると表現した方が良いだろう。


これだけのご褒美であれば、さすがのひかりの盾さんでも反射することはできなかった。


 そして―――


「ふううぅ。はずかしぃよぉ!」


 背中にダイレクトで伝わってくる金髪さんの巨大な温もり!この温もりを言葉で表現するのは無粋だ。


 こ、これはダメだ。人をダメにするクッション以上に人をダメにする。このままこの柔らかさに溺れてしまいたい俺がいる。


 よりにもよって一番の大きさを持つ金髪さんが俺との密着率が一番高いんだもん。


「せめて青髪さんが背中に回ってくれていれば!」

「ねえ、その青髪さんってあたしのこと?な、なんであたしが背中に回って欲しかったの?」


 やべ!つい言葉に出してしまった。そ、そんな期待を込めた目を向けないでくれ。


「青髪さんだったら胸がないから変な気持ちにならなかったなんて絶対言えない!」

「へぇ、あたしだったら胸がないから・・・・・・へぇ」


 またやっちまった!そう思ったときにはすでに遅かった。


急に表情が消えた青髪さんは、締め付けていた腕を一度緩めた後、肘の関節をきめる。


「いっだだだだだ!ちょ、ちょおおおおお!ご、ごめんなさい!く、口が滑りましたああああああぁ!」

「どうせあたしは2人より胸が小さいわよ!そ、それでも、あたしだって少しはあるんだから」

「は、はいいいいぃ!つ、慎ましい中にもほんのりと柔らかさがございますううううぅ!」


 いや、たしかにぺったんこではないです。お互い半裸なので、その柔らかさは身にしみてわかりますけど、そんなの度外視にするくらい関節を決められた右腕が痛いいいいぃ!


「じゃあ、あたしの胸の柔らかさを堪能させてあげるわ♡」

「やめてええええぇ!あ、青髪さん!う、腕はそっちには曲がらないからああああぁ!」

「さあミラフィリーナ様!止めをさしてください!」

「ふふふ。ありがとうございます、ミィティリアさん。マモル様も女の子が好きなようで安心いたしました。それでは、これで終わりにさせていただきます」


 微笑みながら、ラフィさんは漆黒の大鎌をヒュンヒュンと振り回す。


 いまさらながら、アレってどう見ても訓練用の武器じゃないよね?


装備も盾もなしに、あんなの振り下ろされたら、ハーフパンツじゃなくて内臓がはじけ飛んじゃいそうなんだけど、誰か止めてくれないですか!


「では、御覚悟を。運が良ければまたお会いしましょう」


 やっぱ俺にとどめさそうとしてんじゃねえか!だ、誰か助けてくださああああああぁい!


「へ?」


 こちらに突っ込んでこようとしていたラフィさんは、不意に上空を見上げると、動きを止めた。


 つられたように、俺と青髪さんもラフィさんの視線を追った。追ってしまった。


 そこには、漆黒に焼かれる巨大な石塊が大量に浮かび上がっていた。


 まるで、合図一つで今からでも落下しますと言わんばかりに。


「な、なんですか、これは。こ、こんな魔法、見たことない」


 顔を青くしたラフィさんは、驚きのあまり手にしていた大鎌を手放し、両手で口元を覆っていた。


「漆黒の業火を纏いし凶星よ。汚れた地上に終焉を告げよ!終焉の凶星群!」


 鈴を転がしたように、凜とした声が告げる。


それはまさに、この世の終わりを告げるがごとく。


 轟々と燃えさかる石塊の集団は、重力に引き寄せられるように高速で落下する。


「こ、これ本気でやばいって!ちょっと小雪さん!何やってんのこれ!こんなの落っこちたら死人が出るって!」


 叫ぶが、燃えさかる石塊は速度を弱めることはなく。


小雪の姿は視認できない。


「ちょっと赤髪さん。俺の腕を放して!さすがに直撃はまずい!青髪さんも、俺の後ろに!」

「う、うん」

「わかったわ。は、放すから、こっちを見ないでね?」

「へいへい」


 さすがにそんなことに気を回してる余裕はない。今は命の危機なんだぞ。エロいことを考えている場合では・・・・・・


「ご、ごめん金髪さん。集中できないから離れてもらって良いかな」

「は、はぃ。そのぉ、振り向かないでくださぃね」

「・・・・・・おう」

「ちょっと!あたしと反応が違いすぎない?」

「違わない!ほら、早くして!」


 すっと背中から温もりと極上の柔らかさが遠ざかっていく。何か大事なものがなくなってしまったような・・・・・・いや、今はおいておこう。


「あ、あの、マモル様。私もよろしいでしょうか?」


 ラフィさんが走りながら尋ねてくるけど、おそらくその速度では間に合わないだろう。


 まあ、運が良ければまた会えるさ。


「ひかりの盾!」


 左腕を天に掲げ、その名を呼ぶ。俺の声を聞いたひかりの盾は、純白の光を放って俺たちを包み込む。


 これほど強力な輝きを目にしたのは初めてだ。


 しかし、空から降り注ぐ漆黒の凶星は、純白の光に躊躇なく突っ込んでくる。


 くっそ重い!今までは魔法も物理も全てオートで跳ね返してくれていたのに、この攻撃は跳ね返らない。


 跳ね返って小雪に直撃したらそれはそれで困るけども。


 さて、この状況、どうにか生き残れるように気合いを入れようか。


 これを防いで終わり、なら良いけどなぁ。





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