2-14
「うおおおおおおおぉ!」
片や白く光り輝く拳を握りしめ。
「はあああああああぁ!」
片や紅蓮に燃える長剣を振りかぶり。
「「やああああああぁ!」」
バーサーカーと死神は激突した。
2人から放たれる強力なエネルギーによって、周囲には暴風が吹き荒れ、設置されていた土壁や氷の壁はその悉くが崩れ去っていった。
いやいやいや。なにこの終末決戦!逃げようと思っていたけど、無事に生き残れるのかも疑問になってきた。
「ただの幼馴染みのくせに、なかなかやりますね」
「ふん!ぽっと出の従兄妹は、こんなもんなの?あぁ、将来はひかりお義姉さんって呼ばせてあげるよ」
「ふふ、嫁ポジをアピールしてる幼馴染みこそ、最弱の負けヒロインだと聞きました。それこそぽっと出の誰かにかっさらわれていく引き立て役だと」
「べ、別にまだお、お嫁さんじゃないし!そ、そんなアピールなんて、し、しし、してないんだから!」
「あらあら、お可愛らしい。隙ありです!」
「っつう!」
会話はよく聞き取れないけど、なぜか戦闘中に両腕をパタパタと振り始めた上野さんに対し、ミナモちゃんが一瞬で距離を詰めて一閃。
上野さんも対応しようと両腕をガードに回したが、ミナモちゃんはガードの下、胴を薙ぎ払う。
体が吹き飛ばされることはなかったが、木剣に薙ぎ払われた胴の部分は体操服がはじけ飛んでいた。
「・・・・・・」
な、なんか、昔はなんとも思わなかったけど、知り合いのおへそが見えただけで、もの凄く動揺しちゃう。
知り合いだからこそ、面と向かって見てしまうと、すっげー恥ずかしい。
「今度はこっちの番だあああああああああぁ!」
おへそが丸出しなのは気にも留めず、上野さんは再び拳を握りしめて突貫する。
「っく!グレートボアみたいな人ですね!」
1発、2発と次々叩き込まれる拳を、ミナモちゃんは木剣で受け流していくが、徐々に速度と威力が増していくラッシュに、対応が遅れていく。
そして、ミナモちゃんの体操服は腕の袖口から徐々に削れていき、今ではノースリーブみたいになっちゃってる!
「うらあぁ!」
「っきゃ!」
ミナモちゃんのガードを越えて、上野さんの拳がミナモちゃんの左肩に直撃する。それによって状態を崩したミナモちゃんは、さらに鳩尾に強烈な一撃をもらう。
「・・・・・・ごくり」
そのせいでミナモちゃんの体操服の大半が吹き飛び、服の下に隠されていたオレンジ色の下着がこんにちは。
しかもあれ、服がはじけ飛んだ衝撃で肩紐がボロボロになってる。これでは、いつポロリといってしまうかわからない。どうみても、アレの重量は上野さんや小雪以上なんだぞ!
「護?ちょっと見過ぎじゃない?」
「み、みみ、見てないですけど?」
上野さんに睨み付けられて、俺はそっと視線を外す。いや、顔を背けても視線を外すことはできなかったけども。
「ふぅ。別に、私は護様になら見られても構いませんよ?その代わり、しっかりと責任はとっていただきますが」
と言われたので、俺は回れ右して背を向けることにした。
できればこのかぶりつきの席でいつまでもキャットファイトを眺めていたかったが、ヘイトがこちらに向いてしまっては、ここも観客席ではなくなってしまう。
「裸見られたくらいで責任とらせるとか、ちょっと重すぎるんじゃないの?アタシなんか、護と一緒に毎日お風呂入ってるし、別に裸くらい、見られたって平気だよ!」
「毎日お風呂に!」
「ちょおおおおおおおぉ!現在進行形みたいな言い方やめええええええええぇ!」
昔だって別に毎日一緒に入っていたわけではない!本当に極々たまに一緒に入ったことがあるってだけだ。
「だいたいあんたらは従兄妹なんだから、本当の兄妹みたいなもんでしょ?その点、アタシと護は赤の他人なんだから」
「え、あ、はい。俺と上野さんは赤の他人で、な、なんの関係もありません、ね」
「あ、え?ちょっと待って護!い、今のはそういう意味で言ったんじゃないんだよ?」
やべえ。ちょっと仲の良い幼馴染み、くらいに思ってたのに、上野さんからしたら赤の他人だったのか。
気安く話しかけなくて良かったぜ。
「すいません上野さん。今後は気軽に話しかけたりいたしませんので、お許しください」
「ち、違うんだよ護!アタシは、も、もっと護に話しかけて欲しいし、一緒に遊びに行きたいし、もっともっと一緒にいたいんだから!」
「隙あり!」
「っきゃああ!」
激しい衝撃音と共に、上野さんの悲鳴が聞こえた。背を向けている俺には何が起こったのか想像するしかできないのだが、もしかすると、背後では上野さんがあられもない姿になっている可能性も・・・・・・
「はああああぁ!」
「うわぁ!」
上野さんには赤の他人と言われたし、ちらっとなら覗いてもいいかなぁと背後を伺おうとした瞬間に、正面から何かが振り下ろされた。
それをバックステップで緊急回避。
躊躇なく覗いていたら今の一撃で死んでいたかもしれん。
「さすがは彼の大英雄、ミズキ王妃様のご親族。完全に不意をついたつもりでしたが、あれを躱しますか」
声の方に視線を向ける。
そこには漆黒の大鎌を担いだ、真紅の瞳と金髪を持つ美少女が微笑んでいた。
さっきのミナモちゃんに比べて、鎌を持っているから余計に死神っぽい。
この子、ミナモちゃんが土下座してるのを目撃したご令嬢。名前はたしか・・・・・・
「ラフィさん!」
「憶えていただけて光栄です。では、参ります。『斬撃!』」
きれいなお辞儀を披露した直後、流れるように大鎌の柄を握りしめたラフィさんは、それを上段から振り下ろした。
「ひかりの盾!」
「っくぁ。す、すごい!スキルを使用した斬撃をこうもあっさりと弾き返すとは」
いや、そんな尊敬の眼差しを向けられましても。これは俺がすごいんじゃなくて、盾がすごいだけなんだよぉ。
「ラフィさんはどうしてここへ?他にも男子はいるはずだけど」
「この戦いは大将を討ち取れば勝ちだと聞きました。でしたら、大将の元に人が集まるのは当然ではありませんか。ねえ、皆さん?」
その声にあわせるように、ラフィさんの背後からぞろぞろと女の子が姿を現す。その数8人。全員が美少女といって遜色ないんだから、貴族ってのは恐ろしい。
「って、他の男子はどうしたの?」
俺の目の前にはラフィさんを含めて9人。背後の2人を含めると11人?
上空で待機してる小雪と、おそらく刀司と戦っているであろう甘楽さんを除く全員がここに集結したことになる。
「マモル様。よほどの実力差がなければ、この人数差を覆すことは無理だと思いませんか?」
「あ~、つまり、9対1で戦って、圧勝しちゃったと?」
「ふふふ。初手で半数以上が脱落しましたから。我々は何をせずとも勝つことができたでしょう。まあ、あの粕川という教育者が姫様をそそのかしたせいで、このようなことになっているわけですが」
そそのかしたってのは、俺を倒した人が『中里護を1日自由にできる権利』を得られるとかいう、わけのわからない商品のことだろう。
だからこそ、大将であるミナモちゃんがこんなところまでやって来たわけだ。それを阻止するために戦ってくれている上野さんには感謝しかない。赤の他人の俺なんかのために。
「さて、フォルティア王家を守護する貴族家として、これ以上姫様の玉体を晒すわけにはまいりません。マモル様を討ち取り、この催しを終わらせていただきます!」
半円状に布陣した美少女軍団は、ガチャガチャと音をならしながら各々の武器を俺に向けて構えた。
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