2-13
「ホーリーアロー」
「ライトニングバレッド」
「アクアウェーブ」
次々と飛来する攻撃魔法の数々。
その全てを、悉く反射させるのは、スキルで出現させた「ひかりの盾」だ。
大将である俺は、この盾を持って最前列を駆けている。
この魔法を反射できるのは俺しかいないし、もうこっちの人数は5人しかいないので、下手に守られるよりも自分の動きやすいように動いた方が戦いやすい。
何より、小難しい作戦とか、相手の出方を考えるとか、そういう煩わしいのはなしにして、筋力で押し切った方が簡単だと思ったからね。
「みんな、こっから先は自由に動け!そして、1人でも多くはだか・・・・・・討ち取るんだ!」
「おうよ!つっても、誰の相手をすりゃいいんだ?」
「藤岡、お前は甘楽の相手をしろ。僕はひかりの相手をする!」
「お?俺がマコトの相手すんのか?あいつ小賢しいからサシでやるのは苦手なんだよなぁ」
「訓練になると思えば良いだろう?」
「それもそっか。んじゃ行ってくるぜ!」
どう考えても久賀くんが上野さんの相手をしたかったから、面倒な相手を押し付けただけだよね?
そうとも知らずに、刀司は俺の後ろから飛び出して、先ほど甘楽さんが顔を覗かせていた土壁に単騎で突貫する。
「さあ、大将からの許可も下りた。2人も目当ての令嬢のところへ行くと良い」
「「おお!」」
そういう許可を出したつもりはないんだけど、まあ良いか。
名も知らぬ同級生たちは、意気揚々と武器を構えてそれぞれ別の方向に突撃していった。きっとその先に、彼らのお目当てのご令嬢がいるのだろう。
「中里、キミはどうする」
「俺は・・・・・・」
「僕は、ひかりの裸が見たい!しかし、他の男には見せたくない!だから、キミがひかりに興味がないのなら、できるだけ離れたところで戦って欲しい!」
上野さんの裸か。小さい頃はよくみんなでお風呂とか入ったけど、それからかなりの年月が経っているわけで。あっちこっち成長しているんだよな。
べ、別にど、どどどど、どうしても見たいわけじゃない。ただ見れたらラッキーくらいな気持ちだ。
久賀くんの、どうしても見たいという強い気持ちには到底及ばないだろう。
だったらここは久賀くんに譲って、もし上野さんに勝つことができたのなら、遠目でほんのちょこっとだけ、見させてもらおう。
「わかったよ、久賀くん。ギリ上野さんの裸が見えそうな程度に離れて戦うことにする」
「ふ。正直なヤツだ」
俺たちはお互いに笑い合って、拳と拳を軽くぶつけ合い、お互いに別の方向へと走り出した。
あれ?そう言えば、久賀くんって上野さんを倒せるくらい強いんだろうか?
回復魔法に適性があるとは言え、あの人はその拳で全てを粉砕すると恐れられていたまさにバーサーカー。
大量のお菓子を食べるまでひたすらに暴れ続ける破壊の化身だ。
まあ、久賀くんも早期入学して訓練積んできたんだから、破壊の化身討伐くらいできる―――
「ぶぎゃあああああああああああああぁ!」
ズドンという酷く鈍い音と同時に、情けない悲鳴が響き渡った。
うん、わかってたけどね?
高速で俺の背後にあった氷の壁に吹き飛ばされた久賀くんは、悲しいかな、パンツ一丁の姿で気を失っていた。
良かったぁ、全裸と言っていたけど、パンツは残るんだな。なんて考えていると、おそらく久賀くんをこの姿にした張本人であろう少女が姿を現す。
黒髪をなびかせながら、不適な笑みを浮かべた少女は、一歩、また一歩とこちらに近づいてくる。
全身が白い光に包まれており、その姿はまるで、地上に舞い降りた天使のように見えなくもないのだが、表情だけは別だった。
アイドルも顔負けな美貌を台無しにするほどに恐ろしい。地獄の鬼が死者をいたぶり愉悦の表情を浮かべているかのようだ。
「見つけたよぉ、護ぅ~」
ケタケタと笑う、という表現をリアルで用いることができるとは思ってもいなかった。背中にどっと汗が噴き出す。
あ、ああ、あれはダメです。まさにアレは子どもの頃、同級生はおろか、高学年の男子さえも蹂躙していた暴力の権化そのものです。
今はステータスやスキルによって、さらにその力が底上げされているんだから、余計に恐ろしい。
「ねぇ、護ぅ。護を倒すとぉ、1日護を好きにできる権利、もらえるんだってぇ。だからねぇ、アタシが倒して、良いよねぇ?」
やばいやばいやばい!目もやばいけどその思考がもっとやばい!
俺を1日好きにする?そんなことになれば、全身バラバラにされて死んでしまうわ!
どうする?逃げるか?
いや、上野さんから逃げたとしても、周りには敵ばかり。だったらここで、確実に仕留めた方が良い。
「あれぇ?うっふふふ、護はぁ、アタシと戦うつもりなのぉ?良いよぉ、久しぶりに思いっきり戦おっかぁ」
「・・・・・・」
あまりの怖さに、膝が震える。美人に成長を遂げた分、あの頃よりも圧が半端ない。
「はああああああああぁ!」
吠えながら突っ込んでくるとか、美少女として大丈夫なのか。そんな疑問を浮かべながら、ひかりの盾を構えて迎え撃つ。
「おりゃあああああぁ!」
目の前に盾があるというのに、上野さんはためらうことなくその拳を叩きつける。
「うっそ」
盾を構えた左腕に衝撃が走る。その威力に、ひかりの盾は腕ごと弾かれがら空きの上半身を晒してしまう。
「ふふふ、もらったぁ」
上野さんはその隙を見逃すことなく、がら空きになったボディに追撃を放つ。
「ば、バックステップ!」
「っち!」
躊躇なく鳩尾狙ってきたなぁ。もらってたら確実に今の一撃でやられていた。しかし、ギリギリで躱したせいか、体操服に裂け目が入ってしまった。ちょっと恥ずかしいな、この格好。
だけど、どうして今の攻撃を反射できなかったんだ?
物理魔法問わずに攻撃を反射してくれていた。さっきの魔法の雨霰すらも弾き返していたってのに。
「まさか、上野さんには効果がないの?」
このスキルは、そもそも上野さんが俺に祝福を贈ってくれたから生まれたものだ。上野さんの一部と言っても良いかもしれない。
だから、この盾の効果を受けない。
「だったら仕様書にそう書いとけよ、ばかあああああぁ!」
ムリムリムリムリ!
チート装備のこの盾があったから今まで戦えていたわけで、その効果が通じなければ、俺は凡人。
あんなバーサーカーを討伐することなんて不可能だ。
誰かに助けを求めるか?
それも無理だ。ただでさえ人数差を強いられて戦っている戦場に、こんな化け物と一緒に飛び込むわけにはいかない。
「とりました!」
「ぶわああぁ!」
背後から声が聞こえたのと同時、空気を切り裂く音が耳に届き、慌てて前に転がる。
「残念です。もう少しで倒せたのに」
立ち上がりながら振り返ると、ロングソードを手にした小柄な少女が微笑んでいた。
黄金に輝く瞳は、命を刈り取る死神の如く。
「み、ミナモちゃん?」
「はい。あなたの妻のミナモです」
「ただの従兄妹だから!」
「ふふふ。今から護様を討ち取って、護様を1日自由にできる権利を勝ち取ります。そうなれば、既成事実なんて作りたい放題!これで、私と結婚せざるをえなくなりますね?」
とんでもなく恐ろしいことを言いながら微笑むな!って、この状態はまずい!
前門のバーサーカー、後門の死神だ。どっちに行っても安全な場所なんかない。
「ちょっと!ぽっと出の従兄妹が、護と結婚できるわけないでしょ!」
「あら、上野さん。ただの幼馴染だって、結婚なんてできませんよ?」
にらみ合うバーサーカーと死神。
まさに一触即発の状況。
「あれ?俺逃げられるんじゃね?」
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