2-12





「さてみんな、ルールは先ほど聞いた通り。ミナモ姫を裸にすれば僕たちの勝利だ」


 男子チームのリーダー?として、久賀くんが全体を仕切り始めた。俺としては助かるけど、この人も思い込んだら一直線のアホだからなぁ。どうなるのかちょっと心配だ。


「しかしこれはレクリエーション、つまり互いを知るための交流会だ。身も心も全てさらけ出して、初めて真の友情、信頼を勝ち取ることができる!だから、全員を裸にしなければならない!」

「「「「「うおおおおおおおおおおぉ!」」」」」


 久賀くんの熱意に、雄たけびで返す異世界貴族の子息たち。結局、どこの世界でも、どんな立場であっても、思春期男子はスケベだということだ。


「うぇいうぇ~い。中里く~ん?な~に後方腕組みで、俺は興味ありませ~んアピール決めちゃってんのさ~」

「きたな、カス」

「ちょちょ~!先生にカス、はね~っしょ。粕川センセって呼んで欲しいな~」


 うっさい耳元ででかい声を出すな肩を組むな気色悪いから近づくんじゃねえよ!


「中里くんもさ~、ちゃんと楽しんでよレクリエーション。せっかくみんなで楽しめるように準備したんだからさ~」

「そりゃあ、なぜか男子チームはすごい盛り上がりを見せてますけど、女子チームは楽しめないでしょ?ルール説明の時、すっげー顔してましたよ?」


 おそらく公的な場所でしてはいけないほど、大口を開けて驚いていた。


婚約破棄を告げられた令嬢でさえ、あそこまでの大口を開けることはないだろうと思う。知らんけど。


「いや~女子は女子でちゃんと楽しめるようにしたからだいじょ~ぶ!見てみ~ほら」


 粕川先生に促されるまま、女子チームに視線を向けると、何やらミナモちゃんを中心に円陣を組んでいた。


「絶対護様を倒すぞー」

「「「「「おおぉ!」」」」」


 先ほどまであんぐりと大口を開けていたとは思えない覇気で、可愛らしく片手を天に突き上げているご令嬢たち。あと上野さんと甘楽さん。


 人前で裸にされるかもしれないというのに、いきなりどうしたというのだろうか?ちょっと怖い。


 ちなみに小雪はすでに上空で待機中。彼女も我関せずでいるようだ。


「本気でやらないと~、中里くん、すぐに裸にされちゃうよ~?1人だけ全裸って、すっげ~恥ずかしいと思うんだよね~」

「た、確かに」

「それにさ~、向こうも了承してんだから、堂々と女の子の服、脱がせちゃって良いんじゃない?むしろ、脱がせないってことは~、その子に興味がないって言ってるようなもんなんだから、失礼じゃね?」

「確かに!」

「そもそもさ~。中里くん、あんだけ美少女がたくさんいるのに、見たくね~の?は・だ・か」

「・・・・・・・・・みたい、です」

「だったら、もうやることはわかってるよね?」


 すっと手渡されたショートソード握りしめる。木剣だが、握り心地はしっくりきた。これなら、問題無く戦うことができる。


「ほらほら~、チームのみんなが大将の言葉を待ってるよ~」


 円陣を組んでいる男子チームの面々が、こちらに視線を向けていた。俺が近づいて行くと、円は割れて、半円状になって俺に跪く。


「いいかみんな。これはレクリエーションではない、戦いだ。ならば勝たねばならない。そして、勝つからには完璧な勝利が必要だ。さあ、立て。立って武器を握りしめろ!」

「「「「「「は!」」」」」」


 各々が立ち上がり、手にした武器を両手で構え、天に突き上げた。それを見て、号令をかける。


「いくぞみんな!1人残らず、討ち取るぞおおおおおおおおおおおぉ!」

「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉ!」」」」」」

「いや~、思春期の男子は扱いやすくていいわ~」


 なんかカスの声が聞こえたような気がするけど、まあいいか。こっから先は戦場だ。気合いを入れていかなければ。


「ナカザト殿!作戦はいかがいたしますか!」


 緑髪の少年が、一歩前に出て尋ねる。


「作戦?」


 いや、そんなこと言われても、敵は殴る。倒すまで殴る。以外の作戦を知らないし。1人残らず討ち取る、が作戦ではダメなのだろうか?


「我が部隊は、大将のナカサト殿を除けば12人。少なくとも、スリーマンセルで小隊を作るべきかと愚考いたします」


 3人1組を作るってこと?それが4チームできるのか。


「よし、それでは小隊分けはキミに任せよう。名前を教えてくれないか?」

「は!ウィステリアムズ・ターロウ・フォリステアであります!」

「よし、太郎くん。小隊分けを頼む」

「は!了解しました!」


 小隊分けは太郎くんにお願いするとして、その後のちゃんとした作戦を考えなければ。


 う~ん。ゲームでも作戦とか戦術っていうのはどうも苦手なんだよなぁ。どちらかというとプレイヤースキルでごり押ししちゃう方だし。


 最近の戦闘でも、筋力でごり押し、以外教わってないし。


「久賀くん、なんか作戦ないかなぁ?」

「ふむ、人数を考えれば、難しい作戦など必要ないだろう。補給や回復なども、今回に関してはほとんど必要ない。ただ、中里を守るための部隊を1つ設置する必要はあるだろうが」

「それじゃあ、俺の小隊だけフォーマンセル?にすればいいかな。俺もある程度自分の身は自分で守れるから」


 という感じで、作戦としては俺の小隊だけフォーマンセル。あとはスリーマンセルになって、各々特攻する。というシンプルな作戦が完成した。


 部隊指揮なんてできないから、これこそが最も戦いやすい作戦。


 これを作戦というようになったら、とうとう東さんの仲間入りな気もするけど・・・・・・


「ほいほ~い。そんじゃ~レクリエーション始めるよ~。そいじゃ~、はじめ~」

「「「「「「うおおおおおおおおぉ!」」」」」」


 なんとも気の抜けた開始の合図を、我がチームの男子たちの咆哮が掻き消した。それと同時に女子チームへと突貫し・・・・・・


「「アースウォール」」

「「アイスウォール」」

「「「「「ぶへ!」」」」」」


 突如出現した岩の壁や氷の壁に激突した。


「今です!討ち取りなさい!」

「フレイムニードル」

「ファイヤーボール」

「ファイヤーバレッド」

「「「「「「ぎやあああああああぁ!」」」」」」


 足を止められてしまった男子たちに、炎の塊が降り注ぐ。まさに阿鼻叫喚の灼熱地獄。


ダメージによる破裂なのか、たんに焼けただけなのか、攻撃を受けた男子たちはあっという間に裸に剥かれてしまった。あ、さっきの太郎くんもいっしょだったみたいだ。


「は~い、男子チーム8名脱落~。残り5名で~す」


 8人が脱落?残りが5人?あ~、つまりは今の一瞬でうちの小隊以外全滅したってことかぁ。マジかよ!


「さて、残るは護様たちだけですね。降参なさいますか?」


 遥か後方から、凛と透き通った声が聞こえてくる。ただ、姿は見えない。


開始と同時に、氷や土の魔法を発動して壁を大量に出現させ、陣地を構築したようだ。


「ほらほらほら~姫様もこう言ってるんだしさ~、とっとと降参しちゃいなよマモルく~ん!」


 壁の隙間からちらりと顔を出した甘楽さんが笑う。


 降参?まだ始まったばかりのこんな序盤で降参だと?


 確かにすでに人数差は歴然。あちらは周到に陣地を構築しているのに対して、こちらはほぼ丸裸の状態だ。


 勝ち目なんて、果たして本当にあるのだろうか?


 もしかしたら、ここから勝つことは難しいかもしれない。でも、でもさ。まだ、俺たちは何もできていないんだ。


「まだ誰の裸も見てないのに、あきらめることなんてできない!いいか、みんな、まだあきらめるな!楽園は、この地獄を抜けた先に必ずある!いくぞおおおおおおおぉ!」

「「「「おおおおおおおおおおおぉ!」」」」


 そして俺たちは、魔法が降り注ぐ訓練場を駆け抜ける。







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