2-9





「はぁ~、本物のメイドさんが淹れてくれた紅茶うまぁ~」


 どこの茶葉だとか説明されても全然わからなかったけど、この温かさにホッと心が落ち着いていくのがわかる。


 何よりも、メイドさんが淹れてくれたってだけでありがたみがあると言うものだろう。


はぁ、俺も自分のメイドさんを雇って、紅茶を淹れてもらったり、ラブ注入してもらったり、一緒にゲームしたり、膝枕で耳掃除してもらったりとかしたいなぁ。


そしたら一生ひきこもってられるわ。


「あの、中里くん?そろそろ現実に戻って来てくれますか?」

「できればもう少し妄想の沼に浸かっていたいです」

「それ、抜け出せるんですか?」

「いやだな、抜け出せないから沼るって言うんですよ」

「もう沼ってた!」


 王子様との決闘はどうにか終わったけど、今日のスケジュールはまだまだ終わらない。


 午後からは、ミナモちゃんの国の貴族子息や子女とのお茶会が控えている。


おそらく彼らはお茶会なんて日常茶飯事。そんな相手を普通の高校生がおもてなしなんて、考えただけで憂鬱になる。


 このまま妄想の沼の中をたゆたっていたいと思うのは当然のことだ。


「せめて紅茶の銘柄と産地だけでも憶えて欲しいんですけど」

「そもそもお茶会って、なんのためにやるんですか?」

「一般的には交流が主な目的ですかね。商談や交渉の前段階で行ったり、お見合いを目的に行う場合もありますけど」


 交流会か~。


 そう言えば、中学の頃もクラス替えのたびにそんなことやってたな~。


行ったら行ったで面倒だし、行かなきゃ行かないで面倒だった。どこの世界でも似たようなもんなんだな。


「なら、普通の高校生らしい交流会でもやる?」

「う゛ぇ!」

「小雪さん、どっから声出したの?」

「ま、まま、護くん。ほ、本当に、高校生がやってるような交流会をやるの?」

「え?ダメかな?そっちのほうが作法とかは気を遣わなくて楽だと思うんだけど」

「・・・・・・楽、かなぁ」


 表情を見るだけで、やりたくないのだけははっきりとわかった。


「もしかして、なんか嫌な思い出でもある?」

「・・・・・・聞きたい?」


これは完全にやらかしたと思ったときには、すでに小雪の目のハイライトは焼失し、虚空を見つめていた。


「こ、交流会と言っても、飲み物とお菓子でも買ってさ、教室でやるようなやつだよ」

「へ~、そんなの、私、知らないな~。もしかしたら、クラスのみんなで、やってたかもしれないけど、わ・た・し、は、誘われなかったからな~」

「じゃ、じゃあ、一緒にゲームとかしようよ!」

「・・・・・・どうせエッチなやつでしょ?」

「は?そんなのやらないでしょ?クラスのみんなで遊ぶんだよ?女子もいるのに、できるわけないじゃん!」


 いくら思春期だからって・・・いや、思春期だからこそ、そんなエッチなゲームなんて提案できるわけないじゃん!


 そんなん女子に提案できるヤツおる?


「うそだね!男子はそうやって女子を誘って、流れでエッチなことするんだもん!最初はソフトタッチから、徐々にハードタッチになってくんだ!そ、それで・・・・・・最終的には、その、お、お持ち帰りとか、しちゃうんでしょ?」

「しないよ!なにその大学サークルの飲み会みたいなノリ。中学生がそこまでするわけ・・・・・・ないよね?」


 もしかして俺がそういう遊びに誘われなかっただけで、実はそういういかがわしい遊びが横行してたのか?


 俺もカーストでいえば上位にいたわけじゃない。普通な俺はクラス内でも中間的な立ち位置だった。もしや、カースト上位の殿上人たちは、そんないけない遊びを繰り返していたというのか!


「いや、さすがにそこまで露骨にエッチな遊びなんてなかったよ。お持ち帰りって言い方はちょっと違うけど、良い感じになって抜けてく子はいたかもだけど」

「つまり、お持ち帰りはあると?」

「だから!そのあとどこにいったかは知らないってば!」

「ちなみに上野さんは、そういうお誘い多かったんじゃないの?お持ち帰られなかった?」


 やめろ小雪!そんな生々しいこと聞くんじゃない!お持ち帰られた話なんか聞いたら、気まずくなっちゃうでしょうが!


「あ、アタシはそういうの、あんまいかなかったし?お持ち帰りなんてされたことないよ!護、大丈夫だからね?」


 いや、そんな必死に説明されても困りますけど、そもそも上野さんの場合、特定の男子と遊ぶなんてできなかっただろう。


暗黙のルールで、告白はオッケーだけど、プライベートでのお誘い禁止みたいな暗黙のルールがあったし。


誰かが抜け駆けすれば、次の日に血の雨が降っただろうな。


「でもほら、教室でできるゲームとかなら知ってるよ。教えてあげるから、護、一緒にやってみない?」

「え?俺ですか?」


 なぜか上野さんは椅子を移動させて、俺の正面にやって来た。テーブルを挟まないので、少し前に出るだけで、膝がぶつかってしまいそうなほど近い。


「え、えっとね。あ、愛してるゲームって言うのがあるんだけど」

「ああ!少し前に流行ったやつですね」


 一時期ラブコメ漫画ではかなりの作品がネタにしてたな。小学生のときに好きだった漫画でもやってた。


 あの時はよく意味わからなかったけど、この年になると、その危険性は十分に理解できる。


 なので俺は、すっと席を立ちあがり、代わりにミナモちゃんを座らせた。


「ちょっと!なんで交代したの!護が相手してくれないと意味無いじゃん!」

「いやいやいや、何言ってるんですか!男女でそんな遊びできるわけないじゃないですか、ハレンチですよ!」

「あ、あの、護様?どうして私がここに座らされたのでしょうか?は、破廉恥な遊びをするのなら、別室で護様と2人で・・・・・・」

「いや、女子同士ならハレンチにならないよ。まあ、男子同士だと地獄絵図だろうけど、女の子同士なら、きっと良い物が見れる(主に俺が)」


 それにしても、お姫様口調はちょっと距離感を感じる。丁寧な口調で素敵だと思うけど、高校生がその口調なのはどうだろうか?


「ミナモちゃん、初めて会ったときみたいな口調の方が良いよ。公式の場や、年上を相手にした時に敬語で話すのは仕方ないとして、友達同士なら、もっと砕けた口調にしなきゃ」

「こんな感じ?」

「そうそう。できれば、他の貴族のお嬢様型にも教えてあげてほしい。日本の文化を学びに来たんだもん。郷に入りては郷に従え、だよ?」

「う~ん、少し時間かかるかもしれないけど、わかったよ~!」


 そうなれば、周りも接しやすくなると思うんだよね。


「それじゃあ、さっそく愛してるゲーム、やってみる?」

「「やらない!」」

「なんで!」

「「相手が護(お兄ちゃん)じゃないから!」」


 いや、この後のお茶会あらため交流会でやるゲームの候補なんだから、ちょっとくらい練習しときなさいよ。


 百合の属性はないけど、美人の上野さんと可愛いミナモちゃんが、お互いに愛してる、なんて言い合ってたら絵になると思うんだよねぇ。


「ね、ねえ護くん。その愛してるゲームって、エッチな遊びじゃないんだよね?」

「違うよ?試しにやってみる?」

「う、うん。エッチじゃないなら」

「じゃあまずは、お互いに見つめ合って―――」

「「ちょおっと待ったああああああああぁ!」」


 小雪の方に体ごと向き直ると、なぜか上野さんとミナモちゃんが滑り込んできた。部屋の中なんだから、狭い距離を走り回るなってば。


「なんでアタシとはやらないのに、月夜野さんとはやるの?」

「私だってよくわからないんだから、お兄ちゃんがやり方教えてよ~」


 いや、上野さんが提案したんだから、ミナモちゃんには上野さんが教えてあげれば良いと思うんだけど、なんか間違ってるかな?





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