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「皆さんはじめまして~。風守学院高等部『チーム・スノーシールド』の護です!」
「はじめまして。同じく『チーム・スノーシールド』のユキで~す」
さて、俺たちが今なにをしているのかと言うと、X-チューンという動画サイトに投稿するための撮影会だ。
なぜこんなことをしているのかと言えば、うちの父親がうっかり公式な場でやらかしてしまった発言に対する、ささやかな抵抗だ。
地球の人間が異世界で叙爵されるなんてのは、世界が統合されてから初めてのことだったので、世界中のメディアがこぞって押しかけ、公共の電波で情報が拡散されてしまった。
俺は『フォルティア王国第一王女の婚約者』として、顔写真付きで世界中に晒されているらしい。
同級生がインタビューされて、俺の人柄や過去など、あることないこと言いふらしていたのは絶対に許さない。実家に帰ることができたら絶対にデコが真っ赤になるまでデコピンしてやろう。
そんなわけで、正式な発表ではないにも関わらず、世論が認めてしまえばこちらも婚約を受け入れなくてはならなくなるかもしれない。
そうなる前に、こちらも世界中に俺はミナモちゃんと婚約していないということを拡散したい。でも、風守学院は関係者以外立ち入り禁止だ。メディアを受け入れることはできない。じゃあ、X-チューンで動画投稿すればよくね?
ということで、チャンネル開設することになった。
学院側も、入学生にはバディごとにチャンネルを持たせて、ダンジョンやスキル、異世界の情報を広めさせようと思っていたらしく、話はスムーズに進んだ。
ただ、生配信をするだけの勇気はなかったので、録画して編集した動画を投稿することにした。ちなみに、今のあいさつのところだけですでに5回は撮り直してる。
「とりあえず、今回の動画では私たちの自己紹介と、このチャンネルの方針を説明するって感じで良いかな?」
「そうだね。まあ、あんまり頻繁に配信はしないと思うけど」
「えぇ~、毎日私たちのラブラブっぷりを配信しても良いんだよ~?」
台本と全然違うんですが?なんだよラブラブっぷりを配信って。言い方が古い!いやいや、そういう問題じゃなくて、そんなことしたら別の勘違いされるわ!
あと、そんな腕を絡めて近づいてこないでください!
「ちょっとつき・・・・・・ユキさん!護にくっつきすぎじゃない?護が嫌がってるでしょ!」
「え、あ、ごめんね護くん。私、また調子に乗っちゃったみたいで」
もうこれ、完全に計算してやってるんじゃないですかね?そんな悲しそうな顔を向けられたら、嫌だなんて死んでも言えないでしょ!
「い、いや。大丈夫だよ、俺別に嫌がってないから!」
「そ、そうか。良かったぁ」
でも少しは離れて欲しい。過度なボディタッチは理性の敵なので。
ちなみにカメラは大間々先生。カンペを上野さんが出してくれてる。というか、さっきから普通に上野さんの声まで入っちゃってるんですけどね。
「とりあえずユキさん。まずは自己紹介をしておこうよ」
「はいはい!護くんのバディのユキです。もうすぐ風守学院高等部の1年に入学します」
「それだけ?ユキさんの持ってる特別なスキルの話とか――」
「ぎゃああああああぁ!その話は絶対ダメだよ!皆さん、私は特別なスキルなんて持ってませんよ~!それに、スキルは個人情報なんだから、公にはしちゃダメだよ。乙女の秘密ですぅ」
「あ、うん。はい。じゃあ俺も名前だけで。護です、よろしくお願いします」
あいさつが終わったところで、上野さんがこちらに向かってカンペを出した。
『彼女はいません!』
「え、えぇっと・・・・・・」
たしかに正式な婚約はしていないって公言するための動画なんだけど、婚約者はいませんって言うのと、彼女はいませんって言うのとではニュアンス違くない?
普通の中坊が婚約者いないのは当然だけど、ここでははっきりと婚約者がいないことを公言した方が良いんじゃないかな?
「世間では俺がフォルティア王国の第一王女殿下と婚約してるって噂があるらしいですけど、婚約はしていません。俺に婚約者はいません」
よしよし、上手く言えたんじゃなかろうか。これで目的が達成できたのでは?
なぜか上野さんはカンペをぱらりとめくり、新しい台詞が書かれている。
『彼女もいません!でも、可愛い幼馴染みはいます!』
意味わからんのだが?なんで自信たっぷりでカンペのボードをバンバン叩いてるのかなぁ?
「いや、可愛い幼馴染みっていってもほとんど付き合いなかったんじゃ・・・・・・ま、まあ、護くんには相棒の私がいるんだから、彼女ができなくても気を落とさないで!」
『ユキさんよりアタシのほうが付き合い長いんだからね!』
「あ、ごめんなさい。別に上野さんに張り合おうとしたわけじゃないんだよ?ただ、私も護くんと仲良しだって伝えたくて。もちろん、上野さんが護くんを大事だって思ってるのはわかってるよ?」
『ごめん、アタシもそんなつもりなかった。ユキさんだって、護のことを思ってくれてるのに』
「『・・・・・・』」
黙っちゃったよ。
なんでカンペ越しの会話でしんとしちゃうんだよビックリだわ!俺の話題だったのに、俺だけ置いてきぼりにされるってなんなの?
「さ、さて、俺には婚約者も彼女もいないってわかったところで、このチャンネルでは何をするのかを紹介していきましょう」
「う、うん。このチャンネルでは、基本的に風守学院のことを中心に――」
「ダンジョンだ!」
せっかく持ち直してきたのに、なんでいきなり出てくるんだよこの筋肉!
いったいどこに潜んでいやがったんだ。
「あれだろ?地球ではダンジョンの攻略配信とかが流行ってるんだろ?だったら、お前らもそれをやりゃあ良いだろ」
「いや、たしかに流行ってますけど、それはあくまでフィクションの話で、リアルではそんなことしてる人いませんよ。だいたい、魔獣との戦闘なんてグロで一発アカウント停止になるんじゃないですか?」
「あかうんとていし?なんだそりゃ。一発でやっつけられるなら強えじゃねえか!」
この人、いつの時代の日本から召喚された人なんだろう?いや、攻略配信って単語を知ってるんだから、少なくともX-チューンについては知ってるはずだ。
知らないふりして無理矢理俺たちをダンジョンに挑戦させようとしてるんじゃないだろうな。
「ダンジョン攻略がダメなら、俺たちの訓練を配信するか?戦闘シーンならけっこう盛り上がんだろ」
訓練シーンかぁ。小雪がよくゲロってるし、俺は血だらけになることが多いんだよなぁ。俺のはグロでダメだし、小雪のはゲロで尊厳的にダメだよな。
チラリと大間々先生に視線を向けると、可愛く小さなため息をついて片手で杖を構えた。
「アイスランス!」
「っふん!」
大間々先生から放たれた氷の槍は、東さんの拳によって粉砕された。砕かれた氷の破片がおでこに直撃して地味に痛い。
「ちょっと!なんで砕いちゃうんですか!」
「いや、砕かないと痛えだろ?」
「痛えだろ?じゃないですよこのおバカ!護様のお邪魔になっているから吹っ飛ばそうとしたんです!だから東さんはとっとと退場してください」
「ちぇ、せっかく俺もXチューナーってやつになれると思ったのによ」
やっぱ動画配信のこと知ってるんじゃねえかこの筋肉!だったら自分のチャンネルでも立ち上げて勝手にやってほしいものだ。
「ねぇ~、これってもう撮り直しだよねぇ?どこからやり直すの~?」
「つ、月夜野さん。もし疲れたんならアタシが代わってあげるけど」
「あ、いや、護くんのバディは私だから、さすがに代わってもらえないよ?」
「ほら、とっととフレームアウトしてください。東さん体が大きすぎて見切れてるから怖いんですよぉ!」
「なっはっはっは。護だってすぐに俺くれえの大きさになるって」
「それだけは絶対止めてください。私が王妃様に怒られますから」
「・・・・・・はぁ」
これじゃあ当然撮り直しだよね。
まったく、俺は普通に平凡な生活がしたかっただけなのに。なんでこんなに非常識な生活を送っているんだろう。
こんな非常識な非日常が、いつの間にか俺の当たり前の日常になってるなんてな。ほんのちょっと心地良いと思ってる自分に気がついて、苦笑してしまった。
ちなみに、この後動画は粕川先生が勝手に編集してアップしていた。
台本もなにも関係ないそれが、一晩で1万再生されたのはまた別の話だ。
ここで第1章はお終いです。長らくお付き合いくださりありがとうございました。引き続き第2章をよろしくお願いします。そんなに間を空けないで掲載できるかと・・・・・・
ここで皆様にお願いです。
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