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冷え切った眼差しを向けてくる2人の美少女に、できれば近づきたくはないなぁ。
何にお怒りなのかはわからないけど、怒っているのだけはわかる。そして、今会話をしても怒られるだけだということも。
「とりあえず、帰りましょうか?」
「いや~、さすがにあれを放置ってやばいっしょ」
「え?ちょちょ!押さないでくださいよ粕川先生!」
もの凄い力でぐいぐいと背中を押す粕川先生。もちろん押し出されるその先にいるのは小雪と上野さんなわけで、全力で抵抗しているんだけど、俺の体は地面に溝を作りながら徐々に彼女たちの元に近づいていく。
「あ、あの、2人とも?」
「どうしたの、護くん。さっきの戦いで疲れちゃった?」
「もしかして、どこかケガしてる?治療しようか?」
目の前に突き出された俺を、なぜか心配してくれる2人の美少女。
どうしたことか、先ほどまでの冷たい眼差しはどこにもなく、むしろ温かく俺を迎えてくれた。
「俺は大丈夫だよ?たしかにちょっと疲れたかもしれないけど、ケガは完全に治っちゃったから」
ひかりの盾のおかげで、常に回復状態だった俺は、大島さんとの戦闘中に全身の火傷が完全に治っていた。すでに痛くもかゆくもない状態なのだ。
「うんうん。急に護くんの腕に盾が現れたかと思ったら、その盾が勝手にケガは治しちゃうし、攻撃は全部弾いちゃったもんね~。あれって、もしかして上野さんから祝福が贈られた効果ってこと?」
おや?小雪さんの周囲の気温が下がった気が?いやいや、さっきみたいに冷たい視線は向けられていない。大丈夫なはずだ。
「う、うん。上野さんの祈りがスキルとして展開された?みたいな感じ。あの盾はそのスキルの一部みたいなんだよね」
「へ~。じゃあやっぱり『乙女の祈り』ってやつなんだね。女の子が、生涯、たった1人にしか贈れないって言ってた」
「え、あ、はい。そっすねぇ」
やばいやばい。小雪の瞳からハイライトが消えかけてる!どうにか話題をそらさないと!
「そんなことより――」
「そんなこと?女の子の一大事をそんなことですませる気?」
「はい、すいません」
はい話題そらし失敗!しかも大事故決定。完全に踏んではいけない地雷を踏み抜いてしまったらしい。小雪のお怒りスイッチが完全に入ってしまった。
「たしかにさ、あの状況で祝福を贈られても、気を失ってた護くんにはどうすることもできなかったっていうのはわかってるよ?あんなのは、無理矢理既成事実を作られただけだってさぁ」
「あ、その、月夜野さん?それだとアタシが悪いみたいじゃない?」
小雪の言葉にダメージを受けていたのは、上野さんだったようだ。まあ、俺は意識を失っていたし、緊急事態だったんだからしかたないとは思うんだけど。
「ああ、ごめんなさい上野さん。あなたを責めたつもりはないんだよ?ただほら、いくら緊急事態だったからとはいえ、生涯に1度しか使えないっていう祝福を贈っちゃった上野さんは、間違いなく被害者だもんね」
「な、なるほど。たしかに緊急事態だったからって俺なんかにそんな大事な祝福を使っちゃったんだ。そんなこと、ですませていい話じゃなかった」
「そうそう。ちゃんと申し訳ない気持ちを持ってね。それから、緊急事態で仕方なかったんだから、変な勘違いはしちゃダメなんだよ?」
変な勘違い?ああ、もしかしたら上野さんが俺を好きなんじゃないかって、勘違いしないか心配してくれてるのか。
ふっふっふ、こう見えて俺は自分が平凡な人間だとよく理解している男だ。中学生によくある、目が合っただけで、「あれ?こいつ俺のこと好きなんじゃね?」なんて勘違いはしない男。
ただ、小雪の助言がなければ、今回は勘違いしちゃうところだった。だって、この間好感度を測ったときだって上野さんの好感度めちゃくちゃ高かったし。
スキルのテキストにも、『共に歩みたいと祈りを込められた』みたいなことが書かれていたからなぁ。
「ちょっと月夜野さん!べ、べべ、別になんの勘違いも無いんじゃない?あ、アタシは護に祝福を贈れて、その、よ、良かったと思ってるし」
「あの状況で護くんに祝福が贈れなかったら、全滅だったかもしれないもんね。まあ、この件はどうしようもない事故だったってことで、終わりにしよ?それより、もっと重要な話があったよね?」
そうだな。どうしようもないことだった。それであきらめてもらうしかないだろう。俺としては強力なスキルをもらってしまったので、特に不利益は無いわけだし・・・・・・いや、そんな強力なスキル持ってたら、異世界関係から離れられなくない?
「もっと重要な話って?」
「護くんとお姫様の婚約についてです!」
ああああああぁ!そういえばその話があったかああああああああ!
「で、でもそれこそ俺のせいじゃないっていうか?そもそもお父さんがぽろっと余計なこと言っちゃっただけで、正式に婚約したわけじゃないし」
そうだよね?正式なものじゃないんだよね?
すがるように大間々先生に視線を向けるが、なぜか彼女は俺からそっと視線を外した。
いやいやいや?もしかして、もう訂正できないような状況になってるんじゃないだろうな?
「護くん、いつの間にお姫様と婚約なんかしてたの?私、全然聞いてないんだけど?」
「俺だって知らないよ!たしかに水姫さん、フォルティア王国の王妃様から婚約についての話はされたけど、俺は了承しなかったし、王妃様もそれを受け入れてくれたよ」
「それをそのまま信じてしまうとは、まだまだ子どもですね、護様。契約書を交わしたわけでもなく、ただの口約束にどれほどの効果があるでしょう?」
た、たしかに口約束なんか当てにならんかもしれない。でも、あの場ではミナモちゃんにも3年以内に俺から言質を取るようにって言ってたし・・・・・・
いや、たしかに言質がとれなければ婚約をあきらめるとも、卒業まで待つとも言ってなかった気がする。
「隙を見せた相手を徹底的に叩く。貴族の基本ですね」
「隙を見せたのは、俺じゃなくて父親なんですけどねぇ。貴族になった瞬間にやらかすとか、本当にこれから貴族としてやってけるのかよ」
「だ、大丈夫ですよ?仕事に関しては優秀な補佐官が着きますし、身の回りも執事やメイドがフォローいたしますので」
実質ただのお飾りじゃん。まあ、遊んで暮らせるって喜んでたから、そっちの方が良いのかもしれないけどさ。
それに、リアル執事とリアルメイドか。メイドさんには1度お目にかかりたいような気がする。
「おじさんの話より、今は護の話でしょ!正式な発表じゃないなら、今からでもどうにかなるんじゃない?」
なるかなぁ?まあ、婚約はあくまで婚約だし、必ず結婚しなければいけないってわけでもないし。上野さんが言うように、正式な発表をしたわけでもないから、どうにかなるのかも?
「でも、具体的にはどうするの?」
「護には、べ、別の婚約者がいるって話にするとか?ま、まあ?その役は、幼馴染みのアタシが適任だと思うんだけど?」
「ちょおっと待った!今までろくに接点のなかった幼馴染みといきなり婚約とか、ちょっとおかしいと思うよ!それに、生涯で1度しか贈れない祝福を贈っちゃった上野さんに、これ以上迷惑かけるわけにはいかないんじゃない?」
「それは迷惑じゃないって言ったじゃん!月夜野さん、さっきからアタシと護を遠ざけようとしてない?」
「別にそんなことないよ?ただ、これ以上上野さんに迷惑かけるのはダメかなって。もし誰かが婚約者の役をやる必要があるなら、バディである私が適任だとは思うけどね」
いや、そもそも婚約者役を用意する必要はないと思うんだけどなぁ。
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